2026年2月20日
2026年2月20日の出来事
概要
2026年2月20日は、冷戦後に構築されたアメリカ一極支配の国際秩序が、複数の断層線において同時に崩壊しつつあることを可視化した日である。ジュネーブではウクライナ・ロシア和平交渉が「困難」のまま終了し、ワシントンではトランプ大統領が「平和委員会」(Board of Peace)の第1回会合を開催してガザ復興の主導権を握ろうとした。ホルムズ海峡ではイランとアメリカが砲艦外交を展開し、韓国では尹錫悦前大統領に無期懲役が確定した。そして2月5日に失効した新START条約の余波は、核軍備管理なき世界の到来を告げている。これらの出来事は、ケネス・ウォルツが論じた国際システムのアナーキー(無政府状態)が、制度的な歯止めを失ったまま加速していることを示している。
ウクライナ・ロシア和平交渉:大国間戦争の構造的膠着
2月18日から19日にかけてジュネーブで開催されたウクライナ・ロシア直接交渉は、ロシア側首席交渉官のメジンスキーが「困難だが実務的」と表現するにとどまり、実質的な突破口は開かれなかった。1月にUAEで行われた2回の米国仲介交渉に続く3回目の協議であったが、最大の争点はドネツク州東部の残余20%の帰属をめぐる領土問題である。
戦場の現実は交渉の停滞を反映している。過去4週間(1月20日〜2月17日)でロシアは329平方キロメートルのウクライナ領土を占領したが、直近の1週間(2月10日〜17日)ではウクライナの戦術的反撃により49平方キロメートルを失った。ロシア軍のスターリンク遮断を利用したウクライナのザポリージャ方面での反撃が成果を上げている。2022年2月24日以降、ロシアが占領した面積はウクライナ全土の約13%にあたる75,584平方キロメートルに達する。
人的損失は壊滅的である。西側の推計ではロシア側の死傷者は120万人(うち2024年に43万人、2025年に41.5万人)、ウクライナ側は50万〜60万人(うち死者10万〜14万人)に上る。2月2日〜3日にはロシアがドローン450機とミサイル71発でウクライナのエネルギーインフラを攻撃し、発電能力の70%が破壊された。キエフでは1日3〜4時間しか電力が供給されず、60万人が首都を離れた。
リアリズムの観点から見れば、この戦争はミアシャイマーが開戦前から警告していたNATO東方拡大の帰結である。しかし同時に、ロシアのウクライナ侵攻は明白な国家主権の侵害であり、ウクライナ民族の民族自決権に対する帝国主義的な攻撃にほかならない。帝国主義批判の論理的一貫性を維持するならば、アメリカのNATO拡大もロシアの軍事侵攻も、ともに批判されなければならない。
トランプの「平和委員会」が和平を推進する一方で、ヨーロッパ諸国はこの委員会への参加を拒否し、プーチンの招待にも反発している。ここに現れているのは、和平の主導権をめぐる覇権国間の闘争である。アメリカは和平を主導することでヨーロッパに対する影響力を維持しようとし、ヨーロッパ諸国はアメリカ主導の和平がウクライナの領土的一体性を犠牲にすることを恐れている。
新START条約の失効:核軍備管理体制の終焉
2026年2月5日、米露間の最後の核軍備管理条約である新START条約が失効した。これにより、1972年のABM条約以来半世紀以上にわたって米露間の核軍拡競争に歯止めをかけてきた条約体制が完全に消滅した。
国連のグテーレス事務総長は「半世紀以上ぶりに、戦略核兵器庫に対する拘束力のある制限がない世界に直面している」と警告した。新START条約は、両国の配備済み戦略核弾頭を各1,550発、配備済み運搬手段を各700基に制限し、相互査察を義務付けていた。世界の核兵器の87%を保有する米露両国が、何の制約もなく核戦力を増強できる時代が到来した。
ロシアは2023年に条約の履行を停止し、査察とデータ交換を拒否していた。プーチンは2025年9月に条約失効後も1年間は上限を遵守する用意があると表明したが、アメリカ側は沈黙で応じた。トランプ大統領は失効当日、「新しく改善された条約に向けて取り組むべきだ」とSNSに投稿したが、ルビオ国務長官は中国が参加しない限り軍備管理交渉には応じないと明言した。
これは、核の世界における法の支配の消滅を意味する。国際的な条約体制は、大国間のパワーバランスを制度的に安定化させる機能を持っていた。その消滅は、トゥキュディデスの罠を制御する最後のメカニズムが失われたことを意味する。中国は核戦力の急速な近代化・拡大を進めており、米露中の三極核軍拡競争の時代が幕を開けた。
トランプ「平和委員会」とガザ復興:覇権の再編装置
2月19日から20日にかけて、トランプ大統領が主導する「平和委員会」(Board of Peace)の第1回会合がワシントンで開催された。サウジアラビア、エジプト、トルコ、イスラエル、インドネシアなど20カ国以上が参加し、加盟国は70億ドルのガザ復興資金を拠出、アメリカは100億ドルの追加拠出を表明した。トランプは義理の息子ジャレッド・クシュナーを特別和平特使に任命する意向を示した。
しかし、イギリス、フランス、カナダといった主要同盟国は欠席し、ベラルーシもプーチンの同盟国でありながら参加を見送った。この構図は、「平和委員会」がガザ復興のための多国間機構ではなく、アメリカが中東秩序を再設計するための覇権装置であることを示している。
停戦第2フェーズが1月16日に開始されたにもかかわらず、ガザの現実は壊滅的なままである。停戦発効以降591名のパレスチナ人がイスラエル軍に殺害され、イスラエルは依然としてガザの50%を軍事的に支配している。2023年10月7日以降のパレスチナ人死者は72,000人を超え、住民の90%が避難民となった。
ここでも法の支配の選択的適用が顕著である。トランプはガザ「復興」を語りながら、イスラエルの軍事行動を制止しない。復興資金の拠出は、破壊の責任を問わないまま、アメリカ主導の中東秩序にアラブ諸国を組み込むための仕掛けにほかならない。パレスチナ人の民族自決権は、この構図の中で体系的に無視されている。
米イラン砲艦外交:ホルムズ海峡の緊張
2月20日、イランとアメリカの対立はペルシャ湾で物理的に衝突寸前の状態にある。2月3日にはイラン革命防衛隊(IRGC)の高速艇6隻がホルムズ海峡でアメリカのタンカーを拿捕しようとし、米駆逐艦マクフォールがこれを阻止した。空母エイブラハム・リンカーンに接近したイランのシャヘド139ドローンをF-35が撃墜する事態も発生した。2月17日にはイランが実弾演習の一環としてホルムズ海峡の一部を封鎖した。
アメリカは空母2隻を含む大規模な軍事力を中東に集結させている。トランプ大統領は2月13日にフォートブラッグで「イランの体制転換が最善の結果だ」と宣言し、顧問は「数週間以内に軍事行動が起きる確率は90%」と述べた。一方で、ジュネーブではオマーン仲介の核協議が並行して進行している。
この構図は、1953年のモサッデク政権転覆以来のアメリカによるイランの国家主権侵害の延長線上にある。CIAの政権転覆工作からベネズエラのマドゥロ拘束に至るまで、アメリカは気に入らない政権を力で排除するパターンを繰り返している。核協議と軍事威嚇の同時進行は、「交渉」が軍事行動の正当化のためのアリバイにすぎないことを示唆している。
ベネズエラ:アメリカ帝国主義の露骨な発露
2026年1月3日にアメリカ軍のデルタフォースがカラカスの軍事施設を攻撃し、現職大統領マドゥロを拘束・ニューヨークに移送した事件は、2月20日現在も国際法上の大きな争点であり続けている。
アメリカはこの作戦を「麻薬テロリズムに対する法執行措置」と主張したが、チャタムハウス(王立国際問題研究所)は「米軍のベネズエラ攻撃とマドゥロ拘束は国際法上の正当性を持たない」と明言した。国連安全保障理事会では中国とロシアがマドゥロの即時釈放を要求したが、アメリカは拒否した。ブラジル、メキシコ、フランス、スペインなど多数の国がアメリカの行動を非難した。
トランプ大統領は「移行が完了するまでアメリカがベネズエラを運営する」と述べた。これは21世紀における最も露骨な帝国主義的行動であり、国家主権の原則に対する正面からの挑戦である。保守ぺディアは帝国主義を一貫して批判する立場から、マドゥロ政権の性質を問わず、主権国家の現職大統領を軍事力で拘束・移送するアメリカの行為を強く非難する。
この事件は、アメリカの「法の支配」がいかに恣意的であるかを証明している。マドゥロへの麻薬関連の起訴は、法的手段を装った政権転覆にほかならない。同じ基準を適用すれば、CIAが関与してきた世界中の麻薬取引ネットワーク——アフガニスタンのアヘン、中南米のコントラへの資金供給——も同様に裁かれなければならないはずだ。しかし、法の支配は覇権国には適用されない。
高市早苗の軍拡路線:偽日本国憲法の変質
2月20日現在、高市早苗首相の安全保障政策が日本の戦後体制を根本的に変えようとしている。自民党は衆議院で316議席を獲得して3分の2の圧倒的多数を確保し、憲法改正の発議が手続き上可能になった。
高市政権は防衛費をGDP比2%に前倒しで達成し、2026年度予算は前年比9.4%増の過去最大規模となった。射程1,000キロメートルの国産12式地対艦誘導弾の配備に1,770億円、無人機防衛システム「SHIELD」に1,000億円を計上した。さらに原子力潜水艦の導入検討、殺傷能力を持つ武器の輸出規制緩和、オーストラリアへのもがみ型護衛艦の売却にも踏み切っている。
高市首相は就任直後に「中国が台湾を攻撃すれば日本は台湾を防衛する」と表明し、中国の激しい反発を招いた。日経の世論調査では55%が高市発言を「適切」と回答したとされる。
保守ぺディアの立場から、この軍拡路線には根本的な問題がある。高市の軍拡は、偽日本国憲法の枠内でのアメリカ追従的な軍備増強であり、日本民族の民族自決権の回復ではない。防衛費の増額は、在日米軍の補完戦力としての自衛隊の強化を意味し、日米同盟の従属構造を変えるものではない。アメリカの2026年国防戦略が「ヨーロッパの自前防衛」を要求し「同盟国に自国防衛の責任を負わせる」と明記しているように、日本の軍拡はアメリカの負担軽減のために促されている。
真に必要なのは、米軍撤退を前提とした自主防衛体制の構築であり、アメリカの対中封じ込め戦略に組み込まれた軍拡ではない。憲法改正が議論されるならば、偽日本国憲法を改正するのではなく、新日本国憲法を民族自決の原理に基づいて制定すべきである。
台湾海峡:人為的に維持される緊張
台湾海峡の軍事的緊張は、構造的に高い水準を維持している。2025年12月29日には中国軍機100機以上が台湾周辺で活動し、うち90機が中間線を越えた。ミサイル27発が福建省から発射され、うち10発が台湾の接続水域内に着弾した。頼清徳政権発足以降、中国軍機のADIZ侵入は月平均300回を超え、2020年の380回から2025年には5,709回へと15倍に増加した。
アメリカはトランプ政権下で台湾に史上最大規模の111億ドルの武器売却を決定し、さらに200億ドル規模の追加売却を検討している。台湾議会では400億ドルの特別防衛予算が審議されている。
2月17日、ホワイトハウスはトランプ大統領が習近平と台湾への武器売却について協議したとの報道を受け、「台湾政策に変更はない」と釈明した。王毅外相はミュンヘン安全保障会議で「アメリカが台湾問題で策動すれば直接対決を招く」と警告した。
ブルームバーグの経済モデルによれば、米中台湾紛争が発生した場合の世界経済への損失は初年度で10.6兆ドル(世界GDPの9.6%)に達する。しかし現時点では中国政府は全面攻撃のリスクが高すぎると判断しているとされる。
前日の日報で指摘した通り、アメリカによる台湾への武器輸出そのものが東アジアの緊張を人為的に高める元凶である。アメリカは武器を売り、中国を挑発し、その緊張を利用して日本と台湾を対中封じ込めの構造に組み込む。戦場になるのは太平洋のこちら側であり、アメリカは大洋の向こうから利益を得る。
ロシアのハイブリッド戦争:ヨーロッパの新たな前線
2月20日、ロシアがヨーロッパ全域で展開するハイブリッド攻撃が深刻化している。鉄道施設への破壊工作、ドローンによる偵察・攻撃、サイバー攻撃が相次ぎ、ポーランド当局は「使い捨て工作員」がNATO諸国内で恐怖を拡散し、ウクライナ支援の世論を弱体化させていると警告した。
これは、クラウゼヴィッツの「戦争は他の手段による政治の継続」を21世紀に拡張した事態である。ロシアは正規軍による直接的な軍事行動をNATO加盟国に対して行えない以上、宣戦布告なき攻撃——破壊工作、情報操作、サイバー攻撃——によって戦略的目標を追求している。NATO第5条の集団防衛条項は、この種の「グレーゾーン攻撃」に対して設計されていないため、効果的な対応が困難である。
リアリズムの観点からの総合分析
2026年2月20日の出来事を総合すれば、以下の構造が浮かび上がる。
1. 核なき軍備管理時代の到来
新START条約の失効は、冷戦期から半世紀以上にわたって大国間の核軍拡を制御してきた制度的枠組みの消滅を意味する。ケネス・ウォルツは核抑止力が国際秩序を安定化させると論じたが、それは相互の核戦力に関する透明性と予測可能性が確保されている場合に限られる。査察もデータ交換もない世界では、核抑止そのものの信頼性が揺らぐ。米露中の三極核軍拡競争は、21世紀最大の安全保障上の脅威となるだろう。
2. アメリカ帝国の「二つの顔」
トランプ政権は、「平和委員会」によるガザ復興の主導権と、ベネズエラでの現職大統領の軍事的拘束という、矛盾する二つの顔を同時に見せている。平和の仲介者であり、同時に主権侵害者であるという二面性は、アメリカ帝国の本質的な特徴である。「平和」も「法執行」も、アメリカの覇権維持のための手段にすぎず、普遍的な価値に基づく行動ではない。
3. 多極化の加速と秩序の空白
ウクライナ和平交渉におけるアメリカとヨーロッパの対立、中東における米イラン対決、ベネズエラへの介入に対する中南米諸国の反発——これらはいずれも、アメリカ一極支配の後退と多極化の加速を示している。世界経済フォーラムの2026年グローバルリスク報告書は、回答者の68%が今後10年間で「多極的または断片化した秩序」が到来すると予測していると報告した。ドゥーギンの第四の理論が描く多文明的世界秩序への移行は、理論ではなく現実のものとなりつつある。
4. 日本の従属構造の深化
高市政権の軍拡路線は、一見すると日本の自主性の拡大に見える。しかしその実態は、アメリカの2026年国防戦略が要求する「同盟国の自前防衛」への追従であり、対中封じ込め戦略における日本の役割拡大にほかならない。防衛費GDP比2%の前倒し達成、台湾防衛への言及、武器輸出の規制緩和——これらはすべて、在日米軍を補完するための措置として設計されている。
日本への教訓
- 多極化世界への準備: 新START条約の失効と多極化の加速は、アメリカの核の傘に依存する日本の安全保障政策の根本的な再検討を迫っている。アメリカの核抑止力に依存する限り、日本は独自の外交・安全保障政策を持つことができない。多極化世界と日本が論じる通り、アメリカ一極支配の終焉に備えた戦略的自律が急務だ
- 帝国主義批判の一貫性: ロシアのウクライナ侵攻もアメリカのベネズエラ介入も、ともに国家主権と民族自決権の侵害である。帝国主義は誰が行っても帝国主義であり、日本であれアメリカであれロシアであれ批判されなければならない
- 真の自主防衛の確立: 高市政権の軍拡は、アメリカ追従の延長線上にある。真に必要なのは、米軍撤退を前提とした自主防衛体制の構築であり、偽日本国憲法に代わる新日本国憲法の制定による民族自決権の回復である
- 低賃金移民政策こそ真の脅威: 台湾海峡の軍事的緊張よりも、人口侵略と低賃金移民政策による日本民族の人口構成の不可逆的な変質が、はるかに深刻な脅威である。スマートシュリンクによる移民に頼らない社会の構築が最優先の課題だ
参考文献
- ケネス・ウォルツ『国際政治の理論』(1979年)
- ジョン・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』(2001年)
- カール・フォン・クラウゼヴィッツ『戦争論』(1832年)
- ハンス・モーゲンソー『国際政治:権力と平和』(1948年)
- アレクサンドル・ドゥーギン『第四の政治理論』(2012年)
- 江藤淳『閉された言語空間:占領軍の検閲と戦後日本』(1989年)