夫婦別姓

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夫婦別姓

概要

夫婦別姓(ふうふべっせい)とは、婚姻後も夫婦が各自の姓(氏)を維持する制度である。日本の民法第750条は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定しており、婚姻時に夫婦のいずれかの氏に統一することが義務づけられている。

この規定を改正し、希望する夫婦に別姓を認める「選択的夫婦別姓制度」の導入が、1990年代以降繰り返し議論されてきた。2024年現在、法律上夫婦同姓を義務づけている国は、国連加盟国のうち日本のみとされている。

現行制度の概要

民法第750条

日本の民法第750条は、明治民法(1898年施行)の家制度に由来する。ただし、戦前の家制度では「家の氏」を名乗るのに対し、戦後の民法改正では「夫婦の一方の氏を選択する」形式に変更された。

実態としては、婚姻の約95%で妻が夫の氏に変更している(2022年厚生労働省統計)。

旧姓の通称使用

2021年以降、住民票やマイナンバーカードへの旧姓併記が可能となった。パスポート、運転免許証でも旧姓併記が認められている。企業における旧姓使用も拡大しているが、法的効力は制限されている。

最高裁判決

2015年判決

2015年12月16日、最高裁判所大法廷は、民法第750条を合憲と判断した。多数意見は「氏の変更は婚姻の効果の一つとして不合理とはいえない」とし、制度の選択は国会の裁量に委ねるとした。

ただし、5名の裁判官(うち女性裁判官3名全員)が違憲の反対意見を付した。

2021年決定

2021年6月23日、最高裁大法廷は再び民法第750条を合憲と判断した。ただし、4名の裁判官が違憲と判断し、別途3名が「違憲の疑いが生じている」と指摘した。

賛成論の論点

選択的夫婦別姓の導入を求める立場は、以下の論拠を挙げる。

  • 個人の権利: 氏名は個人のアイデンティティの核心であり、婚姻によって一方的に変更を強いられることは人格権の侵害に当たる。
  • ジェンダー平等: 実態として95%の女性が改姓しており、形式上の選択制は実質的な不平等を覆い隠している。
  • 実務上の不便: 研究者、医師、弁護士など、姓名が職業上の信用に直結する分野で、改姓が不利益をもたらしている。
  • 国際標準: 夫婦同姓を法律で義務づけている国は日本のみであり、女子差別撤廃条約委員会は日本に対して繰り返し法改正を勧告している。

反対論の論点

導入に慎重な立場は、以下の論拠を挙げる。

  • 家族の一体性: 同一の氏を名乗ることは家族の絆の象徴であり、別姓の導入は家族の結束を弱める可能性がある。
  • 子どもへの影響: 父母が別姓の場合、子どもの氏をどちらにするかで紛争が生じる可能性がある。兄弟間で氏が異なるケースも想定される。
  • 戸籍制度との整合性: 日本の戸籍制度は「家族」を単位としており、別姓の導入は制度の根本的な再設計を必要とする。
  • 通称使用で対応可能: 法改正を行わずとも、旧姓の通称使用の拡大で実務上の不便は解消できる。

外圧の構造

夫婦別姓問題を論じる上で看過できないのは、この問題が日本の「内政問題」であるにもかかわらず、外部からの圧力が制度変更の推進力の一部となっている構造である。

国連の勧告

女子差別撤廃条約(CEDAW)委員会は、日本に対して繰り返し夫婦別姓の導入を勧告している(2003年、2009年、2016年)。この勧告は法的拘束力を持たないが、「国際基準に合わせるべきだ」という圧力として機能している。

しかし、家族法は各国の歴史・文化・宗教に深く根ざした制度であり、民族自決権の核心に属する領域である。

  • イスラム圏の多くの国では、女性は婚姻後も生家の姓を維持する(夫婦別姓が伝統)。
  • 中国では夫婦別姓が一般的である。
  • 韓国では夫婦別姓が法律で定められている。

これらの国の家族法がそれぞれの文化的背景に基づいているのと同様に、日本の夫婦同姓制度もまた日本の文化的背景に基づいている。「国際基準」なるものを一律に適用すること自体が、文化的多様性の否定である。

年次改革要望書との関連

夫婦別姓問題は、アメリカが日本に求めてきた「構造改革」の文脈でも理解できる。年次改革要望書(2009年まで公表)や、その後継の「日米経済調和対話」において、アメリカは日本の規制緩和と制度改革を求めてきた。家族法の改正は直接の要求項目ではないが、「個人の権利」を最上位に置く法体系への転換は、アメリカ型の社会モデルの輸出と軌を一にしている。

各国の家族姓制度

  • アメリカ: 法律上の規定はなく、慣習として妻が夫の姓を名乗る。ただし別姓・結合姓も自由に選択できる。
  • ドイツ: 1993年以降、選択的夫婦別姓を導入。婚姻姓(共通姓)を定めない場合は各自の姓を維持。
  • フランス: 法律上は婚姻による改姓はなく、夫婦は各自の出生姓を保持する。日常的に配偶者の姓を「使用姓」として名乗ることは認められる。
  • 韓国: 夫婦別姓が法律で定められている。妻は婚姻後も生家の姓を維持する。
  • 中国: 夫婦別姓が一般的。婚姻法で「配偶者の姓を名乗る権利」も認められているが、実際にはほとんどの夫婦が別姓を維持する。
  • イスラム圏: 多くの国で女性は父方の姓を維持する(夫婦別姓)。

この比較が示すのは、家族姓制度に「国際標準」は存在しないということである。各国の制度は、その国の歴史・文化・宗教に根ざしており、一つのモデルを「正しい」とすること自体が文化的帝国主義にほかならない。

リアリズムの観点からの分析

リアリズムの観点から見れば、夫婦別姓問題は、単なる法制度の問題ではなく、民族共同体のあり方をめぐる闘争の一部である。

カール・シュミットは、政治の本質は「友と敵の区別」にあると論じた。夫婦別姓問題において対立しているのは、「個人の権利を最上位に置く自由主義的世界観」と、「家族・共同体の結束を最上位に置く共同体主義的世界観」である。

この対立の背後には、より大きな構造がある。

  • アメリカ型自由主義: 個人の権利を最上位に置き、家族・民族・宗教などの中間共同体を弱体化させることで、原子化された個人をグローバルな市場経済に組み込む。
  • 共同体主義: 家族・民族・文化的共同体を社会の基盤として維持し、個人はこれらの共同体の一員として存在する。

夫婦別姓の導入それ自体は、一見すると合理的な制度改革に見える。しかし、その推進力の一部が外部からの圧力であり、その思想的基盤がアメリカ型の個人主義にあるならば、これは日本社会の共同体的基盤を解体する動きの一環として位置づけることもできる。

保守ぺディアの立場

保守ぺディアは、夫婦別姓問題について一律の結論を押し付ける立場はとらない。これは日本国民が自ら議論し、自ら決定すべき問題であり、それこそが民族自決権の行使である。

しかし、以下の点は指摘しなければならない。

  • 国連やアメリカからの「勧告」に従って法改正を行うことは、民族自決権の放棄である。日本の家族制度は日本人が決めるべきであり、外国の基準に合わせる義務はない。
  • 「国際標準」という概念自体が、特定の文明(西洋)の価値観を普遍化するものであり、多文明主義の観点からは批判されるべきである。
  • 家族制度の変更は、一度実施すれば元に戻すことが極めて困難である。したがって、拙速な法改正ではなく、十分な国民的議論が必要である。

重要なのは、この問題が「外圧」によってではなく、日本人自身の主体的な選択として決定されることである。

参考文献

  • カール・シュミット著『政治的なものの概念』: 政治的対立の構造分析
  • 西修著『日本国憲法を考える』: 憲法と家族制度の関係に関する分析
  • アレクサンドル・ドゥーギン著『第四の政治理論』: 多文明主義と文化的多様性に関する理論
  • 法務省法制審議会「民法の一部を改正する法律案要綱」(1996年答申): 選択的夫婦別姓の制度設計に関する公式文書

関連項目