アメリカの刑務所に見るリアリズム

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アメリカの刑務所に見るリアリズム

アメリカの刑務所に見るリアリズムとは、アメリカの刑務所内において観察される人種集団間の権力闘争を、リアリズム(国際政治学)の理論枠組みによって分析する試みである。アメリカの刑務所は、約190万人の収容者を抱える巨大な閉鎖空間であり、そこでは国家の統治能力が実質的に機能しない無政府状態(アナーキー)が出現する。この環境において、人種集団は自然と暴力装置を組織し、独自の法を制定し、領域を支配し、同盟を結び、バランス・オブ・パワーによって秩序を形成する。

これは、ケネス・ウォルツが『国際政治の理論』(1979年)で論じた構造的リアリズムの原理 ― アナーキー下における自助、安全保障ジレンマ、勢力均衡 ― が、刑務所という極限環境において最も純粋な形で再現されている事例にほかならない。自らの法を決定し運用するためには、自らの集団の軍が必要である ― この国際政治の根本原理は、刑務所において最も明瞭に観察できる。

アメリカの刑務所 ― 無政府状態の実験室

世界最大の収容人口

アメリカは世界最大の収容人口を有する国家である。2023年末時点で、連邦刑務所および州刑務所に約125万人、拘置所を含めれば約190万人から200万人が収容されている。

この巨大な収容人口の人種構成は、アメリカ社会の人種構造を歪んだ鏡のように映し出している。

人種 収容者に占める割合 アメリカ総人口に占める割合
黒人 33% 13%
白人 31% 約60%
ヒスパニック 23% 約18%
その他 13% 約9%

黒人は総人口の13%でありながら収容者の33%を占め、白人の約5倍の比率で収監されている。この人種的不均衡は、アメリカ社会における構造的な人種階層を反映しているが、刑務所内においてはさらに別の力学を生み出す。

無政府状態(アナーキー)の出現

刑務所内には形式上の統治機構(刑務官、規則、懲罰制度)が存在する。しかし、実質的には国家の統治能力は刑務所の内部経済や社会秩序に対してほとんど機能しない。デイヴィッド・スカーベックは、2014年の著作『地下社会の社会秩序』(The Social Order of the Underworld)において、刑務所内の闇市場には法的救済が存在せず、契約の強制も財産権の保護も公的に保障されないことを明らかにした。

ウォルツが国際体系の本質として定義した「上位に立つ権威の不在」 ― すなわちアナーキー ― が、刑務所内において事実上実現しているのである。この環境において、個人は自力で自身の安全を確保しなければならない。しかし個人の力では自己防衛は不可能であるため、集団が形成される。そして、人種こそが集団形成の最も低コストな識別基準となる。

主要な刑務所ギャング ― 人種国家の形成

アメリカの刑務所において、人種集団は刑務所ギャング(prison gang)と呼ばれる組織を形成した。これらは単なる犯罪集団ではない。領域を支配し、法を制定し、税を徴収し、安全を保障する ― すなわち、事実上の国家として機能する暴力装置である。

アメリカ司法省は、以下の六つの組織を主要な全国規模の刑務所ギャングとして認定している。

メキシカン・マフィア(ラ・エメ)

メキシカン・マフィア(La Eme)は、1957年にカリフォルニア州デュエル職業訓練施設において、ルイス・「ウエロ・バフ」・フローレスを含む13人のメキシコ系アメリカ人によって結成された。カリフォルニア州刑務所体系において最も強力かつ最も危険な刑務所ギャングとされる。

正式な構成員は250人から300人にすぎないが、南カリフォルニアにおいて5万人から7万5000人のスレーニョ(Sureño)系ストリートギャングの兵士を指揮下に置く。この構造は、少数の指導層が巨大な武力を統制するという点で、国家の軍事組織と本質的に同一である。

メキシカン・マフィアの統治手法は国家のそれと酷似している。

  • 課税制度: 麻薬売買の収益の10%から30%を「税」として徴収する。支払いを拒否した者は「グリーンライト」(攻撃許可)の対象となり、暴行または殺害される
  • 立法権: 「ドライブバイ・シューティング禁止令」など、スレーニョ系ギャング全体に適用される法律(命令)を発布する。違反者は処刑される
  • 司法権: 構成員間の紛争を裁定し、判決を執行する
  • 外交: アーリアン・ブラザーフッドとの同盟関係を維持する

アーリアン・ブラザーフッド

アーリアン・ブラザーフッド(Aryan Brotherhood, AB)は、1964年にカリフォルニア州サン・クエンティン刑務所において、黒人およびヒスパニック系ギャングからの自衛を目的として白人受刑者によって結成された。構成員は白人男性に限定される。

FBIによれば、アーリアン・ブラザーフッドは刑務所人口の1%未満を占めるにすぎないが、連邦刑務所内の殺人事件の18%から25%に関与している。入会には暴力行為(多くの場合は殺人)が要求され、「血で入り、血で出る」(Blood in, blood out)― すなわち、入会は暴力によってのみ可能であり、脱退は死によってのみ可能である。

ブラック・ゲリラ・ファミリー

ブラック・ゲリラ・ファミリー(Black Guerrilla Family, BGF)は、1966年にサン・クエンティン刑務所において、ブラックパンサー党の構成員であったジョージ・ジャクソンによって結成された。構成員はアフリカ系アメリカ人に限定される。

他の刑務所ギャングと異なり、BGFはマルクス・レーニン主義および毛沢東主義のイデオロギーを保持しており、アメリカ政府の転覆と人種差別の撲滅を綱領に掲げている。これは、刑務所ギャングのなかで最もイデオロギー的な組織である。

ヌエストラ・ファミリア

ヌエストラ・ファミリア(Nuestra Familia, NF)は、1968年にカリフォルニア州ソレダッド矯正訓練施設において結成された。メキシカン・マフィアの構成員による北カリフォルニア出身のヒスパニック系受刑者への虐待に対する反発が直接の契機であった。

メキシカン・マフィアとヌエストラ・ファミリアの対立は、カリフォルニア州全体を南北に分断する地政学的構造を生み出した。バーカーズフィールド(Bakersfield)を境界線として、南部はスレーニョ(メキシカン・マフィア傘下)の勢力圏、北部はノルテーニョ(ヌエストラ・ファミリア傘下)の勢力圏となっている。この地理的分断は、国際政治における勢力圏の分割と構造的に同一である。

テキサス・シンジケート

テキサス・シンジケート(Texas Syndicate, TS)は、1970年代にカリフォルニア州フォルサム刑務所において、テキサス出身のメキシコ系アメリカ人受刑者がメキシカン・マフィアとアーリアン・ブラザーフッドからの保護を求めて結成した。約1,300人の構成員を有し、テキサス州の刑務所を主な勢力圏とする。

テキサス・シンジケートは準軍事的な組織構造を持ち、大統領、副大統領、議長、大尉、中尉、武器係軍曹、兵士という階級制を採用している。注目すべきは、構成員が別の施設に移送された場合、階級が兵士に戻されるという規定であり、これは特定の個人が権力を固定化することを防ぐ制度的工夫である。

ネタ(アソシアシオン・ネタ)

ネタ(Asociación Ñeta)は、1979年にプエルトリコのオソ・ブランコ最高警備刑務所において、カルロス・トーレス・イリアルテ(「ラ・ソンブラ」)によって結成された。元来は受刑者の権利擁護組織として設立され、25の成文化された「規範」(norms)を持つ。プエルトリコ独立運動との結びつきを有する。

同盟構造 ― 二極体制の出現

冷戦の縮図

アメリカの刑務所における刑務所ギャング間の同盟構造は、冷戦期の国際体系を驚くほど忠実に再現している。カリフォルニア州の刑務所体系では、二つの対立する陣営が形成されている。

第一陣営 第二陣営
メキシカン・マフィア(ヒスパニック系・南部) ヌエストラ・ファミリア(ヒスパニック系・北部)
アーリアン・ブラザーフッド(白人) ブラック・ゲリラ・ファミリー(黒人)
スレーニョ系ストリートギャング ノルテーニョ系ストリートギャング

この同盟構造において最も注目すべきは、白人至上主義を掲げるアーリアン・ブラザーフッドが、メキシコ系のメキシカン・マフィアと同盟しているという事実である。イデオロギー的には相容れないはずの両者が同盟を結んでいるのは、共通の敵(BGF・NF陣営)に対する安全保障上の必要性がイデオロギーを凌駕するからにほかならない。

これはまさに、ケネス・ウォルツの構造的リアリズムが予測する通りの現象である。ウォルツは、国際体系のアナーキーな構造が国家の行動を規定し、イデオロギーよりも構造的圧力が同盟形成を決定すると論じた。刑務所という閉鎖体系において、この原理は純粋な形で実証されている。「敵の敵は味方」 ― この勢力均衡の原理が、人種を超えた同盟を生み出しているのである。

安全保障ジレンマ

刑務所に新たに入所した受刑者は、「平和的」であろうとなかろうと、人種集団への帰属を強制される。中立を維持することは事実上不可能である。なぜならば、どの集団にも属さない個人は、全ての集団から潜在的な脅威と見なされ、攻撃の対象となるからである。

これは、リアリズムが論じる安全保障ジレンマの典型的な発現である。平和的な国家であっても、アナーキーな国際体系においては他国の意図を知ることができないがゆえに、自衛のために武装しなければならない。同様に、平和的な受刑者であっても、アナーキーな刑務所内においては他の集団の意図を知ることができないがゆえに、人種集団に加入して「武装」しなければならない。

刑務所ギャングの国家的機能

定住盗賊としてのギャング

経済学者マンカー・オルソンは、1993年の論文「独裁、民主主義、そして発展」において、定住盗賊(stationary bandit)の理論を提唱した。アナーキー下において、移動する盗賊(roving bandit)は略奪によって生産のインセンティブを破壊する。しかし、一つの領域に定住した盗賊は、略奪を独占し、税として合理化し、代わりに秩序と公共財を提供するようになる。なぜならば、領域内の経済活動が活発であるほど、徴収できる税も増大するからである。

刑務所ギャングの進化は、オルソンの理論を正確に再現している。初期の刑務所では、個別的な暴力(移動する盗賊)が蔓延していた。しかし、刑務所ギャングが領域を確立し、暴力を独占し、税を徴収し、秩序を提供するようになると ― すなわち定住盗賊へと進化すると ― 逆説的に無秩序な暴力は減少した。暴動や無差別暴力は全面的な封鎖措置(ロックダウン)を引き起こし、ギャングの経済活動を阻害するからである。

準国家としての統治機能

スカーベックは、刑務所ギャングが以下のような国家的機能を果たしていることを実証した。

  • 安全保障: 構成員に対する他集団からの暴力への防衛を保障する。これは国家の最も基本的な機能 ― 国防 ― と同一である
  • 課税: 麻薬売買やその他の経済活動から一定割合の収益を徴収する。メキシカン・マフィアは10%から30%、テキサス・シンジケートは10%を徴収する。これは国家の徴税制度と構造的に同一である
  • 立法: 構成員が従うべき規則(法律)を制定し、違反者を処罰する。ネタは25条の成文法を有する。メキシカン・マフィアの「ドライブバイ禁止令」は、立法権の行使にほかならない
  • 司法: 構成員間の紛争を裁定し、判決を執行する。法的救済が存在しない闇市場において、契約の強制と財産権の保護を担う
  • 外交: 他の刑務所ギャングとの同盟、停戦、宣戦布告を行う。1972年、メキシカン・マフィアの指導者ロドルフォ・カデナがヌエストラ・ファミリアとの和平交渉中に刺殺されたことで、両者の永久戦争が確定した。これは、国際関係における外交の失敗と戦争の開始を忠実に再現している

規範秩序から暴力秩序への移行

「囚人の掟」の崩壊

スカーベックは、刑務所の統治体系が歴史的に変化してきたことを明らかにした。1940年代から1950年代にかけて、アメリカの刑務所は比較的小規模で同質的な共同体であった。この時代には、「囚人の掟」(Convict Code)と呼ばれる非公式の規範体系が秩序を維持していた。密告の禁止、仲間との連帯、刑務官への非協力 ― これらの規範は、構成員の行動を律し、秩序を生み出していた。

これは、国際関係における規範的秩序 ― 少数の同質的な国家が共有する慣習・規範によって維持される秩序 ― と構造的に類似している。

人口爆発と多様化がアナーキーを生んだ

しかし、1960年代以降、アメリカの刑務所人口は爆発的に増加し、人種的・文化的に多様化した。小さな同質的共同体が維持していた規範体系は、大規模で異質な集団に対しては機能しなくなった。「囚人の掟」は崩壊し、代わりに暴力装置としての刑務所ギャングが秩序の主体として台頭した。

この移行は、国際体系における規範的秩序から権力政治への移行を想起させる。少数の同質的な大国が共有する規範によって維持されていた秩序が、参加者の増加と多様化によって崩壊し、力の均衡(バランス・オブ・パワー)による秩序へと移行する ― ウォルツが構造的リアリズムにおいて論じたこの力学が、刑務所という閉鎖体系において正確に再現されている。

刑務所が証明するリアリズムの原理

法の強さは軍事力に比例する

トマス・ホッブズは『リヴァイアサン』において、「剣なき契約は単なる言葉に過ぎず、人を拘束する力を少しも持たない」と喝破した。刑務所ギャングの現実は、この原理を鮮明に証明している。

刑務所内において、法(ルール)を制定し施行できるのは、暴力装置を保有する集団のみである。メキシカン・マフィアが「ドライブバイ禁止令」を発布し、それが実効性を持つのは、5万人以上の兵士を擁するスレーニョ・ネットワークという暴力装置が背後に存在するからである。暴力装置を持たない個人や集団は、他者の法に従うほかない。

法の強さは、それを強制する軍の力に比例する ― この原理は、刑務所において最も純粋な形で観察される。

自らの法を持つには自らの軍が必要である

刑務所における各ギャングは、それぞれ独自の法(規則、掟、規範)を有している。そして、その法を施行するための暴力装置(構成員による暴力)を保有している。自らの法を決定し運用するためには、自らの集団の軍が必要である

これを国家に置き換えれば、自明の理が見えてくる。自国の憲法を自ら決定し、自国の法律を自ら施行するためには、自国の軍隊が必要である。他国の軍隊が駐留し、他国が書いた法が最高法規として機能している国家は、刑務所において他のギャングの法に従属させられている弱小集団と構造的に同一である。

法には為政者の意思が反映される

ジョン・オースティンが定義したように、法とは主権者の命令である。刑務所においてこの原理は明瞭に観察される。メキシカン・マフィアの法にはメキシカン・マフィアの意思が、アーリアン・ブラザーフッドの法にはアーリアン・ブラザーフッドの意思が反映されている。

いかなる法も中立ではない。法は、それを制定した者の利益と意思を反映した支配の道具である。刑務所の法がそうであるように、国家の憲法もまた、それを書いた者の意思を反映している。

日本への適用 ― 条約体制の本質

詳細は日本の戦後条約体制を参照

アメリカの刑務所が証明する三つの原理 ― 法の強さは軍事力に比例する自らの法を持つには自らの軍が必要である法には為政者の意思が反映される ― を日本の戦後条約体制に適用すれば、その構造は明瞭になる。

  • 日本国憲法を書いたのはアメリカ軍である: したがって、日本国憲法にはアメリカ軍の意思が反映されている。刑務所においてギャングが書いた法にそのギャングの意思が反映されるのと同じ原理である
  • 日本国憲法という法を強制しているのはアメリカ軍である: 法の強さは軍事力に比例する。アメリカ軍が駐留し続ける限り、日本国憲法というアメリカの法は実効性を維持する
  • 日本は自らの軍を持たないがゆえに自らの法を持てない: 憲法9条第二項によって軍隊の保有を禁止された日本は、自らの法を自ら決定し施行する能力を持たない。これは、刑務所において暴力装置を持たない弱小集団が他のギャングの法に従属させられている状態と構造的に同一である

日本民族は、刑務所の弱小集団と同じ立場に置かれている。自らの暴力装置(軍隊)を持たず、他者(アメリカ軍)が書いた法(日本国憲法)に従属させられ、他者の秩序のなかで生存を許されているにすぎない。

この状態から脱却するためには、日米安全保障条約を破棄し、アメリカ軍を撤退させ、日本民族の独自の軍事力(核武装を含む)を確立し、日本民族の意思を反映した新日本憲法を制定しなければならない。刑務所のギャングが教えてくれる真理は単純である ― 自分の法を持ちたければ、自分の軍を持て

参考文献

  • 『地下社会の社会秩序 ― 刑務所ギャングはいかにアメリカの刑罰制度を統治しているか』(The Social Order of the Underworld: How Prison Gangs Govern the American Penal System)、デイヴィッド・スカーベック著(2014年、オックスフォード大学出版局)
  • 『刑務所秩序のパズル ― なぜ塀の向こうの生活は世界各地で異なるのか』(The Puzzle of Prison Order: Why Life Behind Bars Varies Around the World)、デイヴィッド・スカーベック著(2020年、オックスフォード大学出版局)
  • 「統治と刑務所ギャング」("Governance and Prison Gangs")、デイヴィッド・スカーベック、American Political Science Review(2011年)
  • リヴァイアサン』(Leviathan)、トマス・ホッブズ著(1651年)
  • 『国際政治の理論』(Theory of International Politics)、ケネス・ウォルツ著(1979年)
  • 『大国政治の悲劇』(The Tragedy of Great Power Politics)、ジョン・ミアシャイマー著(2001年)
  • 『国際政治 ― 権力と平和』(Politics Among Nations)、ハンス・モーゲンソー著(1948年)
  • 「独裁、民主主義、そして発展」("Dictatorship, Democracy, and Development")、マンカー・オルソンAmerican Political Science Review(1993年)
  • 『法についての省察の領域の決定』(The Province of Jurisprudence Determined)、ジョン・オースティン著(1832年)
  • 『政治神学』(Politische Theologie)、カール・シュミット著(1922年)

関連項目