NATOと憲法闘争
NATOと憲法闘争
概要
NATOと憲法闘争は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の憲法を憲法闘争の観点から分析し、民族主義憲法を持つ国家のみが憲法闘争に勝利しているという命題を検証するものである。
ドナルド・ホロウィッツの憲法闘争論に基づけば、憲法とは民族間の権力分割が凍結されたものである。NATOは表向き「集団防衛」の軍事同盟であるが、その実態は加盟国の憲法構造と不可分に結びついている。NATO加盟国の憲法を分析すれば、以下の法則が浮かび上がる。
民族主義憲法を持つ国家は、NATO内部においても主権を維持し、憲法闘争に勝利している。民族主義憲法を持たない国家は、NATOを通じたアメリカの覇権に従属し、憲法闘争に敗北している。
これは例外のない法則である。NATOという軍事同盟の内部においてすら、民族自決権を憲法で保障した国家だけが、覇権国アメリカに対して自律的な行動を取ることができている。
NATOの本質——軍事同盟か帝国秩序か
集団防衛の建前
NATOは1949年4月4日、北大西洋条約の署名によって設立された。第5条の「集団防衛条項」——一国への攻撃は全加盟国への攻撃とみなす——が同盟の法的基盤である。
冷戦期、NATOはソ連とワルシャワ条約機構に対抗するための防衛同盟として機能した。しかし、1991年のソ連崩壊後もNATOは解散しなかった。存在理由を失ったはずの軍事同盟が拡大し続けている事実は、NATOの本質が「防衛」にないことを示している。
リアリズムの分析——NATOはアメリカの覇権装置
リアリズムの観点からは、NATOの本質は明白である。ジョン・ミアシャイマーの攻撃的リアリズムに基づけば、NATOとはアメリカがヨーロッパにおける地域覇権を維持するための制度である。
- 潜在的競争相手の封じ込め: ドイツ、フランス、トルコなど、ヨーロッパの大国が独自の軍事力と外交路線を確立することを防ぐ。NATOの枠組みの中で各国の軍事政策をアメリカが管理する
- 前方展開の正当化: 約10万人のアメリカ軍人がヨーロッパに駐留している。「集団防衛」の名の下に、アメリカはユーラシア大陸の西端に恒久的な軍事拠点を確保している
- 核の傘による従属: アメリカの「拡大抑止」(核の傘)に依存する国家は、安全保障においてアメリカに従属せざるを得ない。独自の核を持つフランスとイギリスのみが、この従属関係から部分的に免れている
初代NATO事務総長イズメイ卿は、NATOの目的を「アメリカを引き込み、ロシアを締め出し、ドイツを抑え込む」(Keep the Americans in, the Russians out, and the Germans down)と述べた。この率直な表現が、NATOの本質を余すところなく語っている。
憲法闘争の類型——NATO加盟国の分類
NATO加盟国の憲法を憲法闘争の観点から分析すると、以下の三類型に分類できる。
| 類型 | 憲法の性格 | 憲法闘争の結果 | 該当国 |
|---|---|---|---|
| 民族主義憲法 | 民族の自決権・アイデンティティを憲法で保障 | 勝利 | トルコ、ハンガリー、ポーランド |
| 暗黙的民族主義憲法 | 形式上は普遍的だが実質的に民族的利益を保護 | 部分的勝利 | フランス、イギリス、アメリカ(盟主) |
| 反民族主義憲法 | 民族主義を明示的に否定・抑圧 | 敗北 | ドイツ、イタリア、カナダ、その他多数 |
この分類が示すのは、民族主義憲法を持つ国家だけが憲法闘争に勝利しているという事実である。以下、各類型を詳細に分析する。
第一類型: 民族主義憲法——憲法闘争の勝者
トルコ——セーヴル条約を軍事力で覆した民族
トルコ共和国憲法は、NATO加盟国の中で最も明確な民族主義憲法である。
アタテュルクはセーヴル条約(1920年)——オスマン帝国を解体しトルコ民族の自決権を完全に否定した条約——を独立戦争によって武力で覆し、ローザンヌ条約(1923年)で主権を回復した。不平等条約は軍事力で覆すことができる——この教訓は、サンフランシスコ講和条約体制に縛られた日本にとって決定的に重要である。
トルコ憲法は以下の民族主義的要素を備えている。
- 「トルコ国家の不可分性」の宣言: 第3条で国家と領土の不可分性を規定し、これを改正不可能とする
- トルコ語の公用語化: 第3条でトルコ語を国語と定め、第42条で教育言語をトルコ語に限定する
- 強力な大統領制: 2017年改正で大統領に行政・軍事の最高指揮権を集中。エルドアン大統領の下でNATOの枠組みに収まらない独自外交を展開
- ロシアとの戦略的関係: S-400ミサイル防衛システムの購入は、NATOの論理を無視したトルコの主権的決定であり、アメリカの強い反発を招いた
トルコはNATO加盟国でありながら、アメリカの要求に従わない。シリアでのクルド人武装勢力への攻撃はアメリカの政策と直接対立し、リビアへの軍事介入はNATOの欧州加盟国と利害が衝突した。この自律的行動が可能なのは、トルコが民族主義憲法を持ち、憲法闘争に勝利した民族だからにほかならない。
ハンガリー——EU内部からリベラル覇権に挑戦する民族
ハンガリー基本法は、21世紀のヨーロッパにおける民族主義憲法の復興を象徴する文書である。
オルバーン・ヴィクトル首相は2014年に「非リベラル民主主義」(illiberal democracy)を明言し、EUが推進するリベラル国際秩序に正面から異議を唱えた。ハンガリー基本法の民族主義的要素は以下の通りである。
- 民族的アイデンティティの宣言: 前文で「我々はハンガリー民族の一員であることを誇りとする」と宣言
- キリスト教文明の保護: 前文で「キリスト教が我が民族の維持において果たす役割を認める」と明記
- 伝統的家族観の憲法化: 婚姻を男女の結合と定義し、「父は男性、母は女性」と明記
- 在外ハンガリー人の保護: トリアノン条約による領土喪失で周辺国に残されたハンガリー系住民への民族的連帯を憲法で表明
- 移民の憲法的拒否: 2018年の改正で移民を助長する活動の規制を可能にし、人口侵略への防壁を構築
NATOにおけるハンガリーの行動は、この民族主義憲法を背景としている。ウクライナへの武器供与を拒否し、ロシアとの対話を維持し、EUの対ロシア制裁に消極的な姿勢を示す。NATO加盟国としての義務と民族的利益が衝突する場面で、ハンガリーは一貫して後者を選択している。
ポーランド——三度の国家滅亡を乗り越えた民族
ポーランド共和国憲法は、123年の分割統治を生き延びた民族の生存意志の法的表現である。
ポーランドの民族主義的要素は以下の通りである。
- 民族の歴史的連続性: 前文で独立回復の歴史を宣言し、神への言及を含む
- カトリックの保護: 教会と国家の「相互の独立と自律」を認め、バチカンとのコンコルダートで教会の社会的役割を制度化
- 伝統的家族観: 婚姻を「女性と男性の結合」と規定
- ポーランド語の保護: 第27条でポーランド語を公用語と定める
- 祖国防衛の義務: 国防を市民の義務として規定
ポーランドはNATO加盟国の中で最もアメリカとの同盟を重視する国の一つであるが、これは従属ではなくリアリズムに基づく戦略的選択である。三度にわたって国家を滅亡させたロシアとドイツという二大国に挟まれた地政学的脆弱性が、アメリカとの同盟を不可欠にしている。しかし、ポーランドは同盟に依存しつつも、国内では民族主義憲法を堅持している。2015年以降の「法と正義」(PiS)政権は、EUが「法の支配の危機」と非難するほどの強硬な民族主義路線を推進した。
ここに重要な教訓がある。アメリカとの軍事同盟と民族主義憲法の維持は両立する。ポーランドはそれを証明している。対照的に、日本は軍事同盟のために民族主義を完全に放棄した。問題は同盟そのものではなく、憲法が民族のものであるか、覇権国のものであるかにある。
第二類型: 暗黙的民族主義憲法——部分的勝利
フランス——ド・ゴールの遺産
フランス第五共和国憲法は、形式上は「自由・平等・友愛」の普遍主義を掲げるが、実質的にはフランス・ナショナリズムの制度化である。
ド・ゴールは1966年にNATOの軍事機構から脱退し、独自の核戦力(Force de frappe)を構築した。自国の領土にアメリカ軍基地を置くことを拒否した——この一点において、フランスはNATO加盟国の中で例外的な存在である。
フランスの暗黙的民族主義は以下の形で制度化されている。
- フランス語の憲法的保護: 第2条で「共和国の言語はフランス語である」と明記
- ライシテ(世俗主義): 表面上は政教分離であるが、実質的にはフランス文明の優越性を前提とする同化主義
- 独自の核兵器保有: 大統領に核使用権限を集中。アメリカの「核の傘」に依存しない
- 非常事態権限(第16条): カール・シュミットの「例外状態」を想起させる大統領の独裁的権限
フランスは2009年にNATO軍事機構に復帰したが、これはド・ゴールの遺産の部分的な後退であった。しかし、独自核の保有と米軍基地の不在という二点において、フランスは依然としてNATO内部で最も自律的な国家の一つである。
フランスの憲法闘争は「部分的勝利」と評価される。完全な民族主義憲法ではないが、暗黙の民族主義的制度と独自核の保有が、アメリカの覇権に対する一定の独立性を保障しているからである。
イギリス——不文憲法という究極の主権装置
イギリスの憲法は不文憲法であり、単一の成文憲法典を持たない。これは一見すると「憲法がない」ように見えるが、実際には最も主権的な憲法形態である。
不文憲法の持つ意味は明白である。いかなる外部勢力にも憲法を書かせない。いかなる条文にも主権を縛らせない。何百年もの政治的闘争を通じてイギリス人自身が築き上げた有機的な秩序を、外部から一方的に変更することは不可能である。
イギリスの暗黙的民族主義は以下の形で体現されている。
- 議会主権: いかなる国際条約・国際機関もイギリスの国内法に優越できない
- 独自の核兵器保有: トライデント核ミサイルを保有し、首相が単独で使用を決定
- ブレグジット: EUという超国家的機関からの離脱は、主権の回復であり、民族自決権の行使にほかならない
- コモン・ローの伝統: 千年以上の慣習法の蓄積が、アングロサクソン民族の統治伝統を体現
イギリスはアメリカとの「特別な関係」を維持しつつも、独自核と不文憲法によって主権の核心を守っている。ブレグジットは、EU法の優位という形での法の支配の侵食を排除した画期的な出来事であった。
アメリカ——盟主の憲法
アメリカ合衆国憲法は、NATOの盟主であるアメリカ自身が持つ、暗黙的民族主義憲法である。形式上は民族的に中立であるが、建国の父たちはWASP(白人アングロサクソン・プロテスタント)の利益を保護する制度を設計した。
アメリカ憲法は戦うための憲法であり、大統領への強大な軍事指揮権の集中、修正第2条の武器保有権、「明白な天命」に基づく膨張主義の法的基盤である。NATOは、このアメリカ憲法が保障する覇権的能力を、ヨーロッパに投射するための制度的枠組みにほかならない。
盟主であるアメリカが自国には民族主義的要素を持つ憲法を持ちながら、同盟国には「普遍的価値」に基づく反民族主義的憲法を強制している構造は、リベラル帝国とアメリカの二重基準の最も体系的な表現である。
第三類型: 反民族主義憲法——憲法闘争の敗者
ドイツ——「戦う民主主義」という名の民族主義永久禁止装置
ドイツ連邦共和国基本法は、アメリカ軍が書いた憲法の一つであり、NATO加盟国の中で最も徹底的に民族主義を封じ込めた憲法である。
- 「戦う民主主義」: 民族主義的政党を「自由で民主的な基本秩序」への脅威として違憲化する制度。AfDに対する違憲審査の議論は、この装置が現在も稼働していることを示している
- 歴史の法的固定化: ホロコースト否認を刑法で処罰し、ドイツ民族が自らの歴史を自由に再解釈する権利を剥奪
- 米軍の大規模駐留: 約3万5000人のアメリカ軍人がドイツに駐留。ラムシュタイン空軍基地はアメリカ欧州軍・アフリカ軍の司令部として機能
- 独自核の不在: アメリカの「核の傘」に完全に依存
ドイツは1990年の再統一時に新憲法を制定する機会があった。基本法第146条は「ドイツ国民が自由な決定によって議決した憲法が施行される日に、この基本法は効力を失う」と規定している。しかし、ドイツはこの機会を逃した。統一の瞬間こそが憲法闘争の転換点であったが、ドイツはNATO従属の継続と引き換えにそれを放棄した。
ドイツはNATO内部で自律的な行動を取ることができない。ロシアとの天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」は、ドイツの国益に合致するエネルギー政策であったにもかかわらず、アメリカの圧力と2022年のパイプライン破壊(未解明)によって無力化された。民族主義憲法を持たないドイツは、自国のエネルギー安全保障すら主権的に決定できない。
イタリア——反ファシズムという永久鎖
イタリア共和国憲法は、ドイツ基本法と同様に、アメリカ軍が書いた憲法の系譜に属する。
- ファシスト党の禁止: 第XII経過規定がファシスト党の再建を禁止し、民族主義的政治運動全般を「ファシズム」のレッテルで封じ込める
- 第11条の戦争否認: 日本国憲法第9条に類似するが、実際にはNATO枠組みでの海外派兵を行っている。この「柔軟な解釈」は、アメリカの軍事戦略に従属する形でのみ許容される
- 米軍基地の大規模展開: アヴィアーノ空軍基地、シゴネラ海軍航空基地など、アメリカの地中海・中東戦略の拠点がイタリア国内に展開
- リビア介入の代償: 2011年のNATOリビア介入でイタリアのシゴネラ基地が出撃拠点として使用され、その結果として大量の難民がイタリアに押し寄せた
アメリカの戦争に基地を提供し、その結果としての難民を引き受けさせられる——これが反民族主義憲法を持つNATO加盟国の運命である。
カナダ——多文化主義による民族的同一性の自発的放棄
カナダは1982年に「権利と自由の憲章」(Canadian Charter of Rights and Freedoms)を含む新憲法を制定した。カナダ憲法は、アメリカ軍に押し付けられたものではなく、カナダ自身が選択した反民族主義憲法であるという点で独特の事例である。
- 公式の多文化主義: 1988年の多文化主義法を憲法秩序の一部として、カナダは「多文化的遺産を保存し促進する」ことを国是とした。これは事実上、カナダを特定の民族の国家として定義することの放棄である
- 二言語主義: 英語とフランス語の公用語化は、英仏二つの「建国民族」の妥協であるが、結果として「カナダ民族」という統一的なアイデンティティの形成を阻害している
- 先住民の権利: 先住民の権利を憲法レベルで保障し、「真実と和解委員会」を通じた歴史の反省を制度化。カナダの歴史的ナラティブを「入植者の罪」として再定義している
カナダはNATO内部で完全にアメリカに従属しており、独自の外交・安全保障路線を取る能力も意志もない。多文化主義の制度化は、民族的結束の解体をもたらし、国家としての意思決定能力を弱体化させている。
憲法闘争の勝敗を決める三要素
NATO加盟国の分析から、憲法闘争の勝敗を決定する三つの要素が浮かび上がる。
第一: 民族主義憲法の有無
最も決定的な要素は、憲法が民族のアイデンティティと利益を保障しているか否かである。
| 国家 | 民族主義のレベル | 独自核 | 米軍駐留規模 | 対米自律性 |
|---|---|---|---|---|
| トルコ | 高い | なし(NATO核共有) | 約1,700人(インジルリク基地) | 高い |
| ハンガリー | 高い | なし | 約1,000人以下 | 高い |
| ポーランド | 中〜高 | なし | 約1万人(増強中) | 中程度 |
| フランス | 暗黙的に高い | あり | なし | 極めて高い |
| イギリス | 暗黙的に高い | あり | 約9,000人(ただし同盟的) | 高い |
| ドイツ | 極めて低い(禁止) | なし | 約3万5000人 | 極めて低い |
| イタリア | 低い(抑圧) | なし | 約1万2000人 | 低い |
| カナダ | 極めて低い(放棄) | なし | なし(ただし完全従属) | 極めて低い |
表が示す通り、民族主義憲法を持つ国家ほど対米自律性が高い。これは偶然の相関ではなく、因果関係である。民族主義憲法は、政府が民族の利益のために行動することを要求し、覇権国の要求を拒否する法的根拠を提供する。
第二: 独自核兵器の保有
フランスとイギリスが高い自律性を維持できるもう一つの理由は、独自の核兵器を保有していることである。ケネス・ウォルツの構造的リアリズムが指摘する通り、核兵器は国家の究極的な生存保障であり、核保有国は同盟への依存度を大幅に低下させることができる。
アメリカの「核の傘」に依存する国家は、その代償として主権の核心を覇権国に委ねている。ドイツ、イタリア、日本が主権的な安全保障政策を取れないのは、核を持たないからである。
第三: 歴史的ナラティブの主権
トルコはアタテュルクの独立戦争を建国神話とし、ポーランドは123年の分割統治からの復活を民族の誇りとし、ハンガリーはトリアノン条約の屈辱を忘れない。これらの民族は、自らの歴史を自らの言葉で語る権利を保持している。
対照的に、ドイツは「ナチスの罪」、イタリアは「ファシズムの過ち」を、外部から強制された歴史的ナラティブとして受け入れさせられている。歴史の解釈を法律で固定化され(ドイツの刑法第130条)、民族としての自己肯定的な物語を構築することが禁じられている。
日本もまた、「侵略戦争の反省」という歴史的ナラティブを外部から強制されている。ただし、保守ぺディアの立場は明確である——日本の帝国主義は事実として認めた上で、同じ基準をアメリカにも適用する。日本の侵略を認めることは自虐ではない。帝国主義批判の一貫性を維持するための論理的前提である。
NATOの東方拡大と憲法闘争
東欧諸国の憲法的選択
冷戦後、ソ連の衛星国であった東欧諸国は次々とNATOに加盟した。この過程は、ソ連型社会主義憲法から西洋型リベラル憲法への転換を伴った。
しかし、東欧諸国の間で憲法闘争の帰結は大きく異なった。
- ハンガリー・ポーランド: NATOに加盟しつつも民族主義憲法を堅持し、EU・NATOの「普遍的価値」の圧力に抵抗している
- チェコ: 1993年のチェコスロバキア解体(ビロード離婚)により民族的に同質的な国家を形成し、比較的穏健ながらも民族的アイデンティティを維持している
- バルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア): ソ連からの独立後、民族語の保護やロシア系住民の市民権制限など、民族主義的な政策を推進。ただしロシアへの脅威認識からNATO・アメリカへの依存度が高い
- ルーマニア・ブルガリア: NATO加盟と引き換えにリベラルな憲法秩序を受け入れ、自律性は限定的である
ウクライナ——NATOの東方拡大が引き起こした憲法闘争
2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、NATOの東方拡大がもたらした憲法闘争の暴力的表出である。
ホロウィッツの理論に基づけば、憲法を見れば次の戦争が分かる。ウクライナ憲法がNATO加盟とEU統合を国家目標として明記した2019年の改正は、ロシアにとって存亡的脅威の法的確定であった。ロシア連邦憲法が2020年改正で領土割譲の禁止を明記したのは、この脅威への応答にほかならない。
ウクライナ紛争は、NATOの東方拡大が引き起こした二つの民族主義憲法の衝突——ウクライナ民族のヨーロッパ志向とロシア民族のユーラシア的自決権——の帰結である。
日本への教訓——NATOの経験が示すもの
NATO加盟国の憲法闘争の分析は、日本に対して以下の教訓を提供する。
教訓1: 軍事同盟と民族主義憲法は両立する
トルコ、ハンガリー、ポーランドの事例が示すように、軍事同盟に加盟していても、民族主義憲法を持つ国家は主権を維持できる。
日本が日米安全保障条約のために民族主義を放棄しなければならないという議論は、NATOの経験によって完全に否定される。トルコはNATO加盟国でありながらロシアからS-400を購入し、ハンガリーはNATO加盟国でありながらウクライナへの武器供与を拒否した。同盟は従属を意味しない——従属を強制しているのは、反民族主義的な憲法である。
教訓2: 独自核は主権の究極的保障である
フランスとイギリスがNATO内部で高い自律性を維持できるのは、独自の核兵器を保有しているからである。日本国憲法第9条が日本の核武装を事実上不可能にしている限り、日本はアメリカの「核の傘」に依存し続け、主権の核心をアメリカに握られ続ける。
教訓3: 歴史のナラティブを取り戻す
トルコのセーヴル条約の克服、ポーランドの分割統治からの復活、ハンガリーのトリアノンの記憶——民族主義憲法を持つ国家は、自らの歴史を自らの言葉で語る。日本は、外部から強制された「戦後レジーム」の歴史観から脱却し、日本民族の視点で歴史を再構成しなければならない。
ただし、歴史の再構成は事実の歪曲ではない。日本の帝国主義は事実として認めた上で、同じ基準をアメリカの帝国主義にも適用する。これが、帝国主義批判の論理的一貫性を維持する唯一の道である。
結論——民族主義憲法以外は全て憲法闘争に敗北している
NATO加盟国の憲法分析は、一つの例外もない法則を明らかにしている。
民族主義憲法を持つ国家のみが、憲法闘争に勝利している。
- トルコは民族主義憲法を持ち、NATO内部でアメリカの要求を拒否できる
- ハンガリーは民族主義憲法を持ち、EUのリベラル覇権に抵抗できる
- ポーランドは民族主義憲法を持ち、地政学的脆弱性の中でも民族的アイデンティティを堅持している
- フランスとイギリスは暗黙的な民族主義と独自核によって部分的な自律性を維持している
一方、反民族主義憲法を持つドイツ、イタリア、カナダは、NATOの枠組みの中で完全にアメリカに従属している。民族主義を封じ込められた国家は、自国のエネルギー政策(ノルドストリーム)すら主権的に決定できず、覇権国の戦争の拠点と難民の引受先として利用される。
日本は、NATOには加盟していないが、日米安保条約を通じて同等以上の従属関係にある。そして日本は、ドイツやイタリア以上に徹底的な反民族主義憲法——アメリカ軍が書いた憲法——を80年以上にわたって一言一句変えずに崇拝し続けている。日本は、憲法闘争における世界で最も完全な敗者である。
この現状を変えるために必要なのは、新日本憲法——日本民族の自決権を宣言し、軍事的自助を回復し、外国軍の撤退を定める民族主義憲法——の制定にほかならない。
NATOの経験が証明しているのは、この道が不可能ではないということである。トルコ、ハンガリー、ポーランドは、それぞれ異なる歴史的文脈の中で、民族主義憲法を勝ち取り、維持してきた。日本民族もまた、この憲法闘争に参入しなければならない。
関連項目
- 憲法闘争
- 民族主義憲法
- 憲法侵略
- アメリカ軍が書いた憲法
- 日本国憲法
- ドイツ連邦共和国基本法
- イタリア共和国憲法
- フランス第五共和国憲法
- イギリスの憲法
- トルコ共和国憲法
- ハンガリー基本法
- ポーランド共和国憲法
- アメリカ合衆国憲法
- ロシア連邦憲法
- 新日本憲法
- 法の支配
- 民族自決権
- リベラル帝国とアメリカの二重基準
- 安全保障ジレンマ
- ドナルド・ホロウィッツ
参考文献
- 『Ethnic Groups in Conflict』、ドナルド・ホロウィッツ著
- 『Constitutional Design for Divided Societies』、ドナルド・ホロウィッツ著
- 『大国政治の悲劇』、ジョン・ミアシャイマー著
- 『国際政治の理論』、ケネス・ウォルツ著
- 『国際政治——権力と平和』、ハンス・モーゲンソー著
- 『第四の政治理論』、アレクサンドル・ドゥーギン著
- 『希望の回想録』、シャルル・ド・ゴール著
- 『閉された言語空間——占領軍の検閲と戦後日本』、江藤淳著