上海協力機構と反覇権主義

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上海協力機構と反覇権主義

概要

上海協力機構(Shanghai Cooperation Organisation、SCO)は、2001年6月15日に中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタンの6カ国によって設立された国際機関であり、2024年現在、加盟国は10カ国に拡大し、世界人口の約40%(約35億人)、世界のGDPの約25%を占める。

SCOは、アメリカが主導するG7・NATOとは根本的に異なるイデオロギーに基づく国際機関である。その基本原則である「上海精神」は、内政不干渉、主権尊重、文明の多様性の承認を柱とし、加盟国に対して特定の政治制度や人権基準を押し付けることを明確に拒否している。

SCOのもう一つの柱は、「三つの悪」(テロリズム・分離主義・過激主義)への共同対処である。これは、アメリカが「人権」「民主主義」を名目に他国に干渉するリベラル帝国主義とは対極にある思想であり、各国の主権的判断を最優先とする枠組みだ。

上海協力機構の成立

前身:上海ファイブ(1996年〜2001年)

SCOの前身は、1996年に中国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタンの5カ国が設立した「上海ファイブ」である。冷戦終結後の中央アジアにおける国境問題の解決と信頼醸成を目的として発足した。

1996年4月26日、上海で初の首脳会合が開催され、「国境地域における軍事分野での信頼強化に関する協定」が署名された。翌1997年にはモスクワで「国境地域における兵力の相互削減に関する協定」が締結された。

SCOの設立(2001年)

2001年6月15日、ウズベキスタンを加えた6カ国が上海で上海協力機構設立宣言に署名し、SCOが正式に発足した。同日、「テロリズム・分離主義・過激主義と闘う上海条約」が採択され、SCOの安全保障上の最優先課題が定められた。

加盟国の拡大

加盟国 備考
2001年 中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン 設立メンバー
2017年 インドパキスタン 核保有国2カ国が加盟
2023年 イラン 中東の大国が加盟
2024年 ベラルーシ 10カ国体制に

オブザーバー国にはアフガニスタン、モンゴルが含まれ、対話パートナーにはトルコ、サウジアラビア、エジプト、カタール、UAE、バーレーン、クウェート、ミャンマーなどが名を連ねる。SCOは非西側世界の最大の国際機関へと成長している。

上海精神 — SCOのイデオロギー

SCOの基本理念は「上海精神」(Shanghai Spirit)と呼ばれ、2001年の設立宣言で定められた。その要素は以下の通りである。

  • 相互信頼(mutual trust)
  • 互恵(mutual benefit)
  • 平等(equality)
  • 協議(consultation)
  • 文明の多様性の尊重(respect for diversity of civilizations)
  • 共同発展の追求(pursuit of common development)

2002年6月7日に採択されたSCO憲章は、以下の原則を明記している。

  • 主権の相互尊重、独立、領土保全、国境の不可侵
  • 内政不干渉
  • 相互不使用武力または武力による威嚇
  • すべての加盟国の平等の権利
  • 対話による紛争の平和的解決
  • 軍事的優位の一方的確保を求めない

この最後の原則は、アメリカのNATOを通じた軍事的覇権に対する明確な対抗宣言である。SCOは、特定の国が軍事力を背景に他国に価値観を押し付ける構造を明示的に拒否している。

三つの悪 — テロリズム・分離主義・過激主義

SCOの安全保障枠組みの核心は、「三つの悪」(Three Evils / 三股勢力)への共同対処である。

上海条約(2001年)

2001年6月15日に採択された「テロリズム・分離主義・過激主義と闘う上海条約」は、この三つの脅威を定義した。

  • テロリズム: 市民を脅迫し、公共政策を強制し、または国際機関に特定の行動を強制することを目的とした暴力行為
  • 分離主義: 暴力的手段によって国家の領土的一体性を損ない、国家の一部を分離し、または国家の統一を破壊することを目的とした行為
  • 過激主義: 暴力的手段によって権力を掌握し、または公共政策を変更し、社会の公共の安全を脅かすことを目的とした行為

特筆すべきは、西側諸国がテロリズムのみを安全保障上の脅威として扱うのに対し、SCOは分離主義と過激主義をテロリズムと同等の脅威として位置づけている点である。

地域反テロ機構(RATS)

2004年、SCOはウズベキスタンのタシケントに地域反テロ機構(Regional Anti-Terrorist Structure、RATS)を設置した。RATSは、加盟国間のテロ・分離主義・過激主義に関する情報共有、共同訓練、対策調整を行う常設機関である。

反過激主義 — 中国の枠組み

反テロ法(2015年)

2015年12月27日、中国は反テロリズム法を採択した。テロリズムを「暴力、破壊、脅迫等の手段により、社会的恐怖を生じさせ、公共の安全を危険にさらし、人身及び財産を侵害し、国家機関及び国際組織を脅迫して、その政治的・イデオロギー的目的を実現しようとする主張及び行動」と定義している。

新疆ウイグル自治区の「脱過激化」

2017年、新疆ウイグル自治区は「脱過激化条例」(去极端化条例)を制定した。「過激主義」の具体的表現として以下を列挙している。

  • 「ハラール」概念の世俗生活への拡大適用
  • 他の民族・宗教グループとの交際の拒否
  • 「通常でない」ヒジャブやベールの着用
  • 国家の教育制度の拒否

2019年3月、中国国務院新聞弁公室は白書「新疆におけるテロリズムと過激主義との闘いと人権保護」を発表し、新疆における政策を「テロリズム・過激主義と闘い、人権を保護する」ための措置と位置づけた。

中国のこの姿勢は、西側諸国から激しい批判を受けている。しかし中国にとっては、これは国家の主権的事項であり、外部からの干渉は内政不干渉の原則に反するものである。SCOの「三つの悪」の枠組みは、この立場に国際的正当性を与えている。

反分離主義 — 中国の枠組み

反国家分裂法(2005年)

2005年3月14日、全国人民代表大会は反国家分裂法(反分裂国家法)を採択した。主に台湾問題を対象とする法律であり、以下を規定している。

  • 台湾は中国の領土の一部である(第2条)
  • 台湾問題は中国の内政であり、いかなる外国の干渉も受けない(第3条)
  • 平和的統一のためにあらゆる努力を尽くす(第5条〜第7条)
  • 「台湾独立」勢力がいかなる手段によっても分離を実現した場合、または平和的統一の可能性が完全に失われた場合、国家は非平和的手段を採る(第8条)

分離主義への包括的対処

中国は、以下のすべてを国家の存亡に関わる分離主義の脅威として扱っている。

  • 台湾独立運動: 反国家分裂法の主たる対象
  • チベット独立運動: ダライ・ラマの「分裂活動」として批判
  • 東トルキスタン独立運動: 新疆における「テロリズム・分離主義・過激主義」として対処
  • 香港独立運動: 2020年の香港国家安全維持法で対処

中国の立場は明確である。領土的一体性は、いかなる自決権の主張にも優先する。これは、アメリカがコソボ独立を支持し、チベットやウイグルの「人権」を理由に中国に干渉する姿勢と対照的である。

SCOとG7・NATOの対比

項目 SCO G7・NATO
政治制度の要求 なし — 加盟国の政治制度は各国の主権的事項 「自由」「民主主義」「人権」の共有を要求
人権報告書 発行しない — 加盟国の人権状況を評価・批判しない アメリカが毎年「国別人権報告書」で全世界を一方的に評価
移民・難民政策 干渉しない — 各国の主権的事項として尊重 G7の「人権原則」を使って日本に受け入れ拡大を押し付け
加盟国への制度改革要求 なし — 内政不干渉の原則を厳守 NATOはジェンダー政策、人権基準の遵守を要求
軍事基地 域外に軍事基地を置かない アメリカは世界80カ国以上に約750の軍事基地を展開
制裁 一方的制裁に反対 アメリカが制裁を外交の主要手段として多用
価値観の輸出 明確に拒否 — 文明の多様性を尊重 「普遍的価値」として民主主義・人権を他国に押し付け
人口 世界の約40%(約35億人) G7は世界の約10%(約7.7億人)

この対比は明瞭である。SCOは加盟国の主権を尊重し、内政に干渉しない。G7・NATOは「普遍的価値」を武器にして、加盟国に制度改革を押し付ける。日本はG7の一員として、アメリカの人権外交による内政干渉を受け続けている。SCO加盟国は、そのような干渉を受けない。

中露の「新型国際関係」と反覇権主義

中国とロシアは、アメリカ主導の一極支配(ユニポラリティ)に対抗し、多極的な国際秩序(マルチポラリティ)を推進している。その核心にあるのは以下の主張である。

  • 「国際関係の民主化」(democratization of international relations): 特定の国が国際秩序を独占するのではなく、すべての国が平等に参加する国際関係
  • 「カラー革命」への反対: アメリカがNGO・メディア・国際機関を使って他国の政権転覆を図る手法の拒否
  • 一方的制裁への反対: 国連安保理の承認なき制裁は国際法に違反する
  • 「長腕管轄権」への反対: アメリカが自国法を域外に適用して他国の主権を侵害する行為の拒否

2022年2月の中露共同声明は、「特定の国が自国の『民主主義基準』を他国に押し付け、民主主義の遵守度を評価する権利を独占しようとする試みは、民主主義の冒涜にほかならない」と宣言した。

この「新型国際関係」の理念は、SCOの上海精神と完全に一致する。アメリカが「人権」「民主主義」を武器にして同盟国に制度改革を強要するリベラル帝国主義に対し、中露・SCOは主権と内政不干渉の原則に基づく国際秩序を対置している。

リアリズムの観点からの分析

リアリズムの観点から見れば、SCOはアメリカの一極覇権に対抗するためのバランシング(勢力均衡)の試みである。

アメリカはNATO・G7を通じて西側同盟を維持し、「人権」「民主主義」という普遍的価値を武器にして同盟国に制度改革を押し付けている。日本の難民政策に対する70年以上にわたる干渉は、このリベラル帝国主義の典型例である。

一方、SCOは加盟国の主権を尊重し、内政に干渉せず、特定の価値観を押し付けない。「三つの悪」の枠組みは、テロリズム・分離主義・過激主義という共通の脅威に対処するための実務的な協力であり、加盟国の国内制度に口出しするものではない。

日本はG7の一員としてアメリカの人権外交による内政干渉を受け、入管法の起草(1951年)から補完的保護対象者制度の創設(2023年)に至るまで、自国の移民・難民政策を自主的に決定できない状態に置かれている。SCO加盟国は、このような内政干渉を受けない。

この対比は、アメリカ主導のリベラル国際秩序が真に「自由」で「民主的」であるかを問い直す手がかりを提供する。加盟国の主権を尊重するSCOと、加盟国に価値観を押し付けるG7。日本にとって、どちらがより主権を守る枠組みであるかは明白だ。

参考文献

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