国民国家の崩壊過程

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国民国家の崩壊過程

概要

国民国家の崩壊過程とは、新自由主義の浸透によって国民国家が段階的に解体されていく構造的過程を、14段階のモデルとして体系化したものである。この崩壊モデルは、カール・ポランニーの「二重運動」論、エイミー・チュアマーケット・ドミナント・マイノリティ理論、カール・シュミットの政治的主体性論を統合し、国民国家が誕生から崩壊に至るまでの歴史的過程を一つのフレームワークとして提示する。

現在、日本は第9段階(新自由主義の台頭と移民の拡大)に、EUは第10段階(福祉国家の廃止)に、アメリカは第11段階(マジョリティとマイノリティの逆転)にそれぞれ進行している。

この崩壊モデルの核心にあるのは、ゲマインシャフト(共同体)とゲゼルシャフト(利益社会)の関係である。国民国家はゲマインシャフト的紐帯の上に成立するが、新自由主義はゲゼルシャフトを自由にしゲマインシャフトを不自由にすることで、国民国家の基盤そのものを溶解させる。

14段階モデル

第1段階:国民国家の誕生

主権を持つ独立した国家体系が形成される。ウェストファリア条約(1648年)以降の近代国際秩序において、国民国家は国際政治の基本単位となった。

国民国家の成立要件は以下の通りである。

  • 領土的主権: 明確な国境線によって画定された領域を持つこと
  • 民族的同質性: 共通の言語、文化、歴史的記憶を持つ主体民族が存在すること
  • 暴力装置の独占: マックス・ウェーバーが定義した通り、特定の集団が領域内の正当な暴力装置を独占すること
  • 外部からの独立: 他国の干渉を受けない自律的な意思決定能力を持つこと

この段階では、民族と国家と領土が一体化しており、ゲマインシャフト的な紐帯が政治秩序の基盤をなしている。

第2段階:産業資本の成長

産業革命に伴い、資本主義経済が発展する。工業化は国力の増大をもたらし、国民国家は経済的にも軍事的にも強大化する。

この段階では、産業資本は国民国家の枠内で活動しており、国家と資本の利害は概ね一致している。工場は国内に立地し、労働者は国民であり、利益は国内で循環する。産業資本の成長は中間層の拡大をもたらし、国民国家の社会的基盤を強化する。

第3段階:福祉国家の成立

社会保障制度が整備され、国民の生活保護が強化される。第二次世界大戦後、先進国は福祉国家体制を構築し、「ゆりかごから墓場まで」の社会保障を実現した。

福祉国家は、国民国家の安定期を象徴する制度である。国民は国家に対して税金と忠誠を提供し、国家は国民に対して安全保障と社会保障を提供する。この互酬関係がゲマインシャフト的紐帯を制度的に補強している。日本においては、公共の学校を出た教養ある官僚による日本型社会主義によって、一億総中流社会が実現し、経済は安定して成長した。

第4段階:自由民主主義の発展

民主的な政治体制が確立し、市民の自由と権利が拡大する。普通選挙、言論の自由、結社の自由、信教の自由が保障され、国民の政治参加が制度化される。

しかし、この段階に潜む構造的な危険を見落としてはならない。自由民主主義は、民族と政治を切り離す体制である。市民権は民族的帰属ではなく法的資格に基づいて付与される。この原理は、後の段階で国民国家を内部から解体する装置として機能することになる。

カール・シュミットは、自由主義と民主主義は本質的に矛盾すると論じた。民主主義は「同質性」に基づく人民の自己支配であるが、自由主義は個人の権利を「同質性」に優先させる。この矛盾が顕在化するのは、後の段階においてである。

第5段階:金融資本の成長

金融業が発展し、経済のグローバル化が進む。産業資本が国境を越えて移動し始め、金融資本は国民国家の枠組みを超えて活動する。

この段階で、資本と国家の利害が乖離し始める。産業資本が工場を海外に移転し、金融資本が国際市場で利益を追求するようになると、国民経済の枠内で完結していた経済循環が崩れる。利益は国外に流出し、国内には空洞化した産業地帯と失業者が残される。

ジョヴァンニ・アリギが『長い20世紀』で論じた通り、覇権国の経済は産業資本から金融資本へと移行する傾向がある。この「金融化」は覇権の衰退の兆候であると同時に、国民国家の解体の起点でもある。国が産業政策を取らないということは、自動的に金融産業を勝者に選択していることに等しい。搾取型経済となり、産業は衰退する。

第6段階:国家内共同体の誕生

国民国家とは異なるアイデンティティを持つ集団——金融資本家やマーケット・ドミナント・マイノリティ——が影響力を持ち始める。

エイミー・チュアが『ワールド・オン・ファイア』で論じた通り、マーケット・ドミナント・マイノリティとは、人口比では少数派でありながら、経済的に圧倒的な支配力を持つ民族的マイノリティ集団である。東南アジアにおける華僑、アフリカにおけるレバノン人、中南米における白人エリート、アメリカにおける特定の民族集団がこれにあたる。

国家内共同体は、国民国家のゲマインシャフト的紐帯とは異なる独自のアイデンティティと連帯を持つ。彼らの利害は国民全体の利害と一致しない。むしろ、国境の開放、規制緩和、自由化——すなわち国民国家の解体——が、彼らの利益を最大化する。

二重基準の利己的な民族至上主義者は、自国でマジョリティの時には反自由主義、反移民主義、ネイティヴィズム、集団主義、排外主義、血統主義、規制、伝統、保護を支持するが、他国でマイノリティの時には自由主義、個人主義、反ネイティヴィズム、移民推進、規制緩和、多様性、平等、自由競争、自由民主主義を支持する。

第7段階:中間層の置き換え

国家内共同体は、中間層の崩壊によって利益を得て伸長する。

新自由主義政策——民営化、規制緩和、労働市場の柔軟化、福祉の削減——は中間層を直撃する。安定した雇用が非正規雇用に置き換えられ、社会保障が縮小され、教育や住宅のコストが上昇する。中間層は経済的に没落し、社会の二極化が進行する。

中間層の崩壊は、国民国家の社会的基盤の崩壊を意味する。中間層こそが国民国家を支える市民層であり、民主主義の担い手であり、ゲマインシャフト的紐帯の物質的基盤を提供していたからである。アリストテレスが『政治学』において論じた通り、中間層の存在こそが政治体制を安定させる。中間層が崩壊すれば、政治体制は不安定化する。

第8段階:個人主義と利己主義の蔓延

社会的結束が弱まり、個人の利益が優先されるようになる。

新自由主義は個人主義を推進する。人から歴史性や伝統性、非合理性、生物性、人間性、継続性、集団性をすべて剥奪し、個人化された経済的合理人をゲゼルシャフトが徹底的に搾取する。個人主義によって個人はむしろ搾取されやすい存在となる。根の無い草は滅びるのみだ。

強い個人は強い集団がなければ存在しない。共同体が死ねば、個人が生きても生き残ることはできない。個人が死んでも、共同体が生きれば、再生する。集団と共同体は、個人を規制することによって長期的な目標を追うことができるが、細分化された個人は目先の利益に支配される。

第9段階:新自由主義の台頭と移民の拡大

市場原理が優先され、工業が衰退し、国際的な人の移動が増加する。移民が拡大し、一部の者が社会の長期的な崩壊と引き換えに利益を得る。

少子化を口実として低賃金移民政策が推進される。しかし、移民受け入れの本質は、生殖と労働の非倫理的な国際分業であり、現代の奴隷制であり、共同体の未来からの収奪である。低コストの後進国で人が育ち、高コストの先進国で子育てをせずに労働だけに従事する。ゲゼルシャフトがゲマインシャフトを収奪している。

日本は現在この段階にある年次改革要望書に基づく規制緩和と自由化が進行し、中間層が崩壊しつつあり、移民拡大の圧力が高まっている。しかし、まだ日本のゲマインシャフト的紐帯は完全には崩壊しておらず、ここで方向を転換すれば回復の余地がある。

第10段階:福祉国家の廃止

新自由主義によって福祉プログラムが削減される。第3段階で構築された福祉国家体制は、「財政赤字」「持続不可能」「モラルハザード」を口実として解体される。

福祉国家の廃止は、国民と国家の間の互酬関係——税金と忠誠の見返りとしての社会保障——を破壊する。国民が国家に帰属する動機が失われ、ゲマインシャフト的紐帯はさらに弱体化する。

EUは現在この段階にある。緊縮財政政策によって南欧諸国の福祉が削減され、移民の増加によってゲマインシャフト的紐帯が動揺し、ポピュリズムが台頭している。フランスの国民連合、ドイツのAfD、イタリアのイタリアの同胞——これらはポランニーが予見した社会の自己防衛運動の現代的発現にほかならない。

第11段階:マジョリティとマイノリティの逆転

移民と先住民の人口数が逆転し、社会的・経済的少数派が主導権を握る。

マジョリティの地位を失えば、二度とマジョリティに戻ることはない。マックス・ウェーバーが定義した通り、国家とは特定の集団による領域内の暴力装置の独占である。マジョリティの地位を失った民族は、政治的意思決定権を失い、自らの運命を他者に委ねることになる。

アメリカは現在この段階にある。白人が人口の多数派でなくなりつつあり、社会的緊張が急速に高まっている。白人がマイノリティに転落したのは、民族と政治を切り離す自由民主主義自体が原因であった。

自由と平等を支持していたマイノリティは、新たにマジョリティになれば、反自由主義によってマイノリティを迫害・弾圧するだろう。マジョリティは常に反自由主義を支持し、マイノリティは自由主義を支持する。しかしマイノリティとマジョリティが逆転すれば、新たなマジョリティは反自由主義を支持して弾圧するだろう。これが内戦のリアリズムだ。

第12段階:経済バブルの崩壊

バブル崩壊によるゲゼルシャフトの崩壊が起きる。

インフレによる富の収奪を原動力にする信用経済は永遠に続かず、いつか勘定を清算するタイミングが来る。社会の安定性や治安を犠牲にした経済発展の後に待ち受けるのは、バブル崩壊、ゲゼルシャフト崩壊、ゲマインシャフト崩壊、嘘と偽善で押さえつけてきた大衆の怒りの表出である。

金融資本によるゲゼルシャフト的秩序は、信用と成長の期待に依存している。経済危機はこの期待を粉砕し、残されたのは機能不全のゲゼルシャフトと、すでに破壊されたゲマインシャフトの残骸である。

第13段階:反動と内戦

破壊されたゲマインシャフトを再生するための反動や内戦が発生する。

ポランニーの「二重運動」論によれば、市場化の圧力に対して社会は必ず自己防衛運動を起こす。しかし、ゲマインシャフトがすでに深く破壊された段階では、この自己防衛運動は暴力的な形態をとる。反動的な民族主義、極右勢力の台頭、民族間の暴力的衝突——これが内戦の形態である。

チュアが論じた通り、自由市場と自由民主主義の同時導入がマーケット・ドミナント・マイノリティによる経済支配と、多数派民族の反発を通じた暴力的反動を引き起こす。

第14段階:分裂国家

国家が複数の小国家や地域に分裂する。

内戦の結果として、もはや単一の国民国家としての統合を維持できなくなった国家は、民族的・地域的な境界線に沿って複数の政治体に分裂する。ユーゴスラビアの解体(1991年–2008年)、ソビエト連邦の崩壊(1991年)は、この段階の歴史的事例である。

各国の進行状況

国・地域 現在の段階 主な特徴
日本 第9段階 中間層の崩壊、非正規雇用の増加、移民拡大の圧力、産業の空洞化。ゲマインシャフト的紐帯は弱体化しているが、まだ完全には崩壊していない
EU 第10段階 緊縮財政による福祉国家の後退、移民による社会的緊張、ポピュリズムの台頭。フランス、ドイツ、イタリアで反動が顕在化
アメリカ 第11段階 白人のマイノリティ化、社会の二極化、政治的分断。内戦のリスクが現実のものとなりつつある

Slow CountryとFast Country

崩壊過程の進行速度は、国家の文明的性格によって根本的に異なる。

Slow Country——定常的世界観

ロシアや中国、イスラム圏の国は、緩やかに変化する定常的な世界観を持っているSlow Countryである。

  • 統治原理: マジョリティによる統治を民主的と定義する。民族自決権が制度的に保障されている
  • 社会基盤: 共同体主義であり、ゲマインシャフト的紐帯が社会の基盤をなす。内戦をもたらさず、持続可能である
  • 民族と政治: 民族と政治が血で結合されており、サイレント・インベージョンを許さない。国境管理が厳格である
  • 経済体制: 国家が経済を統制し、産業政策を積極的に実行する。市場は社会に「埋め込まれた」状態にある

Slow Countryは崩壊モデルの第4段階以降に進行しにくい構造を持っている。民族と政治が一体化しているため、国家内共同体(第6段階)の台頭が構造的に抑制されるからである。

Fast Country——変動する異常な世界観

欧米は、変動する異常な世界観を持っているFast Countryである。

  • 統治原理: マーケット・ドミナント・マイノリティやノイジー・マイノリティによる統治を民主的と定義する
  • 社会基盤: ゲマインシャフトを不自由にし、共同体を解体することを至上命題としている。持続可能の対極にある
  • 経済原理: 両性具有の経済的合理人になった個人をゲゼルシャフトが徹底的に搾取する世界観である。国民国家を破壊することによって目先の利益の最大化を追求している
  • 法制度: 法治主義を採用し、サイレント・インベージョンを合法化している

Fast Countryの行き着く先は、無規制無計画資本主義、自由個人主義、移民、反動、内戦、ファシズムという破滅的な連鎖である。移民の大量受け入れ、伝統の破壊、共同体崩壊、福祉国家崩壊、無規制資本主義の進展——これこそが、欧米が声高に主張する普遍的価値観の正体である。

自己破壊的で自虐的な価値観を採用したからといって、それを根拠に他の国や文明に内政干渉することは許されない。内戦に向かう短命のアメリカ型の自由個人主義や普遍主義を、採用するべきではない。

崩壊を回避するための処方箋

日本が第9段階から崩壊へと進行することを阻止するためには、以下の政策が不可欠である。

  • 崩壊の段階を正確に認識すること: 自国がどの段階にあるかを客観的に評価し、次の段階への移行を阻止する政策を立案する
  • ゲマインシャフトの再建: 共同体的紐帯を制度的に再建する。地域共同体、家族、民族的アイデンティティを政策的に強化する
  • 産業政策の復活: 金融資本の暴走を抑制し、産業資本を国内に回帰させる。中間層を再建する経済政策を実行する
  • 移民の停止: 低賃金移民政策を即座に停止し、スマートシュリンクによって人口減少に対応する
  • 国家内共同体の統制: マーケット・ドミナント・マイノリティの経済的・政治的影響力を制限する
  • 国際条約の破棄: 国家主権を奪う国際条約や国際公約を破棄する
  • 米軍撤退: アメリカ軍の駐留は新自由主義秩序の維持装置である。米軍撤退なくして崩壊の阻止はあり得ない

ゲマインシャフトからの収奪を防ぎ、利益相反のある利己的なアイデンティティを持つ国家内共同体の台頭を許してはならない。日本は、アメリカとヨーロッパに内戦をもたらしている自由民主主義と移民政策を採用するべきではない。

参考文献

関連項目