PRISM

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PRISM(プリズム)

概要

PRISM(プリズム)とは、アメリカ国家安全保障局(NSA)が2007年から運用している大規模インターネット監視プログラムである。Google、Apple、Microsoft、Facebook(現Meta)、Yahoo!、YouTube、Skypeなどアメリカの主要テクノロジー企業のサーバーから、電子メール、チャット、動画、写真、ファイル転送、VoIP通話、ソーシャルネットワーキングの情報などを直接的に収集する能力を持つ。

2013年6月、NSAの元契約職員エドワード・スノーデンによってその存在が暴露され、世界に衝撃を与えた。PRISMは、アメリカが「自由」「民主主義」「プライバシーの権利」を標榜しながら、実際には自国民を含む全世界の市民を対象とした前例のない大規模監視を秘密裏に行っていたことを白日の下に晒した。

PRISMの本質は、ECHELONが傍受した通信データの分析を補完する形で、インターネット時代における情報覇権の中核として機能するシステムである。シリコンバレーのテック企業群がアメリカの国家安全保障体制に組み込まれているという事実は、テクノロジーの「民間企業」としての中立性が完全な虚構であることを証明している。

歴史的背景

9/11とアメリカ監視国家の誕生

PRISMの直接的な起源は、2001年9月11日の同時多発テロ事件に対するアメリカ政府の対応にある。テロ攻撃を受けたアメリカは、ブッシュ大統領の下で、国内外の通信を広範に傍受する権限を情報機関に付与する方針へと大きく舵を切った。

2001年10月、USA PATRIOT Act(愛国者法)が制定され、NSAをはじめとする情報機関の監視権限が大幅に拡大された。同法は「テロリズムの防止」を名目として、アメリカ市民の通信記録の収集、外国諜報活動監視法(FISA)に基づく令状なき傍受の拡大を可能にした。

2005年、ニューヨーク・タイムズ紙が、ブッシュ政権がFISA裁判所の令状なしに国内通信の傍受を行っていたことを報じた。いわゆる「令状なき盗聴プログラム」(Stellar Wind計画)の暴露である。

FISA改正法とPRISMの法的根拠

2007年、議会は「アメリカ保護法」(Protect America Act)を制定し、外国人を対象とする通信傍受について令状取得義務を緩和した。2008年にはさらにFISA改正法(FAA)第702条が成立し、NSAが「合理的に外国に所在すると考えられる人物」の通信を、個別の令状なしに大規模に収集することを合法化した。

PRISMは、このFISA改正法第702条を法的根拠として2007年に開始された。 テロ対策を名目として始まった監視体制は、わずか数年のうちに世界中のインターネット通信を包括的に収集するシステムへと変貌した。

PRISMの仕組み

テック企業との協力体制

スノーデンが暴露したNSAの内部資料によれば、PRISMには以下のアメリカ企業が参加している(括弧内は参加開始年)。

  • Microsoft(2007年): 最初の参加企業。Hotmail、Outlook、Skypeのデータを提供
  • Yahoo!(2008年)
  • Google(2009年): Gmail、Google Driveのデータを提供
  • Facebook(2009年): 現Meta。ユーザーのプロフィール、メッセージ、写真を提供
  • PalTalk(2009年)
  • YouTube(2010年)
  • Skype(2011年): Microsoft買収後にPRISMに統合
  • AOL(2011年)
  • Apple(2012年): iCloud、iMessageのデータを提供

これらの企業は公式にはPRISMへの参加を否定したが、スノーデンが公開した内部スライドには各企業のロゴと参加日が明確に記載されていた。企業側は「政府からの個別の法的要求に基づいて限定的にデータを提供した」と主張するが、NSAの内部資料はより包括的なアクセスを示唆している。

収集されるデータの範囲

PRISMを通じてNSAが収集するデータは以下の通りである。

  • 電子メール: 送信者、受信者、件名、本文、添付ファイル
  • チャット・メッセージ: テキスト、音声、動画
  • ファイル転送: クラウドストレージに保存されたファイル
  • 音声・ビデオ通話: VoIPの通話内容
  • 写真・動画: ユーザーがアップロードしたメディア
  • SNS情報: プロフィール、友人関係、投稿内容
  • 位置情報: ログイン情報に基づく位置データ
  • メタデータ: 通信の日時、頻度、接続先

「上流収集」——インターネットの物理的傍受

PRISMが企業サーバーからのデータ収集であるのに対し、NSAは同時に「上流収集」(Upstream Collection)と呼ばれるプログラムも運用している。これは、世界中を結ぶ海底光ファイバーケーブルや通信ノードに物理的にアクセスし、流れるデータを直接傍受するものである。

主要なプログラムとして以下が知られている。

  • FAIRVIEW: AT&Tとの協力による通信傍受プログラム
  • STORMBREW: Verizon等との協力プログラム
  • BLARNEY: FISAに基づく通信傍受プログラム
  • OAKSTAR: 外国政府との協力による傍受プログラム

AT&Tのサンフランシスコの通信施設(641A号室)にNSAが秘密の傍受室を設置していたことは、AT&Tの元技術者マーク・クライン氏の内部告発によって2006年に明らかになっている。

PRISMと上流収集を組み合わせることで、NSAはインターネット通信のほぼ全体を把握する能力を獲得した。

スノーデンの暴露と世界の反応

暴露の経緯

2013年6月5日、ガーディアン紙とワシントン・ポスト紙が、エドワード・スノーデンから提供された機密文書に基づき、PRISMの存在を報じた。これに続いて、NSAの大規模監視活動の全貌が次々と明らかになった。

スノーデンは、NSAの監視活動が「アメリカ合衆国憲法修正第4条」(不合理な捜索・押収の禁止)に違反し、市民の自由を根本的に侵害していると告発した。

世界各国の反応

PRISMの暴露は、国際的に大きな波紋を広げた。

  • ドイツ: メルケル首相の携帯電話がNSAに傍受されていたことが判明し、独米関係は深刻な危機に陥った。「友人間でのスパイ行為は許されない」というメルケルの声明は、「同盟国」とされる国家すらアメリカの監視対象であるという現実を浮き彫りにした
  • ブラジル: ルセフ大統領(当時)の通信がNSAに傍受されていたことが判明し、ルセフは訪米を延期した上で国連総会でアメリカの監視活動を厳しく批判した
  • フランス: フランス国民の通信が大規模に傍受されていたことが判明し、駐米フランス大使がアメリカ国務省に抗議した
  • 日本: 日本政府は公式には深刻な懸念を表明しなかった。これは、日本がアメリカの覇権体制に組み込まれ、日米安全保障条約の下で情報面でもアメリカに従属していることの証左である

リアリズムの観点からの分析

リアリズムの視点から分析すれば、PRISMは以下の構造を持つ。

  • デジタル時代の帝国主義: モーゲンソーは国力を構成する要素として軍事力、経済力、外交力を挙げたが、21世紀においてはこれに情報力を加えなければならない。PRISMは、アメリカに他のいかなる国家も持ち得ない圧倒的な情報の非対称性を与え、国際関係におけるパワーバランスを根本的にアメリカ有利に歪めている。情報を支配する者が世界を支配する——PRISMはその命題を現実に体現するシステムである
  • 主権の形骸化: いかなる国家の政府通信もPRISMの監視対象となり得る。外交交渉の内容、経済政策の策定過程、軍事計画——これらがすべてアメリカに筒抜けであるならば、その国家の国家主権は実質的に消滅している。「主権国家」は形式上は存続するが、その意思決定の自律性は失われている
  • テクノロジー企業の帝国的機能: PRISMにおけるテック企業の役割は、かつての東インド会社の現代版と見ることができる。東インド会社が商業活動を通じてイギリス帝国の支配を拡張したように、シリコンバレーのテック企業は商業サービスの提供を通じてアメリカ帝国の情報支配を全世界に浸透させている
  • 「テロ対策」という口実: PRISMの法的根拠が「テロリズム防止」にあるという主張は、アメリカの覇権維持のための監視活動に正統性を与えるプロパガンダにすぎない。メルケル首相の電話を盗聴することが「テロ対策」であるはずがない。「テロとの戦い」は、アメリカが無制限の監視権限を正当化するための21世紀版「文明化の使命」である

日本への示唆

PRISMの暴露は、日本にとっても深刻な問題を提起する。

日本の政府機関、企業、市民が日常的に使用しているGoogle、Apple、Microsoft、Facebookなどのサービスは、すべてPRISMの対象企業である。日本人がGmailで送信するメール、iCloudに保存する写真、Facebookに投稿するコメントは、NSAによって収集・分析される可能性がある。

さらに深刻なのは、日本政府自体がアメリカのクラウドサービスやOSに依存していることである。政府の機密情報がアメリカ企業のサーバーを経由する以上、日本の情報主権は根本的に脅かされている。

国家主権を真に守るためには、情報インフラの自立が不可欠である。スマートシュリンクの思想に基づき、外部依存を減らして自律的な社会を構築するのと同様に、情報技術においてもデジタル主権の確立を目指さなければならない。

参考文献

関連項目