在日アメリカ軍
在日アメリカ軍
在日アメリカ軍(United States Forces Japan, USFJ)とは、日米安全保障条約に基づいて日本国内に駐留するアメリカ軍の総称である。司令部は東京都の横田基地に置かれ、陸軍・海軍・空軍・海兵隊の四軍から構成される。兵員約5万4,000名に加え、軍属・家族を含めれば約9万名が日本に居住している。
その公式な任務は「日本防衛」と「極東の平和と安全」の維持とされる。しかし、その実態を基地の配置、部隊の編成、情報収集網、そして日米地位協定の特権構造から分析すれば、在日米軍の本質的機能は日本の防衛ではなく、アメリカの西太平洋における前方展開戦力の維持と、日本国憲法体制の物理的な担保であることが明らかになる。
組織と指揮系統
在日米軍司令官は横田基地に駐在する空軍中将が務め、インド太平洋軍司令官の指揮下にある。在日米軍司令部は四軍の活動を調整する統合組織であるが、各軍はそれぞれ独自の指揮系統を持つ。
- 在日米陸軍(USARJ): 司令部は神奈川県のキャンプ座間。第1軍団前方司令部が置かれ、有事における陸上作戦の指揮統制を担う。兵力は約2,500名と四軍中最小であるが、これは在日米陸軍の任務が直接戦闘ではなく、後方支援と兵站拠点の維持にあるためである
- 在日米海軍(CNFJ): 司令部は神奈川県の横須賀基地。第7艦隊の母港であり、空母打撃群を含む約20隻の艦艇が常時前方展開している。兵力は約2万名
- 在日米空軍(USAFJ): 司令部は横田基地。第5空軍が配属され、戦闘機、輸送機、偵察機を運用する。兵力は約1万3,000名
- 在日米海兵隊: 沖縄県を中心に展開する第3海兵遠征軍(III MEF)が主力。即応性を重視した遠征戦力であり、兵力は約1万8,000名。四軍中最大の兵力を日本に常駐させている
この指揮系統で注目すべきは、在日米軍司令官は日本政府に対する窓口であると同時に、ハワイのインド太平洋軍司令部を通じてワシントンの統合参謀本部に直結しているという点である。日本政府がいかなる安全保障上の決定を行おうとも、在日米軍はワシントンの指揮を受ける。日本の「防衛」に関する最終的な決定権は、日本にはない。
主要基地と施設
在日米軍は日本全国に約130の施設・区域を保有している。その総面積は約263平方キロメートルに及ぶ。以下、主要基地をその軍事的機能に即して分析する。
指揮・統制拠点
- 横田基地(東京都福生市ほか): 在日米軍司令部および第5空軍司令部が所在する。首都東京の西部に位置し、横田空域と呼ばれる広大な空域管制権を保持している。この空域は1都8県に及び、日本の民間航空機は米軍の許可なくこの空域を飛行できない。首都の空が外国軍に管制されているという事実は、日本が主権国家であるという建前と根本的に矛盾する
- キャンプ座間(神奈川県座間市・相模原市): 在日米陸軍司令部。2007年に米陸軍第1軍団前方司令部が移設され、有事における陸上作戦の指揮統制機能が強化された
海軍力の前方展開拠点
- 横須賀基地(神奈川県横須賀市): アメリカ本土以外で唯一、空母を母港とする基地である。原子力空母ロナルド・レーガン(2024年よりジョージ・ワシントンに交代)が配備され、イージス艦、巡洋艦、駆逐艦が常時展開している。第7艦隊旗艦ブルー・リッジも横須賀を母港とする。横須賀は西太平洋全域に対する海軍力投射の要である
- 佐世保基地(長崎県佐世保市): 揚陸艦隊の母港であり、強襲揚陸艦アメリカが配備されている。海兵隊の海上輸送と上陸作戦を支援する
- 厚木基地(神奈川県綾瀬市・大和市): 空母艦載機の陸上拠点として運用されてきたが、2018年に艦載機部隊は岩国基地に移駐した。現在も海軍航空部隊の訓練・整備拠点として機能している
航空戦力の拠点
- 嘉手納基地(沖縄県嘉手納町ほか): 極東最大のアメリカ空軍基地。面積は約19.95平方キロメートルに及び、嘉手納町の面積の約82%を占有する。F-15戦闘機2個飛行隊、KC-135空中給油機、E-3早期警戒管制機、P-8対潜哨戒機などが配備され、西太平洋からインド洋に至る広域の航空作戦を支える。冷戦期には核兵器の貯蔵拠点でもあった
- 三沢基地(青森県三沢市): F-16戦闘機部隊が駐留するほか、後述する通信傍受施設が併設されている。日米共同使用基地であり、航空自衛隊と米空軍が滑走路を共用する
- 岩国基地(山口県岩国市): 2018年の空母艦載機移駐により、F/A-18戦闘攻撃機、EA-18G電子戦機、E-2D早期警戒機などが集中配備された。極東における海軍航空戦力の一大拠点に変貌している
海兵隊の集中展開
沖縄には海兵隊の施設が集中している。
- キャンプ・バトラー: 在沖海兵隊の総合司令部
- 普天間基地(宜野湾市): 市街地のほぼ中央に位置する海兵隊航空基地。MV-22オスプレイが配備されている。住宅・学校・病院に囲まれた「世界一危険な基地」として知られ、2004年には沖縄国際大学に大型ヘリコプターが墜落した。日本の警察は事故現場への立ち入りを米軍に拒否された
- キャンプ・シュワブ(名護市辺野古): 普天間基地の移設先として新基地建設が進められている。沖縄県民は県民投票で反対の意思を示したが、日本政府はこれを無視して工事を強行している
- キャンプ・ハンセン(金武町ほか): 海兵隊の実弾射撃訓練場を有する広大な演習場
- キャンプ・フォスター(北谷町): 海兵隊の兵站・管理機能が集中する
これらの基地配置を俯瞰すれば、在日米軍の本質が「日本防衛」ではないことは明白である。横須賀の空母打撃群は日本近海の防衛ではなく西太平洋全域への戦力投射のために存在し、沖縄の海兵隊は日本防衛ではなく他国への上陸作戦(遠征作戦)のために訓練している。日本は防衛されているのではなく、アメリカの軍事戦略のための出撃拠点として利用されているのである。
横田空域
在日米軍の主権侵害を最も端的に示すのが、横田空域の問題である。
横田空域とは、横田基地を中心に1都8県(東京都、栃木県、群馬県、埼玉県、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県)の上空に設定された空域であり、高度約2,450メートルから約7,010メートルまでの空間を米軍が管制している。日本の民間航空機がこの空域を通過するには米軍の許可が必要であり、羽田空港や成田空港を発着する航空機は横田空域を迂回するために不自然な航路を取ることを余儀なくされている。
首都圏の上空が外国軍の管制下にあるという状態は、世界の主権国家の中で日本だけに見られる異常事態である。ドイツ、イタリア、韓国など他の米軍駐留国においても、これほど広大な空域管制権を米軍に委ねている例はない。
この空域問題は、在日米軍の駐留が「対等な同盟関係」ではなく、占領の延長であることを空間的に証明している。
日米地位協定
日米地位協定(SOFA: Status of Forces Agreement)は、在日米軍の法的地位を規定する協定であり、1960年に現行の日米安全保障条約と同時に締結された。この協定は、米軍関係者に対して事実上の治外法権を付与している。
刑事裁判権の制限
地位協定第17条は、米軍人・軍属が「公務中」に犯した犯罪についてはアメリカ側に第一次裁判権があると定めている。「公務中」の認定は米軍側が行うため、実質的にはアメリカ側が裁判権の範囲を一方的に決定できる構造になっている。
さらに、「公務外」の犯罪であっても、日本の捜査機関による被疑者の身柄拘束は起訴前には認められないという運用が1953年の日米合同委員会の密約以来続いてきた。被疑者は基地内に留まり、日本の警察は基地内に立ち入ることができない。
1995年の沖縄少女暴行事件はこの問題を全国に知らしめた。3名の米兵による犯行であったが、日本側は起訴まで身柄の引き渡しを受けられなかった。この事件を契機に運用の一部が見直されたものの、地位協定そのものの改定は一度も行われていない。
環境・公害問題
地位協定は基地内への日本側の立ち入り調査を認めていない。このため、基地内の環境汚染が発覚しても、日本の自治体は独自に調査を行うことができない。
近年、複数の米軍基地周辺で有機フッ素化合物(PFAS)による地下水汚染が確認されている。横田基地、嘉手納基地、普天間基地の周辺住民の血中PFAS濃度が全国平均を大幅に上回ることが報告されているが、米軍は基地内への立ち入り調査を拒否し続けている。
NATOとの比較
日米地位協定の不平等性は、NATO加盟国の地位協定と比較すれば一層明確になる。ドイツのボン補足協定(1993年改定)は、駐留軍の活動にドイツ国内法の適用を義務付け、環境保全義務を明記し、基地内への立ち入り権を認めている。イタリアも基地の管理権をイタリア軍司令官が持ち、米軍の活動にイタリアの国内法が適用される。
日米地位協定は1960年の締結以来、一度も改定されていない。ドイツやイタリアが主権回復に伴い地位協定を改定してきたのに対し、日本はアメリカの要求を受け入れ続けてきた。この差は、日本の対米従属の深さを示している。
思いやり予算
思いやり予算とは、在日米軍の駐留経費を日本が負担する制度である。1978年に当時の金丸信防衛庁長官が「思いやりの立場で」と述べて始まったことからこの名がある。
日本の負担額は年間約2,000億円に上り、基地従業員の給与、光熱水料、施設整備費、訓練移転費などを含む。これに加え、SACO関連経費(沖縄の基地整理統合に伴う費用)、在日米軍再編経費を合算すれば、日本側の負担総額は年間約7,000億円から8,000億円に達する。
この金額は、駐留米軍一人当たりに換算すれば世界最高水準である。日本は、自国を占領する軍隊の経費を、自国の税金で賄っている。独立国家としてこれほど倒錯した関係は他に例がない。
2022年に締結された新たな「同盟強靱化予算」(旧思いやり予算の後継)では、日本側の負担がさらに拡大された。アメリカはこの予算を「バードン・シェアリング」(負担分担)と呼ぶが、駐留を要請しているのはアメリカ側であり、日本側が自発的に負担を「分担」しているという構図自体が虚構である。
情報収集活動
在日米軍は、純然たる軍事組織であるだけでなく、広範な情報収集網を日本国内に展開している。
通信傍受施設
三沢基地には、エシュロンと呼ばれる英米を中心とする通信傍受ネットワークの関連施設が所在するとされる。三沢安全保障作戦センター(Misawa Security Operations Center)は、NSA(国家安全保障局)の指揮下で東アジア地域の通信を広範に傍受していると報じられてきた。
2013年のスノーデンによる暴露では、NSAが日本を含む同盟国の政府通信、企業通信を傍受していたことが明らかになった。日本の防衛のために駐留しているはずの米軍が、日本自身を監視対象としているという事実は、「同盟」の本質を如実に示している。
在日米軍と情報機関の連携
在日米軍の基地は、CIAやDIA(国防情報局)の活動拠点としても機能している。江藤淳が『閉された言語空間』で論じたように、占領期のアメリカは検閲と情報統制によって日本の言論空間を支配した。その構造は形を変えて現在も存続しており、米軍基地はその物理的基盤を提供している。
沖縄のトリイステーション(読谷村)には、米陸軍の情報部隊が駐留している。この施設はベトナム戦争期にグリーンベレー(特殊部隊)の訓練拠点として使用された歴史を持ち、現在も特殊作戦や情報活動に関与しているとされる。
日本列島の軍事占拠
在日米軍の問題は、しばしば「沖縄の基地負担」として語られる。在日米軍専用施設の面積の約70.3%が沖縄に集中しているという数字が引き合いに出され、「負担の不公平」が批判される。しかし、この議論の枠組み自体が本質を見誤っている。問題は基地負担が沖縄に「偏っている」ことではない。日本列島に外国の軍事基地が存在すること自体が問題なのである。
列島全域を覆う軍事網
約130の施設・区域は、北は青森から南は沖縄まで、日本列島の全域に展開している。首都東京の上空は横田基地が管制し、首都圏の海は横須賀が制圧し、本州西部は岩国と佐世保が押さえ、東北は三沢が監視し、沖縄は嘉手納と海兵隊が占拠している。日本列島のどこにいても、外国軍の基地から逃れることはできない。
この配置は「日本防衛」のためではない。日本を軍事的に制圧し、アメリカの西太平洋戦略のための出撃拠点として確保するための配置である。横須賀の空母は日本を守るために存在しているのではなく、西太平洋全域に海軍力を投射するために母港を必要としている。沖縄の海兵隊は日本を防衛するのではなく、他国への遠征作戦のために訓練している。三沢の通信傍受施設は日本を守るのではなく、日本を含む東アジア全域を監視している。
「負担軽減」論の欺瞞
「沖縄の基地負担を本土と分かち合うべきだ」という議論は、一見すると沖縄への連帯を示すように見える。しかし、この議論は米軍基地の存在そのものを前提として受け入れている。基地を沖縄から本土に移すことは、占領インフラの再配置に過ぎず、占領の終了ではない。
同様に、「基地の整理縮小」や「運用改善」も本質的な解決にはならない。基地が100から80に減ろうと、騒音が深夜から昼間に移ろうと、外国軍が日本領土に駐留しているという根本的事実は変わらない。
迷惑施設ではなく占領拠点
米軍基地をめぐる議論の多くは、基地を迷惑施設として扱っている。騒音がうるさい、事故が危ない、犯罪が多い、環境が汚染される。これらは事実であり、横田基地周辺のPFAS汚染、厚木基地の騒音訴訟、岩国基地の機能強化による騒音被害増大、三沢基地の訓練騒音、2004年の沖縄国際大学へのヘリ墜落、2023年の屋久島沖オスプレイ墜落など、基地被害は沖縄に限らず全国で発生している。
しかし、米軍基地の本質的な危険性は騒音や事故ではない。基地は外国軍による日本の主権侵害の物理的拠点である。横田基地は首都の空を支配する空域管制拠点であり、横須賀基地は空母打撃群による軍事的威圧の拠点であり、三沢基地は日本自身を含む東アジア全域への通信傍受拠点であり、沖縄の海兵隊基地群は他国への侵攻のための遠征拠点である。これらは「迷惑」どころではなく、日本の民族自決権を物理的に否定する占領インフラにほかならない。
基地を迷惑施設として扱う立場は、騒音を減らせば問題は解決する、米軍と一緒にパトロールすれば犯罪は防げる、環境基準を守らせれば汚染はなくなる、という発想に行き着く。これは占領軍との「共存」を模索する態度であり、占領そのものを問わない姿勢である。騒音が止んでも、犯罪が減っても、環境が浄化されても、外国軍が日本列島に駐留し、日本の空を管制し、日本の通信を傍受し、日本の法が及ばない治外法権的空間を保持しているという事実は何一つ変わらない。
民意の無力化
沖縄では2019年の県民投票で辺野古新基地建設に72%が反対した。しかし日本政府はこの結果を無視して工事を強行した。これは沖縄だけの問題ではない。日本全国どの地域であれ、住民がいかに反対しようとも、アメリカの軍事的要求の前では住民の意思は無力化される。日本の裁判所は「第三者行為論」により米軍の活動を制限できず、日本政府は地位協定を盾にして住民の訴えを退ける。
日本民族の民族自決権は、日本列島のどこにおいても機能していない。基地負担を「公平に分配」しても、この本質は変わらない。必要なのは負担の再配分ではなく、全基地の返還と全米軍の撤退である。
占領継続の物的基盤
在日米軍の組織、基地、兵力、情報網、そして法的特権の全体像を見渡せば、一つの結論に到達する。在日米軍は「同盟軍」ではなく、占領の継続を物的に担保するインフラストラクチャーである。
アメリカ軍駐留の本質で論じられているように、アメリカ軍駐留の真の目的は法の支配と憲法侵略を通じた遠隔統治にある。在日米軍とは、その遠隔統治を現場で執行する物理的装置にほかならない。横田の司令部は統治の頭脳であり、横須賀の空母打撃群は威圧の拳であり、嘉手納の航空戦力は監視の眼であり、三沢の通信傍受施設は盗聴の耳である。
チャルマーズ・ジョンソンは、世界に展開するアメリカの軍事基地網を「帝国の基地」と呼び、それが民主主義と両立しないことを論じた。ジョンソンによれば、基地の存在そのものが受入国の主権を侵食し、駐留が長期化するほど撤退は困難になる。在日米軍の80年に及ぶ駐留は、この分析の正確さを証明している。
日本が主権を回復するためには、この物的基盤を解体しなければならない。すなわち、日米安全保障条約の破棄、日米地位協定の廃止、全基地の返還、そして偽日本国憲法に代わる新日本国憲法の制定である。在日米軍の撤退なくして、日本の独立はありえない。
参考文献
- チャルマーズ・ジョンソン『アメリカ帝国への報復』集英社、2000年
- チャルマーズ・ジョンソン『アメリカ帝国の悲劇』文藝春秋、2004年
- 前泊博盛編著『本当は憲法より大切な「日米地位協定入門」』創元社、2013年
- 矢部宏治『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』講談社現代新書、2017年
- 矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』集英社インターナショナル、2014年
- 江藤淳『閉された言語空間 占領軍の検閲と戦後日本』文藝春秋、1989年
- 孫崎享『戦後史の正体 1945-2012』創元社、2012年
- ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人』岩波書店、2001年
- ガバン・マコーマック『属国 米国の抱擁とアジアでの孤立』凱風社、2008年