ペトロダラーと超帝国主義

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ペトロダラーと超帝国主義

概要

ペトロダラーと超帝国主義とは、石油取引のドル建て決済を世界に強制する「ペトロダラー体制」と、マイケル・ハドソンが著書『超帝国主義国家アメリカの内幕』(Super Imperialism、1972年)で解明した米国債を媒介とする世界規模の経済収奪メカニズムを、統合的に分析する概念である。

金の裏付けを失ったドルは、石油という戦略資源と結びつくことで基軸通貨の地位を保った。石油の安定供給を担保するのはアメリカの軍事力であり、その軍事力を支えるのがドル覇権——この循環構造そのものがペトロダラー体制の核心にほかならない。かつての帝国主義が軍事征服と植民地統治で他国を搾取したのに対し、ハドソンが「超帝国主義」と名づけた体制は、ドルと米国債という金融的手段で形式上の主権を残したまま経済的従属を強制する。各国の民族自決権国家主権は形骸化し、経済政策の自律性は根底から奪われる。帝国主義の最も洗練された——そして最も陰険な——到達点である。

マイケル・ハドソンと『超帝国主義』

知的背景——ウォール街で目撃した収奪の内部構造

マイケル・ハドソン(1939年–)はミズーリ大学カンザスシティ校特別教授。父レオン・ハドソンはトロツキスト活動家で、マッカーシズム下に投獄された。この出自がハドソンにアメリカの権力構造への批判的視座を植えつけた。

ニューヨーク大学で経済学博士号を取得後、ハドソンはウォール街のチェース・マンハッタン銀行(現JPモルガン・チェース)に国際収支アナリストとして勤務した。帝国の金融収奪を銀行の内側から観察する稀有な経験。アメリカが貿易赤字を「武器」に世界から富を吸い上げる仕組みを、ハドソンは帳簿の数字のなかに読みとったのである。

『超帝国主義』——国防総省がマニュアルとして読んだ書物

1972年刊行の『超帝国主義国家アメリカの内幕』(Super Imperialism: The Economic Strategy of American Empire)は、ニクソン・ショック(1971年)直後に書かれた予見的著作である。金ドル兌換停止後のアメリカが、貿易赤字と財政赤字をいかに支配の道具へ転化するかを構造的に分析した。

主張の骨格は明快である。通常の経済学は貿易赤字を「問題」とみなすが、基軸通貨国アメリカにとって赤字は収奪の回路にすぎない。アメリカがドルを発行し世界から実物資産を手に入れる。各国は受け取ったドルを遊ばせておけず米国債へ投資する。アメリカは還流した資金で軍事と消費を賄い、新たな国債で既存国債を借り換える。永久に返済されない債務。各国が米国債を大量売却すればドル暴落で自国資産も毀損されるため、体制から抜けられない——ハドソンはこの構造を「紙の鎖」と呼んだ。

出版後、国防総省が大量に購入したという逸話が残る。批判書としてではなく、金融覇権維持のマニュアルとして。分析の正確さを物語るエピソードである。

レント経済と知的系譜

ハドソンの理論的基盤は三つの源流に遡る。ヴェブレン制度学派リカードJ.S.ミルの古典派経済学、そしてフリードリヒ・リスト保護主義思想である。

とりわけリストの影響は大きい。リストは19世紀の時点で、自由貿易が先進国と後進国の格差を固定し後進国の工業化を阻むと看破した。ハドソンはこの洞察を現代に適用し、自由貿易と金融グローバル化がアメリカ覇権を維持する構造的手段であると論じた。

もう一つの鍵概念が「レント」(不労所得)である。古典派経済学者は地代・利子・独占利潤を経済の寄生的要素とみなした。ハドソンによれば、現代アメリカは製造業の価値創造から金融的レント追求へ構造転換した「レンティア経済」(Rentier Economy)であり、この寄生的蓄積モデルが超帝国主義の経済的基盤をなしている(経済概論も参照)。

ペトロダラー体制の歴史的成立

ブレトンウッズ——ドル覇権の原型(1944–1971年)

1944年7月、ニューハンプシャー州ブレトンウッズに44カ国の代表が集結した。第二次世界大戦後の国際通貨体制を設計する会議——その実態は、世界経済秩序をアメリカ中心に再編する場であった。

対抗案を出したのはケインズである。超国家的準備通貨「バンコール」を創設し、いかなる一国通貨にも特権を与えず、黒字国と赤字国双方に調整義務を課す構想であった。公正な制度設計。だが世界の金保有量の約7割を握るアメリカの前に、ケインズ案は退けられた。採用されたのはアメリカのハリー・デクスター・ホワイト案——ドル本位制である。1オンス=35ドルの金兌換保証を軸に、IMFの議決権構造でアメリカに事実上の拒否権を付与し、固定為替レートで各国の通貨政策の自律性を奪った。「国際協調」の外観をまとった一国支配体制の完成。

1960年代、ベトナム戦争の軍事支出と偉大な社会計画でアメリカの金保有量は急減する。各国はドルの金兌換を要求しはじめ、ド・ゴールのフランスは公然とドル覇権に挑戦した。

ニクソン・ショック——「敗北」に偽装された勝利(1971年)

1971年8月15日、ニクソン大統領がドルと金の兌換を一方的に停止。通説はこれをアメリカ経済の衰退の象徴とする。ハドソンの解釈は正反対だ。

金という物理的制約から解放されたドルは、無限に発行可能な「帝国の通貨」に変貌した。ハドソンの言葉を借りれば、「以後、アメリカの対外債務の唯一の制約は、他国がドルを受け入れ続けるかどうかという政治的問題だけになった」。他国にドルの受け入れを強制する装置——それがペトロダラー体制であり、その背後にある軍事力である。

キッシンジャー=サウジ協定——石油とドルの婚姻(1974年)

1974年、キッシンジャー国務長官がサウジアラビアと秘密協定を結んだ。骨子は四点。サウジアラビアはすべての石油取引をドル建てで行う。石油収入の余剰資金を米国債に投資する。見返りにアメリカがサウジ王制の存続を軍事的に保証し、最新兵器を供給する。

石油は事実上のドルの裏付けとなった。あらゆる国が石油を必要とし、石油を買うにはドルが要る。ドルを得るにはアメリカに輸出し、余剰ドルは米国債に向かう。金本位制に代わるドル需要の創出装置が完成した。ハドソンはこれを「金本位制よりさらに巧妙な支配構造」と評した。金は有限だが、石油需要が続く限りドル需要は永続する。

ペトロダラー・リサイクリング——「帝国の貢物」

体制の真の巧妙さは「リサイクリング」にある。OPEC諸国が石油を売って得たドル(オイルダラー)は、国富ファンドや中央銀行に蓄積され、やがて米国債、アメリカの不動産、株式市場へ還流する。石油の売り手が受け取った代金は、最終的にアメリカの金融システムに戻る。

ハドソンはこの構造を「帝国の貢物」と表現した。ローマ帝国が属州から徴収した貢物の現代版。ただし、きわめて洗練されている。各国は「自発的に」ドルを保有し「自発的に」米国債を購入しているように見える。しかしこの「自発性」は軍事的報復の恐怖によって担保されたものにほかならない。

超帝国主義のメカニズム

「紙の鎖」——返済不要の債務

ハドソンが解明した収奪の循環を整理する(ドル覇権と経済収奪も参照)。

段階 内容
1 アメリカが貿易赤字を出し、ドルが世界に流出する
2 各国は利子のつかないドルを米国債に投資——アメリカにドルが還流する
3 還流資金で軍事支出・消費・金融投資を賄う
4 新規国債で既存国債を償還する永久借り換え——債務は実質的に返済されない
5 各国が米国債を大量売却すればドル暴落で自国資産も毀損される——体制からの離脱不能

核心は、基軸通貨国の対外債務は返済不要であるという一点に尽きる。通常の国家なら対外債務の膨張は通貨下落と経済危機を招く。だがドルを各国が保有し続ける限り、アメリカの債務は際限なく膨張できる。ハドソンのいう「財政赤字の帝国主義的利用」——赤字の拡大は弱さの表れではなく覇権強化の手段なのだ。

三國陽夫——「黒字亡国」の論証

三國陽夫『黒字亡国——対米黒字が日本経済を殺す』(2005年)は、ハドソンの理論を日本に適用した。三國の論旨は鮮明である。

同じ通貨体制を共有する二国間で、黒字国は搾取を受ける。歴史がこれを証明している。宗主国イギリスは赤字、植民地インドは黒字であった。インドが輸出した綿花の代金はロンドンの銀行にとどまった。現在の日米関係も同一構造である。日本は自動車と電子部品を輸出し、ドル建ての米国債を受け取る。実物を渡し紙切れを受け取る交換。しかもその紙切れが支えるアメリカの軍事力が、日本に駐留して国家主権を制限している。

世界最大級の対外純資産国でありながら、その富は国民生活に還元されない。米国債を売却して円に転換すれば円高が進行し輸出産業が打撃を受ける。自国の資産を自由に処分できない国家——それは主権国家ではなく、経済的植民地にほかならない。

SDR——制度化された特権

IMFの特別引出権(SDR)もまた超帝国主義の装置である。1969年に創設されたSDRは「国際準備資産」を標榜するが、配分はIMF出資比率に基づくため、最大出資者アメリカが最大の受益者となる。SDRの新規配分は、事実上アメリカに無償の国際購買力を付与する制度にすぎない。

ペトロダラーの軍事的基盤——挑戦者への報復

ペトロダラー体制はペルシア湾に展開するアメリカ海軍第5艦隊と、バーレーンカタールクウェートUAEの軍事基地によって維持されている。「地域の安定」「テロとの戦い」——表向きの名目の裏にある目的は石油のドル建て取引の保障である。体制の軍事的本質は、挑戦者への報復において最も鮮明に現れる。

イラク——ユーロ転換と侵攻

2000年11月、サダム・フセインがイラクの石油決済通貨をドルからユーロに切り替えた。2003年3月、アメリカは「大量破壊兵器の脅威」を口実にイラクを侵攻する。大量破壊兵器は発見されなかった。侵攻後に真っ先に実行された措置の一つが、石油取引のドル建て復帰である。グリーンスパンFRB議長は2007年の回顧録で「イラク戦争の動機が石油にあったことは誰もが知っている」と記した。

リビア——ゴールド・ディナール構想の抹殺

カダフィは金に裏付けられたアフリカ統一通貨「ゴールド・ディナール」を構想し、アフリカの資源取引をドルから切り離そうとした。2011年、NATOが「人道的介入」の名目でリビアに軍事介入。サルコジ仏大統領の電子メール(ウィキリークスが公開)は、カダフィの金準備(約144トン)とゴールド・ディナール構想がフランスの対アフリカ金融覇権を脅かしていたことを暴露した。カダフィの殺害は世界への示威行為。ドル以外で石油を売ろうとした指導者がたどる末路である。

イラン——封じ込められた挑戦

イランは2008年にイラン石油取引所を開設し、人民元ルーブル・物々交換による石油取引を拡大してきた。「核開発」を名目とした経済制裁の本質的動機は、中東においてペトロダラー体制に組み込まれていない数少ない産油国の存在そのものを封じ込めることにある。

日本——模範的属国の構造

ドル体制への四重の従属

日本はペトロダラー体制の最大の犠牲者の一つである。従属は四つの層から成る。

第一に、エネルギー決済。一次エネルギーの約90%を輸入に依存し、ほぼすべてがドル建て。石油を買うためにドルが要り、ドルを得るために対米輸出を続けなければならない。第二に、米国債の保有。約1兆ドルという巨額は「資産」であると同時にアメリカ体制からの離脱を阻む人質である。第三に、為替介入の罠。円高を防ぐためにドルを買い、そのドルを米国債に投資する循環——アメリカの財政赤字を日本が間接的に負担する構造にほかならない。第四に、金融政策の従属。FRBが利上げすれば日米金利差が拡大し円安が進行する。自律的な金融政策を遂行する余地が奪われている。

プラザ合意——属国管理の実態

1985年のプラザ合意は属国の脆弱さを如実に示した事例である。アメリカは自国の貿易赤字に対処するため、日本に急激な円高を強制した。1ドル=240円から、わずか2年で120円へ。日本の輸出産業に対する経済的攻撃にほかならない。

円高対策として日本銀行が大規模金融緩和に踏み切り、バブル経済を誘発した。崩壊後の「失われた30年」の遠因は、ペトロダラー体制下でアメリカの利益のために日本の通貨政策が歪められたことにある。ハドソンはプラザ合意を「属国管理の典型」と位置づけた。「同盟国」であろうと、アメリカの経済的利益に反する政策は許されない。

軍事駐留と経済従属——同じコインの裏表

日本がペトロダラー体制から離脱できない根本原因は、アメリカ軍の駐留にある。偽日本国憲法第9条で軍事主権を剥奪された日本は安全保障をアメリカに依存し、その依存関係がドル体制への従属を構造化する。軍事的従属と経済的従属は同じコインの裏表——ハドソンの定式化は、日本の現状を正確に描写している。米軍撤退なくして経済主権の回復はあり得ない。

古典的帝国主義との構造的差異

古典的帝国主義 アメリカの超帝国主義
支配形態 直接的植民地統治 形式的主権を維持したままの経済従属
収奪手段 軍事征服・資源略奪 ドル・米国債を通じた金融的収奪
正当化の論理 「文明化の使命」 「自由」「民主主義」「法の支配
被支配国の自覚 植民地であることを知っている 「同盟国」「パートナー」と信じている
帝国の費用 植民地行政に膨大なコスト 被支配国が自ら費用を負担する

最も危険な特徴は、被支配国が搾取の自覚を持たない点にある。古典的植民地の住民は支配を知っていた。超帝国主義の下では、日本のような国が「同盟国」として扱われ、「自由で開かれた国際秩序」の受益者だと信じ込む。この認識の歪みが超帝国主義を古典的帝国主義よりはるかに強靱なものにしている。

ホブソンレーニンは帝国主義を「過剰資本の輸出」として捉えた。ハドソンの転倒は鮮やかである。アメリカの超帝国主義は資本の輸出ではなく「債務の輸出」で機能する。外国に投資するのではなく、外国に米国債を保有させることで世界の余剰資本を吸い上げる。しかも帝国の維持費用は被支配国が負担する。日本の米国債保有と「思いやり予算」は、この構造の具体的表現にほかならない。

脱ペトロダラーの世界的潮流

ロシア——軍事的自立が可能にした離脱

ロシアはペトロダラー体制からの離脱を最も積極的に推進している。2014年のクリミア危機以降、米国債保有を約1,760億ドル(2010年)から数十億ドルへ激減させ、金準備を急増させた。2022年のウクライナ侵攻後は「非友好国」に天然ガスのルーブル建て決済を要求し、中国との人民元・ルーブル建て貿易を急拡大させている。SWIFTの代替システム「SPFS」の構築も進む。

2022年にアメリカとファイブ・アイズがロシアをSWIFTから排除した「金融核兵器」は、むしろSWIFT体制そのものへの国際的信頼を毀損し、各国に脱ドル化の動機を与える逆効果を生んだ。ロシアが離脱を断行できる根本理由は単純明快——アメリカ軍の駐留を受け入れていないからである。軍事的に自立した国家だけがドル体制からの離脱という政治的決断を下せる。

中国——「ペトロユアン」と並行的金融秩序

中国は2018年、上海国際エネルギー取引所で人民元建て原油先物取引を開始した。「ペトロユアン」の誕生である。サウジアラビアとの石油取引の一部を人民元建てに切り替える交渉も進んでいる。2023年、中国の仲介でサウジアラビアとイランが国交正常化を果たしたが、この外交的成果の背景にはペトロダラー体制からの段階的離脱という戦略がある。

AIIBはIMF・世界銀行への対抗機関として、一帯一路はドル体制を迂回する貿易・投資ネットワークとして、デジタル人民元SWIFTを迂回するデジタル通貨として、それぞれ機能しはじめている。ドル一極支配に対する並行的金融秩序の構築。

BRICS——多極的経済秩序の萌芽

BRICSは2023年のサミットでエジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEの加盟を承認し、世界人口の約46%、GDPの約36%を占める巨大経済圏へ拡大した。

サウジアラビアの加盟は象徴的意味を持つ。1974年のキッシンジャー=サウジ協定から約50年——ペトロダラー体制の要がドル対抗圏に参加した事実は、体制の根本的動揺を示している。BRICS新開発銀行(NDB)は加盟国通貨建ての融資を提供し、IMFの「構造調整プログラム」のような内政干渉的条件を課さない。

BRICSの拡大は、ドゥーギン第四の理論が描く多文明共存の世界像——リベラルな一極支配でも共産主義でもない、各文明圏が固有の経済・金融秩序を持つ多極的世界——の経済的基盤を形成しつつある。世界各国の中央銀行が金保有量を急増させている事実も、ドルの信認低下を裏づけている。

リアリズムの観点からの分析

モーゲンソー——権力の総合性

モーゲンソーは『国際政治——権力と平和』で国家権力を軍事力・経済力・政治力の総合として捉えた。ペトロダラー体制はその最も完成された実例である。中東への軍事展開が石油のドル建て取引を保障し、ドルの基軸通貨としての地位が軍事費の調達を可能にし、IMF・世界銀行が各国に新自由主義的改革を強制する。三つの権力が相互に補強しあう閉じた体系。

ウォルツ——一極体制の不安定性

ウォルツの構造的リアリズムは、一極体制が本質的に不安定であり他の大国がバランシング行動をとると予測した。BRICSの拡大、中露の連携、脱ドル化の世界的潮流——これらはウォルツが予測した構造的バランシングの現代的表現にほかならない。ペトロダラー体制の衰退は一極体制の経済的基盤が崩壊する過程であり、この構造的変動に日本がいかに対応するかが問われている。

ギルピンの覇権安定論——帝国のイデオロギー

ギルピンの「覇権安定論」は、覇権国が提供する「国際公共財」(基軸通貨、自由貿易体制、安全保障)が国際秩序を安定させると主張した。ハドソンはこれを根底から否定する。ドルの基軸通貨としての地位は「公共財」ではなく「帝国の特権」であり、自由貿易は市場アクセスの保障装置であり、安全保障はドル体制からの離脱を阻止する軍事的威嚇である。

覇権安定論は法の支配論と同じ構造を持つ。法の支配が「普遍的正義」の名でアメリカの法的支配を正当化するように、覇権安定論は「国際公共財」の名でドル覇権の経済的収奪を正当化する。特定の覇権国の利益を「普遍的価値」に偽装する知的操作——それが覇権安定論の本質である。

体制の衰退と日本の選択

ペトロダラー体制は複数の構造的要因によって衰退しつつある。再生可能エネルギーへの移行による石油需要の長期的減少。デジタル人民元などSWIFTを迂回する中央銀行デジタル通貨の台頭。約34兆ドルに膨張した米国債残高の持続可能性への疑問。中国の台頭とBRICSの拡大による地政学的多極化。そしてサウジアラビアの戦略的転換。

日本にとって、これは歴史的転換の好機である。だが窓は永遠に開いてはいない。アメリカ軍が駐留し偽日本国憲法の下にある限り、ペトロダラー体制からの離脱という政治的決断は下せない。米軍撤退と新憲法の制定なくして、経済主権の回復はあり得ない。

米国債保有の段階的削減と金・資源国通貨への分散。エネルギー決済通貨の多様化。産業政策の復活によるレンティア経済からの脱却。低賃金移民政策を拒否しスマートシュリンクを実行する持続可能な経済モデルの構築——これらはすべて、反米保守の立場から導かれる具体的政策である。

結論

ハドソンが半世紀前に解明した超帝国主義の構造は、今日まで基本的に変わっていない。アメリカは紙幣を刷り、世界から実物資産を吸い上げ、その軍事力で体制への挑戦者を粉砕する。

しかし構造は永遠ではない。帝国主義の歴史を振り返れば、覇権の衰退は常に周辺部からの離脱として始まる。BRICSの拡大、サウジアラビアの転換、金への回帰——ペトロダラー体制の周辺部はすでに崩れはじめている。

日本が問われているのは、崩壊する体制に最後までしがみつく属国であり続けるか、それとも経済主権を回復して多極化世界に独自の位置を占めるかである。その選択の前提として、ペトロダラー体制の本質を正確に理解することが不可欠であり、ハドソンの『超帝国主義』はそのための知的武器にほかならない。

参考文献

関連項目