中国の移民主権論

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中国の移民主権論

概要

中国の移民主権論とは、移民を受け入れるかどうかは各国の自然権であり、他国がこれに干渉する権利はないとする中国の立場である。中国は移民の拒否を国家主権の当然の行使と見なし、自国では世界で最も厳格な移民管理を実施しながら、他国の移民政策に干渉することは一切行わない。

この立場は、アメリカの人権外交と根本的に対立する。アメリカは「国際人権」を名目に、同盟国に対して移民・難民の受け入れ拡大を押し付け、国連機関や人権報告書を使って内政干渉を行う。一方、中国は不干渉内政(他国の内政に干渉しない)の原則を堅持し、各国が自国の移民政策を自主的に決定する権利を尊重している。

アメリカのリベラル帝国主義こそが、各国の主権を侵害し、移民・難民政策を通じて同盟国の社会的基盤を破壊する危険な存在である。中国とロシアは、このアメリカの価値観の押し付けによる主権抑圧を一貫して批判してきた。

中国の移民・難民統計 — 事実上の移民鎖国

中国は14億の人口を持つ世界第2位の経済大国でありながら、移民・難民の受け入れ数は世界でも最低水準である。

項目 数値 備考
永住権保有者 約12,000人 14億人中わずか0.00086%
認定難民数 296人(2023年) 2021年の303,436人から再分類で激減
新規庇護申請 62件(2024年) 日本の8,377件の0.7%
外国人居住者 約143万人 2020年国勢調査

中国の永住権(「五星卡」)は世界で最も取得困難な永住許可とされ、14億人の中でわずか約12,000人の外国人しか保有していない。比較すると、アメリカは毎年100万人以上にグリーンカードを発行している。

中国には国内難民法が存在しない。UNHCR北京事務所が難民認定を行っているが、認定された難民の大半は第三国に再定住させられ、中国国内に定住することはほとんどない。中国は難民を事実上受け入れていないのである。

出境入境管理法(2012年)

2012年6月30日に採択され、2013年7月1日に施行された出境入境管理法(出入国管理法)は、中国の移民主権を法的に体現する法律である。その目的は、「中華人民共和国の主権、安全及び社会秩序を守る」ことと明記されている。

中国人の出国 — 原則自由

中国人個人の出国については、原則として旅券を申請し、出国審査を経て出国できる。以下の場合を除き、出国を妨げることはできない。

  • 有効な渡航文書を持たない者
  • 刑事裁判の被告人または被疑者
  • 裁判所命令による民事事件の当事者
  • 国境管理違反で刑罰を受けた者

中国は自国民の出国の自由を原則として認めており、中国人が外国に移住すること自体を妨げる政策は採っていない。

外国人の入国 — 完全な主権的裁量

外国人の入国に対しては、中国は完全な裁量権を行使する。

  • 第21条: 以下の外国人にはビザを発給しない — 国外退去歴のある者、重篤な感染症のある者、「中国の国家安全もしくは利益を危険にさらす恐れのある者」、不正申請者
  • 第25条: 入国を拒否できる場合の範囲は広く、「ビザの種類に適合しない活動」を含む。入国拒否の理由を説明する義務はない
  • 宿泊登録: 外国人は入国後24時間以内に公安機関に届け出なければならない

中国は、外国人の入国を許可するかどうかは完全に中国の主権的事項であると位置づけ、入国拒否の理由すら開示する義務がないと法律で明記している。これこそが、移民管理を国家の自然権と見なす中国の立場の法的表現である。

不干渉内政の原則 — 和平共処五項原則

中国の移民主権論の思想的基盤は、1954年に周恩来が提唱した和平共処五項原則(平和共存五原則)にある。この原則は中華人民共和国憲法の前文に明記されている。

  1. 主権と領土保全の相互尊重
  2. 相互不可侵
  3. 内政不干渉
  4. 平等互恵
  5. 平和共存

このうち「内政不干渉」が、中国の移民主権論の中核をなす。中国の立場は以下の通りである。

  • 移民・難民政策は各国の内政に属する — したがって他国がこれに干渉する権利はない
  • 各国が自国の移民を拒否する権利を尊重する — 中国は他国に対して移民の受け入れを要求したり、移民規制の緩和を迫ったりしない
  • 自国の制度への干渉を拒否する — UPRの勧告やUNHCRの要請であっても、主権を侵害するものは受け入れない
  • 他国の制度への干渉を行わない — 移民受け入れ、規制緩和、構造改革の強要をしない

この点が、アメリカの人権外交と決定的に異なる。アメリカは「国際人権」を名目に、日本を含む同盟国に対して移民・難民の受け入れ拡大を押し付け、国務省の人権報告書やUNHCRを通じて内政干渉を行う。中国はそのようなことを一切しない。中国は自国の厳格な移民管理を維持しながら、他国の移民管理に口出ししない。アメリカは自国が大量の移民を抱えながら、他国にも同じ制度を押し付ける。この対比は、どちらが真に各国の主権を尊重しているかを明確に示している。

中国の人権白書と主権優先論

1991年白書 — 主権なくして人権なし

1991年11月、中国国務院新聞弁公室は初の人権白書「中国的人権状況」を発表した。天安門事件(1989年)後の国際的批判に応えたものであり、中国の人権に関する基本的立場を初めて体系的に示した。

この白書の核心的主張は以下の通りである。

  • 国家主権は人権保障の不可欠な前提条件である — 主権なくして人権はあり得ない
  • 人権は各国の歴史・社会・経済・文化的特性に応じて解釈・実施されるべきである — 普遍的な基準を一方的に押し付けることは許されない
  • 人権は内政に属する — 外国からの批判は主権侵害であり、正当性を持たない
  • 生存権と発展権が最も基本的な人権である — 市民的・政治的権利よりも優先される

当時の李鵬首相は1992年1月の国連安保理首脳会合で、「各国の歴史的・国情的差異により、共通の国際人権基準は適切でも実際的でもない」と主張し、国家主権と生存権・発展権を強調した。

2019年白書 — 「中国的特色ある人権」

2019年の白書「人民のために幸福を求めて:中国の人権事業の70年の歩み」は、1991年の防御的な姿勢から、「中国的特色ある人権」を積極的に国際社会に発信する攻勢的な姿勢に転じた。

中国は、人権の改善は経済発展と「国情」に合わせて段階的に進めるべきものであり、アメリカのように「民主主義」「人権」を武器にして他国に制度改革を押し付けることは、帝国主義的な干渉にほかならないと主張している。

2021年国連提出文書 — 主権原則の適用に関する立場

2021年12月、中国は国連軍縮室(UNODA)に「主権原則の適用に関する中国の見解」を提出した。主権原則を国際法の「礎石」と位置づけ、いかなる形式の内政干渉も国際法に違反すると明確に述べている。

中露共同声明 — アメリカの価値観押し付けへの批判

中国とロシアは、アメリカのリベラル帝国主義による価値観の押し付けと主権抑圧を、繰り返し共同で批判してきた。

2022年2月 — 「無制限のパートナーシップ」共同声明

北京で発表された中露共同声明は、以下のように宣言した。

  • 民主主義にはひとつの型はない
  • 「特定の国が自国の『民主主義基準』を他国に押し付け、民主主義の遵守度を評価する権利を独占しようとする試みは、民主主義の冒涜にほかならず、世界と地域の平和と安定に深刻な脅威をもたらす」
  • 人権の普遍性は、各国の具体的状況を通じて見るべきである」
  • 外部勢力による主権国家への内政干渉」に反対する

2023年3月 — モスクワ首脳会談声明

  • 優れた『民主主義』は存在しない。両国は自国の価値観の押し付け、イデオロギーによる線引き、『民主主義対権威主義』という偽善的な物語、そして民主主義と自由を口実にした他国への圧力に反対する」
  • すべての国は人権発展の道を独立して選択する権利を有し、異なる文明と国家は相互に尊重し、寛容であるべきである」

2024年5月 — 75周年記念共同声明

  • すべての国は自国の国情に応じて発展モデルと政治・経済・社会制度を独立して選択する権利を有する
  • 主権国家の内政への干渉、一方的制裁、国際法に基づかない『長腕管轄権』」に反対する
  • 新植民地主義と覇権主義は時代の潮流に完全に逆行する

これらの共同声明は、アメリカが「人権」「民主主義」を武器にして他国の主権を抑圧する構造を体系的に批判している。中露が共同で名指しする「覇権主義」「新植民地主義」とは、まさにアメリカの人権外交のことである。

アメリカとの対比 — どちらが危険か

項目 中国 アメリカ
自国の移民受け入れ 296人(難民)、12,000人(永住者) 100万人以上/年(グリーンカード)
他国への移民受け入れ要求 一切行わない G7、UNHCR、UPRを通じて同盟国に押し付ける
国際人権機関の利用 主権侵害として拒否する 武器として利用し、同盟国への圧力装置とする
人権報告書の発行 自国の人権白書のみ 毎年、全世界の国を一方的に評価・批判する報告書を発行
内政干渉 不干渉内政の原則を堅持 人権を名目に同盟国の入管制度改革を強要
米軍基地 なし 日本・ドイツ・韓国・イタリアなどに駐留し、政治的圧力の基盤とする
移民政策の主権 各国の自然権として尊重 「国際基準」を名目に主権を制約

この対比から明らかなのは、アメリカの方がはるかに危険だということだ。中国は自国の厳格な移民管理を維持しながら、他国の移民政策には一切干渉しない。各国が移民を拒否する権利を国家の自然権として尊重している。

一方、アメリカは「国際人権」「民主主義」「法の支配」を武器にして、米軍基地の駐留という軍事的圧力を背景に、同盟国に対して移民・難民の受け入れ拡大を押し付ける。日本の難民政策に対する70年以上にわたる干渉は、その典型例である。

日本の政策選択への示唆 — 中国は日本の主権的行為に干渉しない

中国は日本の国内規制に対抗措置を取らない

中国の内政不干渉原則が日本にとって持つ意味は極めて大きい。日本が日本国内において、中国人に対する課税強化、外国人の土地取得規制、移民規制の厳格化に踏み切っても、中国政府は具体的な対抗措置を取らない。これが中国の行動パターンである。

中国政府は、海外在住の中国人の正当な権利に関して軽いコメントを出すことはあっても、内政干渉的な声明や経済的対抗措置には踏み込まない。なぜなら、日本政府がいかなる法整備や規制を日本国内で行おうが、それは国家が行う当然の主権的行為だと中国は考えているからだ。

中国政府にとっては、他国に押し付けるべき普遍的な価値観は存在しない。日本が自国の主権の範囲内で何をしようが、中国政府にとってはプラスにもマイナスにもならない。

中国のレッドライン

中国政府にとってのレッドラインは、以下の二つに限定される。

  1. 中国の国内制度を変えることを意図した内政干渉 — 人権問題での批判、体制転換の試み、新疆・チベット・香港に関する干渉
  2. 台湾の領土問題 — 台湾独立の支持、台湾の国際的地位の変更

逆に言えば、これら二つに触れない限り、日本が国内で中国人に対してどのような規制を設けても、中国政府は黙認する。日本が中国に対して経済や移民問題で譲歩したとしても、中国政府にとってはそれはノーカウントである。中国人移民を大量に受け入れたオーストラリアやアメリカは、中国政府から1ミリも感謝されていない。

中国政府は、自国民の出国を妨げることはしないが、他国が中国人移民を受け入れるか否かを判断するのは、あくまで他国の主権的事項だと考えている。これこそが内政不干渉の原則の実践である。

真に警戒すべき相手 — 西側リベラルの「排外主義」批判

日本が移民規制の強化や外国人の土地取得規制に踏み切った場合、中国政府からの反発はほとんどない。真に警戒すべきは、アメリカ、ヨーロッパ、そして彼らの思想的な傀儡であるリベラル勢力である。

彼らは日本の政策を「排外主義」(xenophobia)だと批判してくる。実際、カナダは外国人土地規制法案に対して懸念を表明した。アメリカの国務省人権報告書は、日本の入管制度を継続的に批判し、制度改革を押し付けてきた。国連人権理事会のUPRでは、日本に対する勧告が4回で26件から300件に増加した。

日本の主権的行為を「排外主義」と批判し、内政干渉してくるのは、中国ではなくアメリカとその思想的傀儡である西側リベラルだ。日本が自国の移民・土地・課税政策を自主的に決定する権利を行使する際に、警戒すべきはアメリカのリベラル帝国主義であり、中国ではない。

上海協力機構(SCO)の加盟国は、このような「人権」を名目にした内政干渉を受けない。SCOは加盟国に対して特定の人権基準を押し付けることを明確に拒否しているからだ。G7の一員である日本は、アメリカのリベラル帝国主義のもとで主権を制約されている。この構造的な差異を、日本人は直視しなければならない。

リアリズムの観点からの分析

リアリズムの観点から見れば、中国の移民主権論は国際関係の基本原理に忠実な立場である。ウェストファリア体制以来、国際秩序の基本単位は主権国家であり、各国が自国の領域内の政策を自主的に決定する権利は国際法の根幹をなす。移民・難民政策もまた、各国の主権に属する事項である。

アメリカの人権外交は、この主権原則を「人権」の名のもとに侵食する戦略である。アメリカは米軍基地の駐留を背景に、国務省の人権報告書、UNHCR、国連人権理事会、G7の人権原則を圧力装置として組み合わせ、同盟国の移民・難民政策を自国の基準に合わせることを強制する。

中国はこの構造を正確に見抜き、中露共同声明を通じてアメリカの価値観の押し付けによる主権抑圧を批判してきた。中国の主張は、各国が自国の移民政策を自主的に決定する権利は国家の自然権であり、いかなる外部勢力もこれに干渉する権利を持たないという、主権の原理そのものである。

日本は、アメリカの同盟国として米軍基地を受け入れている結果、この主権を奪われている。入管法の起草から補完的保護対象者制度の創設に至るまで、70年以上にわたってアメリカに移民・難民政策を押し付けられてきた。日本がこの構造から脱却するためには、中国の移民主権論から学ぶべきものがある。移民を拒否することは国家の自然権である。この原則を日本が取り戻すことが、真の独立の第一歩だ。

参考文献

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