遺伝的浸食

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遺伝的浸食

概要

エチオピア高原に、世界で最も希少なイヌ科動物が暮らしている。エチオピアオオカミ——残り約500頭。彼らを絶滅に追いやっているのは、銃でも罠でもない。村の飼い犬との「恋愛」である。

飼い犬と交わって生まれた子は、一見するとエチオピアオオカミに似ている。だが、そのDNAにはもはやイエイヌの遺伝子が混入している。その雑種がまたオオカミと交わり、さらにその子がまた交わる。世代を重ねるたびに、「エチオピアオオカミ」の遺伝子は薄まっていく。やがて、見た目はオオカミに似た動物がそこにいるのに、遺伝的にはもはやエチオピアオオカミではない——という日が来る。個体は生きている。しかし種は消滅した。これが遺伝的浸食(Genetic Swamping)である。

遺伝的浸食とは、大規模な外来集団との交雑によって、在来集団の遺伝的固有性が希釈され、最終的に固有の集団としての識別が不可能となり消滅する現象である。物理的な絶滅——銃弾や毒で個体が死ぬ——とは根本的に異なる。個体そのものは存続するにもかかわらず、集団としての遺伝的同一性が不可逆的に喪失される。殺さずに消す。これが遺伝的浸食の恐ろしさにほかならない。

このメカニズムを理解するには、二つの関連するが区別されるべき概念を押さえなければならない。

  • 交雑(Hybridization): 遺伝的に異なる二つの集団の間で交配が生じ、雑種(ハイブリッド)が産出される現象である。交雑は一世代の事象であり、それ自体は必ずしも在来集団の消滅を意味しない
  • 遺伝子浸透(Introgression): 交雑によって生じた雑種が親集団の一方と戻し交雑(backcrossing)を繰り返すことで、一方の集団の遺伝子が他方の集団の遺伝子プールに恒久的に組み込まれていく過程である。遺伝子浸透は世代を超えて蓄積される累積的過程であり、遺伝的浸食の核心的メカニズムにほかならない

交雑が「門を開ける」行為であるとすれば、遺伝子浸透は「開かれた門を通って外来の遺伝子が洪水のように流入する」過程である。遺伝的浸食は、この遺伝子浸透が在来集団の遺伝子プール全体を希釈し尽くすまで進行した最終段階を指す。

1996年、侵入生物学者ダニエル・シンバーロフとジュディス・ライマーは、画期的な論文「Extinction by Hybridization and Introgression(交雑と遺伝子浸透による絶滅)」(Annual Review of Ecology and Systematics, 27: 83–109)において、保全生物学の常識を覆す警告を発した。生息地の破壊でもない、乱獲でもない、外来捕食者でもない——交雑そのものが、種を絶滅に追い込む。そしてシンバーロフとライマーは断言した。「交雑による絶滅は、物理的な絶滅と同様に最終的(final)である」。一度失われた遺伝的固有性は、二度と復元することができない。

では、このメカニズムは動物だけの話だろうか。答えは否である。遺伝的浸食は、移民侵略の記事で論じた生物学的侵略のメカニズムの中核をなす概念であり、人口侵略がもたらす帰結の生物学的な基盤を提供するものである。

歴史的背景

遺伝的浸食という概念が確立されるまでには、ダーウィンからマイヤー、アンダーソン、そしてシンバーロフに至る約150年の学問的蓄積があった。それは「交雑」という現象が、単なる学術的好奇心の対象から、種を絶滅させる凶器として認識されるまでの歴史である。

ダーウィンと交雑の問題

1859年、チャールズ・ダーウィンは『種の起源』において、種間の交雑と雑種の稔性(fertility)の問題を広範に論じた。ダーウィンは、種の間に生殖的隔離が存在することを認めつつも、この隔離が絶対的なものではなく、近縁種の間では交雑が生じうることを観察していた。

しかしダーウィンは、交雑が在来種の絶滅をもたらしうるとは考えなかった。それは彼の怠慢ではない。ダーウィンの時代には、人間が種を大陸を越えて大規模に移動させるということ自体が、まだ本格的には始まっていなかったのである。交雑が「絶滅の凶器」になるためには、人間が地球の生態系を根本から撹乱する20世紀を待たなければならなかった。

エルンスト・マイヤーの生物学的種概念

交雑と種の関係を理論的に整理したのは、ドイツ出身のアメリカの進化生物学者エルンスト・マイヤー(1904–2005)である。マイヤーは1942年の著書『Systematics and the Origin of Species(体系学と種の起源)』において、生物学的種概念(Biological Species Concept)を確立した。マイヤーの定義によれば、種とは「実際にあるいは潜在的に交配し合い、他の同様の集団から生殖的に隔離された自然の個体群の集まり」である。

ここに決定的な洞察がある。種間の生殖的隔離が完全であれば、交雑は生じず、遺伝的浸食も起こりえない。しかし現実の自然界は、教科書のように整然としてはいない。多くの近縁種の間で生殖的隔離は不完全であり、特に人為的な環境改変や外来種の導入によって、本来は地理的に隔離されていた集団が接触することで、交雑が頻繁に生じるようになる。

マイヤーの種概念が遺伝的浸食の理解にもたらした最大の貢献は、生殖的隔離が地理的隔離に大きく依存するという認識である。山を越えられなかったから交わらなかった。海を渡れなかったから別々の種になった。ならば、その山を削り、その海に橋をかけたらどうなるか。答えは明白である——地理的隔離が除去されれば、生殖的隔離の不完全な近縁集団は交雑し、一方あるいは双方の集団の遺伝的固有性が失われる。これは異所的種分化の理論と表裏一体の関係にある。地理的隔離が種分化を促進するのと同様に、地理的隔離の除去は種の融合——遺伝的浸食——を促進するのである。

エドガー・アンダーソンと遺伝子浸透の発見

遺伝子浸透(introgression)という概念を初めて体系的に定式化したのは、アメリカの植物学者エドガー・アンダーソン(Edgar Anderson, 1897–1969)である。アンダーソンは1949年の著書『Introgressive Hybridization(浸透性交雑)』において、交雑とそれに続く戻し交雑によって、一方の種の遺伝子が他方の種の遺伝子プールに恒久的に浸透していく過程を詳細に記述した。

アンダーソンは、アヤメ属Iris)の種間交雑を研究する中で、雑種が一方の親種と繰り返し戻し交雑することにより、外来の遺伝子が在来集団に段階的に浸透していくことを観察した。彼はこの過程を「浸透性交雑(introgressive hybridization)」と命名し、この概念が後の遺伝的浸食研究の基盤となった。

シンバーロフとライマーの1996年論文——保全生物学を揺るがした警告

1996年、保全生物学の常識が根底から揺さぶられた。ダニエル・シンバーロフとジュディス・ライマーが総説論文「Extinction by Hybridization and Introgression」を発表したのである。

それまでの保全生物学において、種の絶滅と言えば三つの原因が定番であった——生息地の破壊、乱獲、外来捕食者の導入。シンバーロフとライマーは、この「三大原因」に見落としがあると主張した。第四の、そしておそらく最も陰湿な絶滅要因——交雑である。

この論文の画期的意義は以下の三点にある。

  1. 交雑が絶滅の独立した原因であることを体系的に論証した: 交雑がこれまで注目された三大要因と同等か、それ以上に深刻な絶滅要因であることを多数の事例で実証した
  2. 交雑による絶滅の不可逆性を明確にした: 物理的な絶滅ならば、少なくとも理論的には残存する個体からの回復が可能である。しかし交雑による絶滅は、遺伝子プールそのものが変容するため、元の遺伝的構成を回復することは原理的に不可能である。これは「治療不能の病」ではない。「死」そのものである
  3. 法的・政策的な空白を指摘した: 種の保存に関する法律アメリカの絶滅危惧種法は、交雑による遺伝的消滅を十分に対象としていなかった。法律は「殺される種」を守ろうとしていたが、「溶かされる種」には目を向けていなかったのである

メカニズムの詳細

5段階モデル——「接触」から「消滅」へ

遺伝的浸食は偶然の事故ではない。それは五つの段階を経て、冷徹な論理で進行する連鎖反応である。一度始まれば、各段階は前段階の帰結として不可避的に次の段階を駆動する。

第1段階: 接触(Contact)

遺伝的に異なる二つの集団が同一の空間で物理的に接触する段階である。自然界においては、気候変動による生息域の変化、河川の流路変更、地峡の形成などの地理的変動が接触の原因となる。しかし現代において最も頻繁な接触の原因は人為的な導入である。外来種の意図的・非意図的な移動、漁業や農業のための種の導入、ペットの逸出などが、本来は隔離されていた集団を接触させる。

接触の段階において決定的に重要なのは、集団のサイズの比率である。外来集団が在来集団に対して圧倒的に大きい場合、交雑の方向性は一方的なものとなり、在来集団の遺伝子プールが希釈される速度は劇的に加速する。

第2段階: 交雑(Hybridization)

接触した二つの集団の間で交配が生じ、雑種(F1世代)が産出される段階である。交雑が生じるか否かは、集団間の生殖的隔離の程度に依存する。生殖的隔離には、交尾前隔離(行動的差異、開花期のずれ等)と交尾後隔離(雑種不稔性、雑種致死等)がある。

近縁種や亜種の間では生殖的隔離が不完全であることが多く、特に以下の条件下で交雑が促進される。

  • 在来集団の個体数が少ない場合: 同種の配偶者を見つけることが困難になり、異種との交配の確率が上昇する(アリー効果との相互作用)
  • 外来集団の個体数が圧倒的に多い場合: 配偶相手の選択肢が外来集団に偏る
  • 生息環境が撹乱されている場合: 本来の生殖的隔離メカニズム(例えば繁殖場所の選好)が機能しなくなる
第3段階: 遺伝子浸透(Introgression)

F1世代の雑種が親集団の一方(通常は在来集団)と戻し交雑を繰り返すことで、外来集団の遺伝子が在来集団の遺伝子プールに恒久的に組み込まれていく段階である。

遺伝子浸透は一回の交雑事象では完了しない。世代を重ねるごとに、戻し交雑を通じて外来遺伝子が在来集団の個体に拡散していく累積的過程である。この段階において、在来集団の個体の中に外来遺伝子を保有する個体の割合が漸進的に増大する。

保全遺伝学者フレッド・アレンドルフ(Fred Allendorf)は、遺伝子浸透が検出困難であることを指摘した。外見上は在来種と区別がつかない個体であっても、そのゲノムには外来集団由来の遺伝子が含まれている場合がある。分子遺伝学的手法(マイクロサテライトマーカー、SNP解析等)がなければ、遺伝子浸透の進行を正確に評価することは不可能である。

第4段階: 希釈(Dilution)

遺伝子浸透が進行し、在来集団の遺伝的固有性——すなわち、その集団を他の集団から遺伝的に区別する対立遺伝子(アレル)の頻度パターン——が世代ごとに薄まっていく段階である。

希釈の速度は以下の要因に依存する。

  • 外来集団と在来集団のサイズ比: 外来集団が大きいほど希釈は速い
  • 交雑率: 世代あたりの交雑の頻度が高いほど希釈は速い
  • 世代時間: 世代時間が短い種ほど、単位時間あたりの遺伝的変化が大きい
  • 雑種の適応度: 雑種の繁殖成功度が在来種と同等以上であれば、外来遺伝子は急速に拡散する

希釈の段階において、在来集団のFST値(集団間の遺伝的分化の指標)は漸進的に低下する。スーウォル・ライトの島モデルが示す通り、遺伝子流動が存在する限り、FSTは0(遺伝的分化なし)に向かって低下し続ける。

第5段階: 消滅(Extinction)

最終段階。在来集団の遺伝的固有性が完全に失われ、もはや遺伝的に識別可能な集団としては存在しなくなる。そこに個体は生きている。呼吸をし、食事をし、繁殖もする。しかし、それらの個体はもはや在来集団の遺伝的構成を保持していない。在来集団は、遺伝的な意味において消滅している。

身体は残った。しかし民族は消えた——これが遺伝的浸食の最終形態である。そしてこの段階は不可逆的である。消滅した遺伝子プールを復元する技術は、この地球上に存在しない。

集団遺伝学の数学的モデル——数字は嘘をつかない

遺伝的浸食は感情の問題ではない。数式で記述され、数学的に予測される冷徹な現象である。集団遺伝学の数理モデルは、遺伝的浸食がいかに少ない移住者で、いかに確実に進行するかを示している。

ハーディ=ワインベルグの法則からの逸脱

ハーディ=ワインベルグの法則は、理想的な集団(無限の集団サイズ、ランダム交配、突然変異なし、自然選択なし、遺伝子流動なし)において、対立遺伝子頻度が世代を超えて一定に保たれることを述べる。しかし、遺伝的浸食の過程では、この法則の前提条件の一つである「遺伝子流動なし」が破られている。

外来集団からの遺伝子流動が存在する場合、在来集団の対立遺伝子頻度は世代ごとに変化する。移住率をmとし、在来集団における特定の対立遺伝子の頻度をp、外来集団における同じ対立遺伝子の頻度をpmとすると、一世代後の在来集団における対立遺伝子頻度p'は以下の式で表される。

p' = (1 - m)p + mpm

この式が示すように、移住率mが正の値である限り、在来集団の対立遺伝子頻度pは外来集団の頻度pmに向かって漸進的に収束する。移住が続く限り、在来集団の遺伝的固有性は数学的な必然として消滅する

有効集団サイズ(Ne)と遺伝的浸食速度

有効集団サイズ(Ne: effective population size)は、遺伝的浸食の速度を決定する最も重要なパラメータの一つである。スーウォル・ライトが定義した有効集団サイズとは、実際の集団と同じ速度の遺伝的浮動を示す理想的な集団のサイズである。

有効集団サイズが小さい集団は、以下の理由で遺伝的浸食に対して脆弱である。

  • 遺伝的浮動の影響が大きい: 小さな集団では、偶然による対立遺伝子頻度の変動(遺伝的浮動)が大きく、外来遺伝子が偶然によって固定(頻度が100%になること)される確率が高い
  • 在来の対立遺伝子が失われやすい: 遺伝的浮動により、在来集団に固有の希少な対立遺伝子が偶然に消失しやすい
  • 相対的な移住率が高くなる: 在来集団が小さいほど、同じ数の外来個体の流入が遺伝子プールに与える影響は大きくなる

ライトの島モデルによれば、集団間の遺伝的分化FSTは、有効集団サイズNeと世代あたりの移住個体数mの積Nemの関数として近似される。

FST ≈ 1 / (4Nem + 1)

この式が示す数字は衝撃的である。Nem = 1——世代あたりたった1個体の移住者が交雑するだけで——FSTは0.2にまで低下する。数百人、数千人からなる集団において、毎世代わずか1人の外部者が繁殖に参加するだけで、その集団の遺伝的固有性は着実に溶けていく。これは直感に反するほど少ない数字であるが、数学は直感よりも正確である。

遺伝的浸食の類型

遺伝的浸食には、遺伝子の種類や浸透の程度に応じていくつかの類型が存在する。

完全な交雑吸収

交雑吸収(Hybridization Absorption)とは、在来集団が外来集団との交雑を通じて完全に吸収され、独立した集団として消滅する過程である。交雑吸収が生じるのは、外来集団が在来集団に対して圧倒的に大きく、かつ交雑に対する障壁が低い場合である。

交雑吸収の結果、在来集団の遺伝子は外来集団の遺伝子プールの中に希釈される。在来集団に固有の対立遺伝子は、外来集団の大きな遺伝子プールの中で低頻度となり、やがて遺伝的浮動によって消失する。最終的に、在来集団の遺伝的痕跡は検出不能となる。

シンバーロフとライマーは、交雑吸収を「遺伝的浸食の最も完全な形態」と位置づけた。

部分的遺伝子浸透

部分的遺伝子浸透(Partial Introgression)とは、交雑吸収が完全には進行せず、在来集団が形態的にはなお識別可能であるものの、そのゲノムの一部に外来集団由来の遺伝子が組み込まれている状態である。

部分的遺伝子浸透は、以下の条件下で生じる。

  • 交雑率が低い場合: 接触地帯における交雑が限定的で、遺伝子浸透がゲノム全体には及ばない
  • 選択圧の存在: 外来遺伝子を持つ個体が在来環境において適応度の低下を示す場合、選択圧が外来遺伝子の拡散を抑制する
  • ゲノムの一部のみが浸透しやすい場合: ゲノムの領域によって浸透の速度が異なる。選択的に中立な領域は浸透しやすく、適応的に重要な領域は浸透しにくい

部分的遺伝子浸透は、完全な交雑吸収への過渡的段階であることが多い。

ミトコンドリアDNAの置換

遺伝的浸食の特殊な形態として、ミトコンドリアDNAの置換(Mitochondrial DNA Capture / Mitochondrial Introgression)がある。ミトコンドリアDNA(mtDNA)は母系遺伝であり、核DNAとは異なる遺伝様式をとる。このため、核DNAと mtDNAの浸透パターンが大きく異なることがある。

ミトコンドリアDNAの置換が生じる典型的なシナリオは以下の通りである。外来集団の雌が在来集団の雄と交雑し、その雑種の雌がさらに在来集団の雄と戻し交雑を繰り返す。この場合、核DNAは戻し交雑のたびに在来集団由来の割合が増大するが、mtDNAは一貫して外来集団由来のまま維持される。その結果、核DNAはほぼ在来集団のものでありながら、mtDNAは外来集団のものに完全に置換されるという不一致が生じる。

核DNAとミトコンドリアDNAの浸透速度の違い

核DNAとmtDNAでは、遺伝子浸透の速度が異なることが知られている。

  • 核DNA: 両親から遺伝するため、戻し交雑のたびに外来遺伝子の割合は半減する。n世代の戻し交雑後、外来由来のゲノム割合は理論的に(1/2)nに減少する
  • ミトコンドリアDNA: 母系のみから遺伝するため、戻し交雑では希釈されない。外来集団の雌を起源とする母系がある限り、mtDNAは外来型のまま維持される

この非対称性は、遺伝的浸食の検出において重要な意味を持つ。核DNAの分析のみでは浸食が過小評価される場合があり、逆にmtDNAのみの分析では過大評価される場合がある。フレッド・アレンドルフは、遺伝的浸食の正確な評価には核DNAとmtDNAの双方を解析する統合的アプローチが不可欠であると指摘している。

自然界の事例——「愛」によって消される種たち

数式の世界から、生きた自然に目を転じよう。遺伝的浸食は教科書の中の理論ではない。今この瞬間も、世界各地で在来種が外来種との交雑によって遺伝的固有性を喪失しつつある。以下に代表的な事例を詳述する。いずれの事例にも共通するのは、在来種は「殺された」のではなく「溶かされた」という点である。

カットスロートトラウトとニジマス

北米の渓流に、カットスロートトラウト(Oncorhynchus clarkii)という美しい鱒が棲んでいた。喉元に鮮やかな赤い斑紋を持つこの魚は、北米西部の河川に固有のサケ科魚類であり、複数の亜種に分化していた。

19世紀後半、人間が「釣りの楽しみ」のためにニジマス(Oncorhynchus mykiss)を大量に放流した。ニジマスとカットスロートトラウトは近縁種であり、容易に交雑する。人間のレジャーが、数万年かけて分化した固有種に死刑宣告を下したのである。

フレッド・アレンドルフらの研究グループは、モンタナ州のフラットヘッド川水系において、カットスロートトラウトの集団の多くがニジマスとの交雑によって遺伝的固有性を喪失していることを分子遺伝学的に実証した。外見上はカットスロートトラウトに見える個体であっても、そのゲノムの20%以上がニジマス由来である事例が確認されている。遺伝的に純粋なカットスロートトラウトの集団は、上流の隔離された小河川に残存するのみとなっている。

この事例は、人為的な種の導入が遺伝的浸食を引き起こす典型的なパターンを示している。そして、最も重要な教訓は、遺伝的浸食が不可逆的であるという事実である。ニジマスの放流を中止しても、すでに交雑が進行した集団の遺伝的固有性は回復しない。

エチオピアオオカミとイエイヌ

エチオピアオオカミCanis simensis)は、エチオピア高原に固有の世界で最も希少なイヌ科動物であり、推定個体数はわずか約500頭である。エチオピアオオカミは、高地に居住する人間が飼育するイエイヌ(Canis lupus familiaris)との交雑に直面している。

エチオピアオオカミとイエイヌは近縁種であり、生殖的隔離が不完全であるため、交雑が容易に生じる。特にエチオピアオオカミの個体数が少ない地域では、同種の配偶者を見つけることが困難となり(アリー効果)、イエイヌとの交雑の確率が上昇する。遺伝学的調査により、一部の集団ではイエイヌ由来のmtDNAを保有する個体が確認されている。

エチオピアオオカミの事例は、在来集団が少数で外来集団が多数の場合に遺伝的浸食が加速されるというメカニズムを明瞭に示している。そして、この構造は移民侵略の記事で論じた人口学的浸食とまったく同じ論理に基づいている。

カオジロオタテガモとアカオタテガモ

カオジロオタテガモ(Oxyura leucocephala)は、地中海沿岸から中央アジアに分布する絶滅危惧種の水鳥である。北米原産のアカオタテガモ(Oxyura jamaicensis)が20世紀半ばにイギリスに観賞用として導入され、逸出した個体がヨーロッパ大陸に拡散した。

アカオタテガモの雄はカオジロオタテガモの雌に対して積極的に求愛し、種間交雑が高頻度で生じている。スペインにおいては、カオジロオタテガモの集団の中にアカオタテガモとの雑種個体が増加し、純粋なカオジロオタテガモの遺伝子プールが急速に希釈されている。

この危機に対応して、イギリスではアカオタテガモの根絶プログラムが実施され、個体数を数千羽からほぼゼロにまで減少させることに成功した。しかし、すでにヨーロッパ大陸に拡散した個体の完全な根絶は困難であり、カオジロオタテガモへの遺伝的浸食の脅威は継続している。

ヨーロッパミンクとアメリカミンク

ヨーロッパミンクMustela lutreola)は、かつてヨーロッパ全域に分布していたが、現在は世界で最も絶滅が危惧されている哺乳類の一つである。個体数の減少の主要な原因の一つが、毛皮産業のために導入され逸出したアメリカミンクNeovison vison)による競争排除と交雑である。

ヨーロッパミンクとアメリカミンクの間の交雑は、雑種が不稔であることが多いため、古典的な遺伝子浸透は限定的である。しかし、交雑の試み自体がヨーロッパミンクの繁殖成功度を低下させ(繁殖干渉)、個体数の減少を加速させている。この事例は、交雑が遺伝子浸透を通じなくても、繁殖干渉によって在来集団を衰退させうることを示している。

ニホンザルとタイワンザル

日本における遺伝的浸食の最も深刻な事例の一つが、在来のニホンザルMacaca fuscata)と外来のタイワンザルMacaca cyclopis)の間の交雑である。

タイワンザルは、1950年代以降にペットや動物園の展示用として日本に持ち込まれ、逸出した個体が千葉県房総半島や和歌山県などで野生化した。ニホンザルとタイワンザルは近縁種であり、容易に交雑する。千葉県では、遺伝学的調査により、タイワンザル由来の遺伝子がニホンザルの集団に浸透していることが確認された。

日本の環境省は、ニホンザルの遺伝的純度を保全するために、交雑個体とタイワンザルの駆除事業を実施している。しかし、交雑個体と純粋なニホンザルを外見のみで判別することは困難であり、遺伝学的検査が不可欠である。すでに遺伝子浸透が進行した地域において、在来の遺伝的構成を回復することは事実上不可能である。

テキサスクーガーとフロリダパンサー

フロリダパンサーPuma concolor coryi)は、フロリダ州南部に残存する北米のクーガーの亜種であり、20世紀半ばには推定個体数が20〜30頭にまで減少した。近交弱勢(近親交配による適応度の低下)を緩和するため、1995年にテキサスクーガー(Puma concolor couguar)の雌8頭がフロリダに導入された。

この遺伝的救済(genetic rescue)は、フロリダパンサーの個体数を約230頭にまで回復させることに成功した。しかし同時に、フロリダパンサーの遺伝的固有性は永久に変容した。導入後のフロリダパンサーの集団には、テキサスクーガー由来の遺伝子が広く浸透しており、導入前の遺伝的構成を持つ個体はもはや存在しない。

この事例は、遺伝的浸食が時として保全の手段として意図的に用いられることを示す一方で、「遺伝的固有性の保全」と「個体数の回復」は本質的にトレードオフの関係にあることを浮き彫りにしている。

島嶼における遺伝的浸食——島国は最も脆い

島嶼の固有種が特に脆弱な理由

日本列島に暮らす読者にとって、次の事実は他人事ではない。島嶼の生態系は、遺伝的浸食に対して大陸の生態系よりも格段に脆弱である。ロバート・マッカーサーE.O. ウィルソン島嶼生物地理学の理論が示す通り、島嶼の固有種は以下の特性を持つ。

  • 有効集団サイズ(Ne)が小さい: 面積の制約から個体数が限られ、遺伝的浮動の影響を強く受ける。外来遺伝子が偶然によって固定される確率が高い
  • 遺伝的多様性が低い: 創始者効果とボトルネック効果により、遺伝的多様性が制限されている。遺伝的浸食に対する緩衝能力が低い
  • 生殖的隔離が不完全なことが多い: 島嶼の固有種は、地理的隔離によって分化したものが多く、近縁の大陸種との生殖的隔離が完全でない場合がある。人為的な導入によって近縁の外来種と接触すると、容易に交雑が生じる
  • 防御行動の欠如: 島嶼の固有種は、外来種との競争や交雑に対する行動的な防御機構(配偶者選択における種認識など)が弱い場合がある

ハワイのガン類

ハワイ諸島は、遺伝的浸食の深刻さを示す世界的な代表例である。ハワイの固有種であるハワイガン(ネネ、Branta sandvicensis)は、かつて個体数が30羽にまで減少した後、飼育下繁殖と再導入により個体数が回復した。しかし、飼育下繁殖の過程で他のガン類との交雑が生じた可能性が指摘されており、再導入された個体の遺伝的純度については議論が続いている。

ハワイにおけるガン類のより深刻な事例としては、在来のハワイガモ(コルオア、Anas wyvilliana)がある。ハワイガモは、人間が導入したマガモAnas platyrhynchos)との大規模な交雑に直面しており、遺伝学的調査によれば、ハワイの低地に生息するハワイガモの集団の大多数がマガモとの雑種であることが判明している。遺伝的に純粋なハワイガモは、高地の隔離された湿地に残存するのみである。

ニュージーランドのカモ

ニュージーランドにおいても、固有のハイイロマガモ(Anas superciliosa)がヨーロッパ人によって導入されたマガモ(Anas platyrhynchos)との交雑により、遺伝的固有性を急速に喪失している。ニュージーランドにおけるハイイロマガモとマガモの交雑率は高く、純粋なハイイロマガモの集団は減少の一途をたどっている。

マガモは世界各地に導入され、在来のカモ類との交雑を通じて遺伝的浸食を引き起こしている。マガモによる遺伝的浸食は、ハワイ、ニュージーランド、オーストラリアなど、島嶼環境の在来カモ類に対して特に深刻な脅威となっている。

日本の淡水魚

日本の淡水魚においても、遺伝的浸食が進行している事例が複数確認されている。

  • メダカ: 日本の在来メダカOryzias latipes)は、遺伝学的に南日本集団と北日本集団に大別される。しかし、ペットとして飼育されたメダカの放流(善意の放流を含む)により、異なる遺伝的系統のメダカが混合し、地域固有の遺伝的構成が撹乱されている
  • タナゴ類: ミヤコタナゴTanakia tanago)などの在来タナゴ類は、釣り餌として持ち込まれた他地域のタナゴ類との交雑により遺伝的固有性が脅かされている
  • イワナ: 在来のイワナSalvelinus leucomaenis)の在来亜種が、放流された他地域のイワナとの交雑により遺伝子浸透を受けている事例が確認されている

善意のメダカの放流が、数千年の遺伝的遺産を一瞬で破壊する。この皮肉を噛みしめてほしい。日本は島嶼国家として、長期の地理的隔離のもとで固有の淡水魚相を発達させてきた。この固有性が人為的な移動によって失われつつあることは、移民侵略の記事で論じた「島嶼の固有種の脆弱性」の生物学的な実証にほかならない。メダカに起きていることは、日本民族にも起こりうる。

ヒト集団における遺伝的浸食

集団遺伝学の知見のヒトへの適用

ここまで読んだ読者は、おそらくこう考えているだろう——「魚や鳥の話は分かった。しかし人間は違うのではないか」と。

答えは明快である。違わない。遺伝的浸食のメカニズムは、すべての有性生殖を行う生物に共通する普遍的な原理である。ヒト(Homo sapiens)もカットスロートトラウトもエチオピアオオカミも、集団遺伝学の法則の前では等しく同じ物理法則に従う。人間だけが数学の定理から免除される特権を持っているわけではない。

スーウォル・ライトのF統計量とヒトの集団構造

スーウォル・ライト(1889–1988)が開発したF統計量は、ヒトの集団間の遺伝的分化を定量的に測定する標準的な指標として広く用いられている。

ヒトの主要な大陸間集団(アフリカ、ヨーロッパ、東アジア等)のFST値は約0.12〜0.15とされている。この値は、他の大型哺乳類と比較してやや低い値であるが、これはヒトの種としての歴史が比較的短い(約30万年前にアフリカで出現)ことと、歴史的に一定の遺伝子流動が存在してきたことを反映している。

しかし、0.12〜0.15というFST値は、集団間に有意な遺伝的分化が存在することを示している。ライトの基準によれば、FST > 0.05は「中程度の分化」、FST > 0.15は「大きな分化」と解釈される。ヒトの集団間の遺伝的差異は、多くの生物種において亜種の区別に用いられる水準に達しているのである。

遺伝子流動と遺伝的分化の関係——島モデルの適用

ライトの島モデルをヒトの集団に適用すれば、国境管理と遺伝的分化の関係が数学的に明確になる。

前述のFSTの近似式 FST ≈ 1 / (4Nem + 1) において、Nemの値が増大すれば(すなわち集団間の移住が増大すれば)、FSTは低下し、集団間の遺伝的分化は消失する。

ここで現実の数字を見てみよう。2020年時点で、全世界の国際移住者数は約2億8,100万人——世界人口の約3.6%に達している。ライトの島モデルが「たった1人の移住者」で遺伝的分化が有意に低下すると警告したことを思い出してほしい。現代のグローバル化は、Nemを歴史上前例のないレベルにまで爆発させている。このレベルの遺伝子流動が継続すれば、ヒトの集団間のFSTは漸進的に0に向かって低下し、数百年から数千年の時間スケールで遺伝的分化は消失するだろう。数万年かけて蓄積された民族の遺伝的固有性が、わずか数世紀で溶け去る。

歴史的事例

ヒトの集団における遺伝的浸食の歴史的事例は数多く存在する。

タスマニア先住民

タスマニア先住民は、遺伝的浸食と物理的絶滅が複合した最も悲劇的な事例の一つである。タスマニア先住民は、約3万年前にオーストラリア大陸から渡来し、約1万2,000年前の海面上昇によりタスマニア島が大陸から分離されて以降、完全な地理的隔離のもとで独自の遺伝的構成を維持してきた。

1803年にイギリスの植民が開始されると、虐殺、疾病、強制移住により急速に人口が減少した。1876年にトルガニーニ(Truganini)が死去した際、「最後の純血のタスマニア先住民」が消滅したとされた。しかし実際には、タスマニア先住民の女性とヨーロッパ人男性の間に多くの混血の子孫が生じており、現在も数千人のタスマニア先住民の子孫が存在している。

タスマニアの事例は、物理的絶滅と遺伝的浸食が同時に進行した事例であり、在来集団の遺伝的固有性は物理的な暴力と交雑の双方によって失われた。

アイヌ民族

日本のアイヌ民族も、遺伝的浸食の歴史的事例として挙げられる。アイヌ民族は、縄文人の遺伝的特徴を強く保持した集団であり、北海道を中心に独自の文化と遺伝的構成を維持してきた。

明治維新以降の北海道開拓に伴い、大量の和人(本土日本人)が北海道に移住した。アイヌ民族の人口は移入する和人に対して圧倒的に少数であり、数世紀にわたる交雑と同化政策により、アイヌ民族の遺伝的固有性は大きく希釈された。現在、遺伝学的に「純粋な」アイヌの個体を定義すること自体が困難な状況にある。

アイヌ民族の事例は、有効集団サイズが圧倒的に小さい在来集団が、大規模な外来集団の流入に直面した場合に遺伝的浸食がいかに急速に進行するかを示す歴史的実証である。

ネアンデルタール人とホモ・サピエンス——4万年前の先例

先史時代における最大規模の遺伝的浸食は、我々自身の種の歴史に刻まれている。2010年、スヴァンテ・ペーボ率いる研究チームがネアンデルタール人のゲノム解読に成功し、衝撃的な事実が明らかになった。現代のアフリカ以外のすべての人類のゲノムに、約1〜4%のネアンデルタール人由来のDNAが含まれている。つまり、我々の祖先はネアンデルタール人と交雑した。

だが、注目すべきはこの物語の結末である。ネアンデルタール人の遺伝子はホモ・サピエンスのゲノムに浸透した。しかしネアンデルタール人自体は集団として消滅した。数的に優勢であったホモ・サピエンスの遺伝子プールにとって、ネアンデルタール人由来の遺伝子は軽微な付加にすぎなかった。しかしネアンデルタール人にとっては——交雑と競争排除の複合効果により——固有の集団としての消滅を意味した。数の少ない側が消える。4万年前のヨーロッパで起きたこの現実は、現代の島国にとっても他人事ではない。

リアリズムの観点からの分析

ここまでは生物学の話であった。だが、問題の核心はここからである。遺伝的浸食の科学的メカニズムを理解した上で、それが国際政治においていかなる意味を持つのかを問わなければならない。

遺伝子プールの保全は民族自決権の核心的要素である

リアリズムの観点から遺伝的浸食を分析すれば、一つの不都合な真実が浮かび上がる。遺伝子プールの保全は、民族自決権の核心的要素——その前提条件そのもの——であるということである。

ハンス・モーゲンソーは『国際政治——権力と平和』(Politics Among Nations)において、国家の権力の基盤として人口(population)を挙げた。モーゲンソーにとって、人口は単なる数の問題ではなく、国家の性格を定義する質的な要素を含むものである。民族の遺伝的固有性は、その民族の存在そのものの生物学的基盤であり、これが失われれば、民族自決権の主体である「民族」そのものが消滅する。

民族自決権が意味を持つのは、自決の主体である民族が識別可能な集団として存続している場合に限られる。遺伝的浸食によって民族の遺伝的固有性が消滅すれば、自決の主体もまた消滅する。したがって、遺伝子プールの保全は民族自決権の前提条件にほかならない。

国境管理は遺伝子流動の制御メカニズムである

移民侵略の記事で論じた通り、スーウォル・ライトの集団構造理論は、遺伝子流動を制限する障壁がなければ集団間の遺伝的分化は維持できないことを数学的に証明している。

自然界において、種分化を促進し遺伝的分化を維持する障壁は、山脈、海峡、砂漠などの地理的障壁である。人間社会において、これに相当する制度的障壁が国境である。国境管理は、集団遺伝学の用語で言えば、遺伝子流動(gene flow)を制御するメカニズムにほかならない。

ライトの島モデルが示す通り、世代あたりわずか1個体の移住者が交雑するだけでも、集団間のFSTは有意に低下する。現代の大規模な国際人口移動は、Nemを歴史上前例のないレベルにまで増大させている。国境管理が緩和されれば、遺伝子流動はさらに増大し、在来集団の遺伝的固有性は数学的な必然として失われる。

国境の開放は、集団遺伝学の法則に従えば、遺伝的浸食の加速を意味する。これは政治的意見ではなく、数理的事実である。

リベラル国際秩序が遺伝的浸食を加速させる構造

リベラル国際秩序は、以下のメカニズムを通じて遺伝的浸食を構造的に加速させている。

  • 国境管理の緩和: 「移動の自由」「難民保護」「多文化共生」のイデオロギーは、遺伝子流動を制限する制度的障壁の除去を要求する。EUのシェンゲン協定はその最も完成された形態であり、域内の人口移動を完全に自由化した
  • 「多様性」による障壁の除去: 「多様性は強みである(Diversity is our strength)」というイデオロギーは、集団間の遺伝的・文化的障壁を「差別」として否定し、その除去を道徳的な義務として要求する。これは集団遺伝学の観点から見れば、遺伝的分化を維持するメカニズムの意図的な破壊にほかならない
  • 新自由主義的構造改革による少子化の誘発: 移民侵略の記事で論じた通り、新自由主義的構造改革は在来集団の出生率を低下させ、有効集団サイズを縮小させる。これにより在来集団の遺伝的浸食に対する脆弱性が増大する
  • 少子化を口実とした移民の強制: アメリカの移民強制の記事で詳述した通り、構造改革によって誘発された少子化を口実として移民を「不可避」とし、遺伝子流動のさらなる増大を正当化する

この構造は、帝国主義の第四段階である人口侵略の生物学的メカニズムにほかならない。リベラル国際秩序は、各民族の遺伝的固有性を維持する障壁を体系的に除去することで、遺伝的浸食を不可避の過程として制度化しているのである。

遺伝的浸食に対する唯一の防衛——「手遅れ」になる前に

ここで再び、シンバーロフとライマーの警告を想起しなければならない。「交雑による絶滅は物理的な絶滅と同様に最終的である」。一度進行した遺伝的希釈を元に戻す手段は、この地球上に存在しない。カットスロートトラウトも、エチオピアオオカミも、ハワイガモも——一度遺伝子プールが汚染されれば、二度と元には戻らない。

では、何ができるのか。答えは侵入生物学が明確に示している。浸食が進行する前に障壁を維持すること——すなわち、国境管理の強化と移民の制限——である。外来種対策の鉄則を思い出してほしい。「予防が最も効果的であり、一度定着すれば根絶は極めて困難」。

  • 国境管理の維持・強化: 遺伝子流動を制限する制度的障壁を維持する
  • 低賃金移民政策の停止: 外来集団の大規模な導入を中止する
  • スマートシュリンクの実施: 移民に頼らず人口減少に対応し、移民導入の口実を排除する
  • 出生率の回復: 在来集団の有効集団サイズを回復させ、遺伝的浸食に対する脆弱性を低下させる

島嶼の固有種を守ることが生態学的な当然の営みであるのと同様に、島国の先住民族の遺伝的固有性を守ることは民族自決権の行使にほかならない。エチオピアオオカミを守るために飼い犬の侵入を防ぐことが「差別」でないのと同様に、日本民族の遺伝的固有性を守るために国境を管理することは「排外主義」ではない。遺伝的浸食の不可逆性を認識し、障壁の維持を政策の根幹に据えなければならない。手遅れになってからでは、もう誰にも元には戻せないのだから。

参考文献

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