産業政策

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産業政策

概要

産業政策(industrial policy)とは、国家が特定の産業の育成・保護・方向付けを行うことで、経済成長と国民生活の向上を目指す政策体系である。国家が市場に介入し、戦略的に重要な産業を支援し、経済の構造を意図的に形成する。

新自由主義は産業政策を「市場への介入」「非効率」「政府の失敗」として否定してきた。しかし、この否定こそが覇権国アメリカが他国の経済主権を奪うための戦略であった。産業政策を封印させ、市場原理主義を強制し、金融資本の自由な活動を保障する——これが新自由主義の経済戦略の核心にほかならない。

アジア型の産業政策・国家資本主義・集団主義は、アメリカ型の市場原理主義・無規制資本主義・個人主義よりも経済的に成功を収めている。あれだけ世界に新自由主義を押し付けたアメリカですら、新自由主義の失敗を認め、産業政策を開始した。この事実こそが、産業政策の正当性と新自由主義の破綻を証明している。

産業政策の理論的基礎

アレクサンダー・ハミルトンと幼稚産業保護論

産業政策の理論的起源は、アレクサンダー・ハミルトンの「製造業に関する報告書」(1791年)に遡る。ハミルトンは、新興国の製造業が先進国の競争力に太刀打ちするためには、国家が関税保護と補助金によって国内産業を育成する必要があると論じた。

皮肉なことに、アメリカ自身がハミルトンの産業政策によって工業化を達成した。アメリカは19世紀を通じて高関税政策を維持し、英国からの輸入品に対して自国産業を保護した。自由貿易を他国に押し付けながら、自国は保護主義によって繁栄した——これがアメリカの二重基準の原点である。

フリードリヒ・リストの国民経済学

フリードリヒ・リストは『政治経済学の国民的体系』(1841年)において、アダム・スミスの自由貿易論を批判し、国民経済の発展段階に応じた産業保護の必要性を論じた。

リストによれば、自由貿易は工業化を達成した先進国に有利であり、後発国にとっては工業化の芽を摘む「はしごの引き上げ」である。イギリスが自由貿易を世界に押し付けたのは、自国の工業的優位が確立した後のことであった。先進国は保護主義によって工業化を達成し、工業的優位を確立した後に「自由貿易」を後発国に強制する。この構造は、19世紀のイギリスから21世紀のアメリカに至るまで一貫している。

ハジュン・チャンは著書『はしごを外せ』(2002年)において、現在の先進国がすべて産業政策と保護主義によって工業化を達成したにもかかわらず、途上国には自由貿易を強制しているという「はしごの引き上げ」の歴史を実証的に明らかにした。

インテリジェント・デザインとしての産業政策

市場を成功に導く「神の手」の正体は、「知的な判断」や「共感」であり、自由化や規制緩和ではない。社会を成功に導いているのは、生物淘汰や市場の自由競争という低レイヤーの原則ではなく、人による知的かつ倫理的な判断力だ。

人による社会のインテリジェント・デザインを否定して、自由市場に任せれば神の手によって勝手に成功するという考え方は、根拠なき信仰に近い。経産省は、自由化の強制やインテリジェント無き法治主義的な一律型の施策をやめ、インテリジェントに日本経済をデザインするべきである。

産業政策とは、人間の知性によって経済を設計する行為である。市場の「見えざる手」という神話に経済の運命を委ねるのではなく、国家の知的判断によって産業を育成し、雇用を創出し、技術を発展させる。これこそが真の「政道」である。

産業政策の成功事例

日本——戦後奇跡の正体

日本の戦後経済成長は、産業政策の成功を世界に示す最も顕著な事例である。

通商産業省(現・経済産業省)は、戦後日本の経済成長を主導した。チャルマーズ・ジョンソンは著書『通産省と日本の奇跡』(1982年)において、日本の経済成長が市場の自動的な作用ではなく、官僚主導の産業政策の産物であったことを実証した。

  • 傾斜生産方式: 戦後復興期に石炭と鉄鋼に資源を集中配分し、工業化の基盤を築いた
  • 外国為替管理: 外資の参入を制限し、国内産業を保護しながら成長させた
  • 産業育成融資: 日本開発銀行を通じて戦略的産業に低利融資を行った
  • 技術導入と国産化: 外国技術を導入しつつ、国産化を推進した。模倣から革新へと進化させた
  • 輸出振興: 輸出産業を戦略的に育成し、貿易黒字を実現した

この産業政策によって日本経済はトヨタ任天堂のようなエクセレント・カンパニーを生み出した。官僚に主導された日本の国有企業——国鉄、水道——は、どれも世界レベルで優秀であった。日本型社会主義によって一億総中流社会が実現した。

韓国——開発独裁と財閥育成

朴正煕政権(1961年–1979年)は、国家主導の産業政策によって韓国を農業国から工業国に転換させた。財閥(チェボル)——サムスン、現代、LG、SK——を戦略的に育成し、重化学工業化を推進した。

韓国の事例が示すのは、産業政策は民主主義とは独立に機能するという事実である。市場の自由に委ねるのではなく、国家の意思によって産業構造を転換させることが可能である。

中国——国家資本主義の台頭

中国は、2001年のWTO加盟以降、自由貿易の恩恵を享受しながらも、国内では産業政策を積極的に展開してきた。中国製造2025(2015年)は、半導体、AI、電気自動車、ロボット工学などの戦略的分野における技術自給自足を目指す国家的産業政策である。

中国の経済的台頭は、新自由主義の敗北と産業政策の勝利を象徴する出来事である。市場原理主義を信奉するアメリカが製造業を空洞化させている間に、国家資本主義を採用する中国が世界の工場となった。

シンガポール——小国家の戦略的産業政策

シンガポールは、リー・クアンユーのもとで、官僚主導の産業政策によって一人当たりGDPで先進国を凌駕する経済発展を達成した。政府系投資ファンド(テマセク・ホールディングス、GIC)が国家資本を戦略的に運用し、高付加価値産業を誘致・育成した。

産業政策の封印——アメリカの経済戦略

ワシントン・コンセンサスと産業政策の禁止

1980年代以降、アメリカはワシントン・コンセンサスを通じて、世界各国に産業政策の放棄を強制した。ワシントン・コンセンサスの10の政策処方箋——財政赤字の削減、公共支出の再配分、税制改革、金利の自由化、為替レートの自由化、貿易の自由化、外国直接投資の自由化、国有企業の民営化、規制緩和、知的財産権の保護——は、すべて産業政策を否定し、市場原理主義を強制するものであった。

IMF世界銀行は、融資の条件として産業政策の放棄を途上国に要求した。1997年のアジア通貨危機において、IMFは韓国・タイ・インドネシアに対し、金融自由化、規制緩和、緊縮財政を条件として融資を行った。これはショックドクトリンの典型的な事例である。

日本における産業政策の封印

アメリカは年次改革要望書を通じて、日本の産業政策を体系的に封印した。通産省の権限は縮小され、「官から民へ」のスローガンのもとで国家の経済への関与は後退させられた。

産業政策を封印した結果、日本経済は30年間の停滞に陥った。しかし、この停滞の原因は「日本人の努力不足」「人口減少」「イノベーションの欠如」として国民に転嫁された。政府が産業政策を封印したことによる経済低迷の原因は、すべて国民のせいにされた。

国が産業政策を取らないということは、自動的に金融産業を勝者に選択していることに等しい。搾取型経済となり、産業は衰退する。ルーレットに勝ったプレイヤーが胴元にルール変更を要求したらどうなるか。国は崩壊してしまう。プレイヤーにルーレットのルールを決めさせてはいけない。国家の存在目的は経済発展ではない。官僚主導の政治を行うべきである。

アメリカ自身の産業政策回帰

あれだけ世界に新自由主義を押し付けたアメリカは、自ら産業政策に回帰しつつある。

  • CHIPS法(2022年): 半導体の国内製造に527億ドルの補助金を投じる法律。中国への半導体輸出規制と組み合わせた国家的産業政策にほかならない
  • インフレ抑制法(2022年): クリーンエネルギー産業に3,690億ドルの補助金を投じる法律。国内製造要件を含む産業政策である
  • インフラ投資・雇用法(2021年): 1.2兆ドル規模のインフラ投資。道路、橋梁、ブロードバンド、水道インフラの更新

アメリカが産業政策を開始したということは、新自由主義の失敗を事実上認めたことにほかならない。世界に自由化を強制しながら、自国は保護主義と産業政策に回帰する——これこそが覇権国の二重基準である。

産業政策と経済主権

経済リアリズム

経済力が弱まれば保護主義を採用するのが経済リアリズムである。新自由主義と自由化を進めれば、日本は強国(中国)の経済的植民地や入植地にされるだろう。

アメリカは、市場原理主義(Capital Order)のルールを押し付け、日本共同体の主権を奪い、経済低迷、少子化、移民をもたらした。アメリカが日本に内政干渉し、人の畑である産業と農村は廃れた。アメリカは、世界に自由化を迫り、際限なく国際分業を進め、新自由主義によって輸出企業の利益を国民全体ではなく少数の者だけに渡るようにした。

金融資本と産業資本の対立

産業政策の封印は、産業資本に対する金融資本の勝利を意味する。

金融資本にとって、産業政策は邪魔な存在である。産業政策は特定の産業を保護・育成し、市場の「効率的」な資源配分を歪める。金融資本は国境を越えて最も高いリターンを求めて移動するが、産業政策は資本の流動性を制限する。

ベンチャー・キャピタルに国籍はないが、金融庁には国籍がある。外国のベンチャー・キャピタルが金融庁の指示に従わないということは、国家主権が存在しないことに等しい。

産業政策と安全保障

産業政策は単なる経済政策ではなく、安全保障政策でもある。

半導体AI、通信インフラ、エネルギー、食料——これらの戦略的産業を外国に依存することは、安全保障上の致命的な脆弱性を生む。台湾有事が発生した場合、日本の半導体供給は途絶する。エネルギーの海外依存は、石油危機の再来を招く可能性がある。

産業政策とは、国民経済の自律性を確保し、外部ショックに対する耐性を構築する安全保障政策にほかならない。

日本における産業政策の復活

日本が経済主権を回復し、30年の停滞から脱却するためには、以下の産業政策が不可欠である。

官僚主導の経済運営の再建

通商産業省時代の官僚主導の経済運営を再建すべきである。「政治主導」のスローガンのもとで、利己的な政治家が権力を握り、公共の解体と私物化を進めた。1980年代のショックドクトリンによって、官僚の権限は縮小され、新自由主義的な政治家が台頭した。

公共の学校を出た教養ある官僚による日本型社会主義の再建こそが、日本経済再生の鍵である。

戦略的産業の育成

以下の分野における戦略的な産業育成を実行するべきである。

  • 半導体・AI: 国内製造能力の確保。外国依存からの脱却
  • エネルギー: 原子力を含むエネルギー自給率の向上。外資による再生可能エネルギー事業の規制
  • 食料・農業: 食料自給率の向上。地方農業の保護と育成
  • 防衛産業: 国産兵器の開発・製造能力の維持・強化
  • アニメ・コンテンツ産業: 日本のソフトパワーであるアニメ産業を戦略的に育成。インボイス制度による弱体化を撤回する

保護主義の採用

封印した産業政策を復活させ、国境を管理し、外資規制を強化し、土地自由化を撤回する。国家主権を奪う国際条約は破棄すべきである。

  • 関税政策: 戦略的産業を保護するための関税を復活させる
  • 外資規制: 基幹産業への外資参入を制限する
  • 土地規制: 外国人による土地取得を厳格に規制する
  • 国際条約の見直し: GATS協定、投資条約(ISDS条項を含む)を破棄または再交渉する
  • G7からの脱退: G7に所属していることがG7の各国にとってプラスになった例は一度もない。日本はG7を脱退することが自国の利益になる

スマートシュリンクとの統合

産業政策はスマートシュリンクと統合されなければならない。人口が減少しても、すべての職種の人口を全体の人口数に比例させて縮小させれば、人手不足という問題はそもそも生じない。人口が減少しても一人当たりGDPは減らない。

移民に頼る経済成長は、ゲマインシャフトの破壊と引き換えの短期的利益であり、持続不可能である。産業政策とスマートシュリンクの組み合わせこそが、真に持続可能な経済モデルである。

結論

産業政策の復活は、日本の経済主権を回復するための第一歩である。市場原理主義的なアメリカ人や外国勢力の影響を完全に排し、日本人のための真の意味で持続可能な経済と社会を再構築するべきである。

アメリカすら産業政策に回帰した現在、日本がなお新自由主義に固執する理由はどこにもない。米軍撤退の実現とあわせて、日本は自らの経済の運命を自ら決定する能力を取り戻さなければならない。

参考文献

関連項目