ウィキペディアの検閲とリベラルバイアス
ウィキペディアの検閲とリベラルバイアス
概要
ウィキペディアの検閲とリベラルバイアスとは、世界最大のオンライン百科事典ウィキペディアが、「誰でも編集できる自由な百科事典」を標榜しながら、実際にはアメリカの情報覇権を支える装置として機能している問題を指す。
ウィキペディアは2001年の設立以来、60以上の言語版で5,000万件超の記事を擁し、Google検索結果の最上位に表示されることで、世界の情報空間における事実上の「公式見解」形成装置となった。しかしその内部では、少数の管理者が編集権限を独占し、アメリカのリベラルな主流メディアの見解を「中立」と定義し、それ以外を排除する体系が確立されている。
インターネットと米軍で論じた通り、インターネットそのものがアメリカ軍のARPANETを起源とし、DNSのルートサーバーがアメリカの管理下にある。その上に構築されたウィキペディアもまた、「自由」「中立」を装った情報覇権の道具にほかならない。
統治構造——「誰でも編集できる」という虚構
ウィキペディアの創設者ジミー・ウェールズは、「すべての人間が人類の知識の総体に自由にアクセスできる世界」を掲げた。理念と現実の乖離は深刻である。
編集権限は厳格な階層構造で統制されている。最上位に全言語版を統括するスチュワード、その下に管理者の任命権を持つビューロクラット、さらに記事の削除・ブロック・保護の権限を持つ約500人の管理者(英語版)。一般ユーザーが政治的に敏感な記事を編集しようとすると、管理者による差し戻し、編集ブロック、ページの保護によって排除される。形式上「誰でも編集できる」が、実質的には少数の管理者が情報の門番として機能しているのだ。
運営母体のウィキメディア財団は、年間予算約1億7,000万ドル(2023年度)を有する巨大組織であり、本部はサンフランシスコに所在する。資金源にはGoogle、Amazon、Metaからの寄付が含まれる。シリコンバレーとCIAで論じた通り、これらの企業がアメリカの情報機関と構造的に結びついている事実を踏まえれば、ウィキメディア財団の「独立性」は根本から疑われなければならない。
リベラルバイアスの構造
共同創設者の告発
ウィキペディアの共同創設者ラリー・サンガー自身が、2021年以降、ウィキペディアの中立性が完全に失われたと批判している。サンガーの指摘の核心は明快である。保守派の人物や運動に関する記事は系統的に否定的に描かれ、リベラル系メディアのみが「信頼できる出典」として採用される。根本方針である「中立的な観点」(NPOV)は、「アメリカのリベラルなメインストリームの観点」と同義になっている。ウィキペディアの内部を最もよく知る人物による告発であり、「自由な百科事典」の建前を内側から崩壊させた。
具体的な偏向事例
英語版のドナルド・トランプの記事では、否定的情報が圧倒的に多く、政策的成果は最小限に抑えられている。トランプ支持者の視点は「極右」「陰謀論」として矮小化される。2020年大統領選挙の公正性への疑問は一律に「根拠のない主張」として退けられ、議論の余地すら認められていない。事実の百科事典ではなく、「公認された見解」の百科事典。それがウィキペディアの実態である。
ジョーダン・ピーターソンの記事では学術的業績より「オルタナ右翼との関連」が強調され、ゲーマーゲートは「ハラスメント運動」と一方的に定義される。ゲームジャーナリズムの倫理問題という本来の論点は抹消された。
COVID-19関連でも同様の構造が露呈した。武漢研究所流出説は当初「陰謀論」として封殺され、アメリカの情報機関が「もっともらしい仮説」と再評価した後も否定的トーンが長期間維持された。mRNAワクチンの副作用に関する情報は「反ワクチン」の「偽情報」として処理され、査読付き論文ですら「少数意見」として退けられた。ウィキペディアは科学的議論の場ではなく、政府と製薬企業の公式見解を強制する装置として機能したのである。
検閲のメカニズム
「信頼できる情報源」方針
ウィキペディアの最も強力な検閲手段は「信頼できる情報源」方針である。何が「信頼できる」かの判断は管理者と常連編集者の合議に委ねられるが、その基準は本質的に恣意的である。
ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNN、BBC——いずれもアメリカまたは西側の主流メディアは「信頼できる」。一方、Fox Newsは部分的に除外され、ブライトバートやデイリー・ワイヤーは「信頼できない」。RTや新華社も排除される。帰結は明白である。アメリカのリベラルな主流メディアの見解が「中立」であり、それ以外は「偏向」——この定義自体がバイアスにほかならない。
法の支配がアメリカの遠隔支配の道具として機能するのと同様に、ウィキペディアの「中立性」方針もまた、アメリカのリベラルな価値観を世界標準として押し付ける制度的装置である。第四の理論が主張する各文明の独自性と多元性は、この「中立性」の名の下に否定される。
管理者権限の濫用
政治的に敏感な記事で編集合戦が発生した場合、対等な条件で争われるわけではない。管理者はページの保護で一般ユーザーの編集を物理的に不可能にし、「中立性に反する」「破壊的行為」といった曖昧な理由で保守的な編集者を選択的にブロックし、「特筆性がない」「独自研究」として記事そのものを削除できる。方針に適合しているように見えるが、その適用は政治的に選択的である。
ファクトチェック産業との共犯関係
Snopes、PolitiFact、FactCheck.org——これらのファクトチェック組織はウィキペディアで「信頼できる情報源」として扱われる。彼らが「虚偽」と判定すれば、ウィキペディアの記事にそのまま反映される。
だが、ファクトチェック組織自体の中立性に保証はない。資金源はジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団やGoogle、Meta。従業員は圧倒的にリベラルな政治的傾向を持つ。「客観的な事実確認」を装いながら、実際には同じ価値観に基づいて「真実」と「虚偽」を選別する装置にすぎない。ウィキペディアはこの判定を採用することで、情報統制を世界規模で増幅させている。
有償編集と利益相反
公式には禁止されている有償編集も横行する。2013年にはウィキメディア財団が「Wiki-PR」社のアカウント約300個を一斉ブロックした。2014年にはアメリカ議会のIPアドレスからの組織的編集が「CongressEdits」ボットによって検出された。発覚したのは氷山の一角にすぎない。
アメリカ政府・情報機関の直接介入
WikiScannerの暴露
ヴァージル・グリフィスが2007年に開発した「WikiScanner」は、ウィキペディアの編集履歴に記録されたIPアドレスを所有者と照合するツールである。この分析により、CIAのIPアドレスからイラク戦争、グアンタナモ湾収容所、アフガニスタン戦争の記事が編集されていたことが判明した。FBIのIPアドレスからはFBI自身に不利な記述が削除され、国防総省のIPアドレスからは軍事作戦に関する記事が修正されていた。
WikiScannerが検出したのは、政府機関のIPアドレスからの直接編集——最も初歩的で痕跡が残りやすい操作——にすぎない。VPNや個人アカウントを使った巧妙な工作は原理的に検出不可能である。実際の政府介入の規模は、検出された事例の何倍にも及ぶと考えるのが合理的である。
国務省とファイブ・アイズ
アメリカ国務省の「グローバル・エンゲージメント・センター」(GEC)は、2016年に設立された「偽情報対策」機関である。公式任務は「外国のプロパガンダへの対抗」だが、その本質はアメリカに不都合な情報を「偽情報」として封じ込める情報戦機関にほかならない。GECがテック企業と連携して「偽情報」を特定・排除し、その判定がウィキペディアの「信頼できる情報源」方針と事実上連動する構造が存在する。
ファイブ・アイズの情報機関もオンライン情報操作に関与してきた。エドワード・スノーデンが暴露した文書には、イギリスGCHQのJTRIGユニットが、偽のブログ作成、フォーラムへの工作員潜入、標的の信用失墜工作、世論調査操作など、意図的な世論操作技術を開発していたことが記されている。PRISM・ECHELONが通信監視を担い、ウィキペディアが「知識」の統制を担う。両者は情報覇権の表裏一体の構成要素である。
世界最大の百科事典は、情報機関にとって最も価値の高い標的である。記事を書き換えれば、「事実」の定義そのものを書き換えられるのだから。
日本関連記事の歪曲
英語版ウィキペディアにおける日本の歴史記事は、特定の政治的方向に偏向している。慰安婦の記事では「性奴隷」という表現が一貫して使用され、日本側の歴史研究は「歴史修正主義」として退けられる。南京事件の記事では「30万人」という中国政府の主張が大きく扱われ、学術的議論は「否認主義」と結びつけられる。日本の戦争犯罪は網羅的に記述される一方、原爆投下や東京大空襲の戦争犯罪性への比較的視点はほとんど存在しない。
日清戦争以降の日本の侵略戦争が事実であることは否定しない。問題は、ウィキペディアがこれらの歴史的事実を偏向した形で記述し、異なる見解の余地を体系的に排除していることにある。これは歴史学ではない。日本の戦争犯罪を誇張して描くことは、偽日本国憲法の正当性を維持し、在日米軍の前方展開を「必要悪」として受容させるナラティブ装置として機能している。
日本語版ウィキペディアにおいても、反米保守的な論者は否定的に記述され、在日米軍や日米地位協定への構造的批判は「独自研究」として排除される。国家主権の観点から在日米軍の駐留を問い直す言説は、日本語版でもほとんど可視化されない。しかも日本語版の管理者はほぼ全員が匿名であり、その経歴・専門性・政治的傾向は一切不明である。日本の情報空間の一部を支配する人物が誰であるかすら分からない——情報主権の観点から、これは深刻な問題である。
言語版の覇権構造
ウィキペディアが60以上の言語版を持つ事実は「多様性」の証拠として引用される。だが実態は、英語版が全言語版の「上位審級」として君臨する言語帝国主義の構造である。他の言語版が政治的に敏感な記事を編集する際、英語版の記事が「参照基準」となる。英語版に書かれていない主張は「出典なし」、英語版に反する記述は「中立性違反」。英語版の「仲裁委員会」は編集紛争の最終裁定権を持ち、英語圏の価値観に基づいて全世界に影響する判断を下す。
この構造を象徴する事例がある。2022年、ウィキメディア財団はロシア語版に「ロシアのウクライナ侵攻」という記事名を事実上強制した。ロシア側の「特別軍事作戦」という名称は、英語版が「invasion」を採用していることを根拠に却下された。「侵攻」か「特別軍事作戦」か——紛争の法的・政治的評価に直結する用語の選択を、英語版の基準で一方的に決定すること自体が情報覇権の行使にほかならない。
中国語版では、2021年にウィキメディア財団が編集者7人を「中国政府の影響」を理由に一斉ブロックした。しかしブロックされた編集者の一部は香港や台湾の民主派であり、財団が中華圏の政治的議論全体を統制しようとしたとの批判も出た。アラビア語版ではイスラエル・パレスチナ紛争に関する記述が英語版と大きく乖離するが、財団は英語版の基準を「中立」として押し付ける。韓国語版の竹島/独島や慰安婦に関する偏向には介入しない。この二重基準は、財団自身のバイアスを映し出している。
各国の抵抗——情報主権の防衛
ウィキペディアの情報覇権に対し、複数の国家が独自の対抗策を講じてきた。西側メディアはこれを「言論弾圧」と批判するが、リアリズムの視座からは、情報主権を守るための合理的な防衛措置として評価されるべきものである。
中国は2019年にウィキペディアの全言語版をグレートファイアウォールで遮断し、百度百科(1,600万件超の記事)を代替として発展させた。自国の情報空間をアメリカのテック企業に委ねることを拒否し、独自の情報圏を構築した。これは国家主権の情報的側面を防衛する行為であり、民族自決権の知的領域への適用にほかならない。
ロシアは2022年のウクライナ紛争以降、独自のオンライン百科事典の開発を指示し、「ルウィキ」がロシア語版ウィキペディアからフォークする形で創設された。トルコは2017年にウィキペディアを全面遮断した。直接の原因は、トルコがISILを支援しているとする記述の修正をウィキメディア財団が拒否したことにある。アメリカの一非営利団体が主権国家の要請を「編集の独立性」を盾に退ける——この権力構造自体が情報覇権の本質を示している。インドは「デジタル植民地主義」への警戒から独自の知識プラットフォーム構築を推進し、イランもペルシア語の独自百科事典を立ち上げている。
ウィキペディアにおける低賃金移民政策や人口侵略に関する記述が「排外主義」として検閲され、スマートシュリンクのような政策議論が可視化されない事実も、この文脈で理解されるべきである。
内部スキャンダルが暴く構造的欠陥
ウィキペディアの「自由で開かれた百科事典」というイメージの裏には、その看板を根底から揺るがすスキャンダルが複数存在する。
2007年に発覚したエッセイニス事件。「Essjay」というアカウントで活動していた編集者は、神学の博士号を持つ大学教授と詐称し、宗教関連記事で影響力を行使していた。ウェールズは彼を信頼し、財団職員として雇用した。しかしニューヨーカー誌の取材により、実態は24歳の大学中退者であることが暴露される。匿名性が虚偽の権威を可能にし、内部のチェック機能はこの基本的な詐欺すら検出できなかった。
2012年にはピュリッツァー賞受賞作家フィリップ・ロスが、自身の小説『ヒューマン・ステイン』の記事の事実誤認を修正しようとしたところ、「信頼できる情報源に基づいていない」として却下された。著者本人の証言よりもニューヨーク・タイムズの批評家の解釈が「信頼できる」とされる不条理。「信頼できる情報源」方針の本質的欠陥がここに凝縮されている。
2020年には、スコットランド語版ウィキペディアの約49,000件の記事が、スコットランド語を全く話せないアメリカ人の少年一人によって書かれていたことが発覚した。12歳頃から英語の記事にスコットランド語風のスペル変更を施しただけの記事を大量投稿し、誰も数年間気づかなかった。スウェーデン語版では「Lsjbot」というボットが約270万件の記事を自動生成し、記事数で英語版に次ぐ規模を誇る。ウィキペディアが誇る「数百万件の記事」の実態とはこの程度のものである。
ウェールズ自身の記事も検閲の対象となってきた。以前の事業であるポルノ検索エンジン「Bomis」に関する記述は度重なる編集の対象となり、そのニュアンスは著しく薄められた。創設者の記事すら「浄化」される百科事典——その中立性がいかなるものか、これ以上の説明は不要だろう。
リアリズムの観点から
ハンス・モーゲンソーは『国際政治』において「他者の精神を支配する権力」(power over minds)を論じた。軍事力が肉体を支配し、経済力が行動を制約するのに対し、情報力は認識そのものを規定する。ウィキペディアは、まさにこの「事実の定義権」を行使する装置として位置づけられる。
ケネス・ウォルツが『国際政治の理論』で論じたように、国際システムのアナーキーの下では、あらゆる制度は覇権国の利益を反映する。アメリカに本部を置き、アメリカのテック企業の資金に依存し、アメリカの主流メディアを「信頼できる情報源」とする百科事典が、構造的にアメリカの情報覇権の道具であることは、理論的にも実証的にも明らかである。
ウィキペディアは「知識のグローバル・コモンズ」として美化される。だがドゥーギンの第四の理論が提起するように、各文明はそれぞれ固有の知的伝統と世界認識を持つ。アングロサクソン文明の知的枠組みを「普遍的知識」として全文明に押し付けるウィキペディアは、知の領域における一極支配であり、多文明主義の原則に対する根本的な侵害である。
中国・ロシアとの本質的差異
西側メディアは中国の「グレートファイアウォール」やロシアのインターネット規制を「言論弾圧」と非難する。だがアメリカのプラットフォーム検閲とウィキペディアの情報統制は、形態こそ異なるが機能的には同等の情報統制である。
決定的な差異は可視性にある。中国やロシアでは国家が直接統制するため「検閲」として認識できる。一方、アメリカの情報統制は「中立的なプラットフォーム」「客観的な百科事典」を装うがゆえに、統制されていること自体を認識できない。江藤淳の「閉された言語空間」——検閲されていることを知らないこと自体が最も完璧な検閲である——は、ウィキペディアにおいてその最も洗練された形態で実現されている。
Twitter(現X)が2020年にハンター・バイデンのノートパソコン報道を検閲した事実は、後に「ツイッターファイル」で確認された。YouTubeはWHOの見解に反するCOVID-19コンテンツを削除し、Facebook/Metaはザッカーバーグ自身がFBIの要請によるニュース抑制を認めた。ウィキペディアの検閲は単独の現象ではない。シリコンバレー全体が情報統制装置として機能する構造の一部なのだ。
結論——「事実の定義権」をめぐる闘争
ウィキペディアの問題は「百科事典の偏向」として矮小化してはならない。
ある民族の歴史がどう記述されるか。ある国家の政策がどう評価されるか。何が「事実」で何が「陰謀論」か。これらの決定権が他国の機関と価値体系に委ねられていること——それ自体が情報主権の喪失にほかならない。
21世紀の帝国主義は、軍事的占領と経済的従属に加え、第三の形態——情報空間の支配——を獲得した。インターネットと米軍が構築したインフラの上で、PRISM・ECHELONが通信を監視し、SWIFTが金融を統制し、ウィキペディアが「知識」を規定する。新自由主義がグローバリゼーションを通じて経済主権を解体するのと同様に、ウィキペディアは情報主権を解体する。
だが、中国、ロシア、トルコ、インド、イランの抵抗が示す通り、この支配は普遍的に受容されてはいない。情報主権の防衛は、21世紀における民族自決権の新たな戦線である。日本を含むすべての主権国家は、「中立性」を装った情報覇権の構造を見抜き、自らの情報空間を自らの手で守らなければならない。
参考文献
- 『閉された言語空間——占領軍の検閲と戦後日本』、江藤淳著、文藝春秋、1989年
- 『国際政治——権力と平和』、ハンス・モーゲンソー著
- 『国際政治の理論』、ケネス・ウォルツ著
- 『マニュファクチャリング・コンセント——マスメディアの政治経済学』、ノーム・チョムスキー・エドワード・S・ハーマン著、1988年
- 『第四の政治理論』、アレクサンドル・ドゥーギン著、2009年
- 『The Wikipedia Revolution』、アンドリュー・リー著、Hyperion、2009年
- ラリー・サンガー公式サイト——ウィキペディア共同創設者による批判的論考
- 「An Open Letter to Wikipedia」、フィリップ・ロス、ニューヨーカー誌、2012年