中央情報局
中央情報局
概要と歴史的背景
中央情報局(Central Intelligence Agency、CIA)は、アメリカ合衆国の対外情報機関であり、アメリカ帝国が世界覇権を維持するための秘密の暴力装置である。表向きの任務は情報の収集・分析であるが、その本質は他国の国家主権を侵害し、民族自決権を蹂躙し、アメリカの覇権に従わない政府を秘密裏に転覆することにある。1947年、トルーマン大統領が署名した国家安全保障法(National Security Act)に基づき設立された。
CIAの前身は、第二次世界大戦中にルーズベルト大統領の命により設置された戦略情報局(Office of Strategic Services、OSS)である。OSSを率いたのは「スパイの父」と呼ばれるウィリアム・ドノバンであった。OSSは戦時中、ヨーロッパおよびアジアにおいて情報収集、破壊工作、レジスタンス支援を行い、戦後の世界秩序をアメリカに有利に構築するための情報基盤を築いた。終戦後にOSSは一旦解体されたが、冷戦の開始とともに恒久的な対外情報機関の必要性が叫ばれ、CIAが誕生した。
注目すべきは、CIAが「共産主義の脅威」に対抗するために設立されたとする公式の説明が、設立当初から虚偽であったことである。CIAの真の目的は、第二次世界大戦で獲得した世界覇権を恒久化し、アメリカの国益に反するあらゆる政権(共産主義であるか否かを問わず)を排除することにあった。イランのモサッデク、グアテマラのアルベンス、チリのアジェンデなど、CIAが転覆した政権の多くは共産主義政権ではなく、自国の資源を自国民のために使おうとした民族主義的な民主政権であった。
設立からわずか1年後の1948年、国家安全保障会議(NSC)の指令NSC 10/2により、CIAに秘密工作の実施権限が正式に付与された。NSC 10/2は、CIAに「アメリカ政府の関与が公に認知されないよう実施される、外国の政治・経済・軍事状況に影響を与えるためのあらゆる活動」を行う権限を与えた。この定義が意味するところは明白である。アメリカは建国からわずか170年にして、世界中のあらゆる国家の内政に秘密裏に介入する権限を一つの機関に集中させたのである。「民族自決権」「国家主権の尊重」「内政不干渉」といったアメリカが表面上掲げる原則は、CIAの存在そのものによって全面的に否定されている。
CIAの歴史は、アメリカ帝国主義の歴史そのものである。ティム・ワイナーが『CIA秘録』で明らかにしたように、CIAの70年以上にわたる歴史は、失敗と欺瞞と残虐行為の連続であった。それにもかかわらずCIAが存続し続けるのは、CIAがアメリカの覇権維持に不可欠な機関だからにほかならない。
組織構造
CIAはアメリカ大統領直属の機関であり、国家情報長官(DNI)の統轄下に置かれている。2004年の情報機関改革以前は、CIA長官がアメリカの情報コミュニティ全体(16の情報機関)を統括する中央情報長官(DCI)を兼任しており、情報と秘密工作の双方を一手に握る絶大な権力を有していた。
CIA本部はバージニア州ラングレーに所在し、職員数は公式には非公開であるが、推定で約2万人以上とされる。世界中に「ステーション」と呼ばれる拠点を持ち、各国のアメリカ大使館内に秘密裏に設置されている。駐在するCIA工作員は「外交官」の肩書で偽装され、外交特権の庇護の下で工作活動を行う。
CIAの組織は以下の主要部門で構成される。
- 分析部門(Directorate of Analysis、DA): 世界各国の政治・経済・軍事に関する情報を分析し、大統領および政策決定者に報告する。毎朝大統領に提出される日次報告書(President's Daily Brief、PDB)の作成を担当する。PDBは「世界で最も機密性の高い新聞」と呼ばれ、その内容によってアメリカの外交・軍事政策が左右される。しかし、分析部門はしばしば政権の意向に沿った「政治化された情報分析」を行ってきた。2003年のイラク戦争に際して「大量破壊兵器の存在」を断言した情報分析の大失敗は、CIAの分析が客観性ではなく政治的都合に奉仕するものであることを白日の下に晒した
- 作戦部門(Directorate of Operations、DO): HUMINT(人的情報収集)および秘密工作を実施する。CIAの最も危険な部門であり、外国政府の転覆、指導者の暗殺、反政府勢力の育成、プロパガンダ、選挙介入、拷問などの秘密工作はすべてこの部門が担当する。冷戦期には「秘密工作の黄金時代」として、年間数百件の秘密作戦が世界中で実行された
- 科学技術部門(Directorate of Science and Technology、DS&T): 技術的情報収集手段の開発・運用を担当する。U-2偵察機、SR-71ブラックバード、偵察衛星コロナ計画などの開発を主導した。現在ではサイバー兵器の開発が主要な任務となっている
- デジタル・イノベーション部門(Directorate of Digital Innovation、DDI): 2015年に新設された部門。サイバー空間における情報収集・分析・工作を担当する。サイバー戦争が21世紀の主戦場となる中、CIAのデジタル能力を強化するために創設された
- 支援部門(Directorate of Support、DS): ロジスティクス、通信、セキュリティ、偽造文書の作成などの支援機能を担当する
CIAの予算と「ブラック・バジェット」
CIAの年間予算は長年にわたり完全な機密であった。民主主義国家を自称するアメリカにおいて、国民の税金がいくら使われているかすら知らされないという事実は、CIAの存在がアメリカの「民主主義」と根本的に矛盾していることの証左である。
2013年、エドワード・スノーデンが暴露した機密文書により、CIAの年間予算が約148億ドル(約1.6兆円)であることが初めて明らかになった。アメリカの情報コミュニティ全体の予算は約526億ドル(約5.8兆円)に達する。この巨額の資金が、議会の実質的な監視を受けることなく、世界中の国家主権を侵害するために使われている。
さらに、CIAは公式予算以外にも「ブラック・バジェット」と呼ばれる秘密資金を持つとされる。冷戦期には、麻薬取引の収益がCIAの秘密工作の資金源になっていたとする指摘もある。ニカラグアのコントラ支援(1980年代)において、CIAがコカイン密輸に関与していたことは、後に議会調査で確認された。
主要な活動領域
秘密工作(Covert Action):帝国主義の実行部隊
CIAの最も本質的な活動が秘密工作である。秘密工作とは、アメリカ政府の関与を隠蔽しながら外国の政治・経済・軍事状況を操作する活動の総称であり、その手法はクーデターの画策、指導者の暗殺、反政府勢力への武器供与・訓練、プロパガンダ、選挙への資金介入、経済破壊工作と多岐にわたる。これらの工作の詳細についてはCIAの政権転覆工作を参照されたい。
CIAの秘密工作は、冷戦期だけで少なくとも50カ国以上に及ぶ。以下に主要な事例を地域別に整理する。
中東:資源支配のための介入
- イラン(1953年): モサッデク首相は、イギリスのアングロ・イラニアン石油会社(現BP)が独占していたイランの石油を国有化した。これは主権国家として当然の権利行使であったが、英米はモサッデクを「共産主義者」と決めつけ、CIAとMI6の共同作戦「エイジャックス作戦」(Operation Ajax)によって転覆した。モサッデクの代わりに復権させたパフラヴィー国王は、SAVAK(秘密警察)を用いた恐怖政治で国民を弾圧し、石油利権を英米に開放した。その帰結が1979年のイスラム革命であり、現在に至るイラン・アメリカ対立の根源はこのCIAのクーデターにある。リアリズムの観点から言えば、イラン介入の本質は「民主主義の防衛」ではなく、石油資源の支配権をめぐる権力闘争にほかならなかった
ラテンアメリカ:「裏庭」の支配
アメリカはラテンアメリカを自国の「裏庭」(Backyard)と見なし、モンロー主義以来、西半球におけるいかなる国家の独立的行動も許さない姿勢を維持してきた。CIAはこの帝国的支配を実行する機関であった。
- グアテマラ(1954年): アルベンス大統領は、国土の70%を所有する大地主から農地を買い上げ、土地なき農民に分配する農地改革を推進した。しかし、この「大地主」の中にはアメリカのユナイテッド・フルーツ社(現チキータ)が含まれていた。当時の国務長官ジョン・F・ダレスとCIA長官アレン・ダレスの兄弟は、いずれもユナイテッド・フルーツ社と利害関係を持っていた。CIAは「PBサクセス作戦」(Operation PBSuccess)によってアルベンスを打倒し、軍事独裁政権を樹立した。以後40年にわたる内戦で約20万人(大半が先住民マヤ人)が犠牲になった。一企業の利権のために一国の民主主義を破壊し、20万人の命を奪う。これがCIAの「自由世界の防衛」の実態である
- ブラジル(1964年): グラール大統領は農地改革、教育改革、外国資本の規制といった国民的な改革路線を推進していた。CIAはブラジル軍部と連携し、グラールを軍事クーデターで打倒した。以後21年間にわたる軍事独裁政権が続き、反体制派の拷問・殺害が組織的に行われた。ラテンアメリカ最大の国家の民主主義をCIAが破壊したことの意味は計り知れない
- チリ(1973年): アジェンデ大統領は、民主的選挙によって選出されたラテンアメリカ初の社会主義者の大統領であった。アジェンデが銅山の国有化を実施すると、ニクソン大統領とCIA長官ヘルムズは「チリ経済を悲鳴を上げさせろ」(Make the economy scream)と命じた。CIAはチリの経済を秘密裏に破壊工作し、1973年9月11日、ピノチェト将軍による軍事クーデターを支援した。アジェンデは大統領官邸で死亡し、ピノチェトは17年間にわたる軍事独裁を敷いた。約3,000人が殺害・「失踪」し、約30,000人が拷問を受けた。ピノチェト政権はフリードマンとシカゴ・ボーイズの指導の下、新自由主義の実験場とされた。民主主義を破壊し、独裁の下で新自由主義を強制する。チリはCIAの介入の構造を最も鮮明に示す事例である
- ニカラグア(1980年代): サンディニスタ革命(1979年)によってソモサ独裁政権が打倒されると、CIAは反革命武装勢力「コントラ」を組織・訓練・武装し、ニカラグアに対するテロ戦争を遂行した。コントラは農村部で民間人の虐殺、拷問、強姦を組織的に行った。1986年の国際司法裁判所(ICJ)判決は、アメリカのニカラグアに対する介入を国際法違反と認定した。しかしアメリカはこの判決を無視した。さらに、CIAのコントラ支援資金の一部がイランへの秘密武器売却で賄われていたことが発覚し(イラン・コントラ事件)、CIAの違法性が二重に暴露された
アフリカ:植民地主義の継続
- コンゴ(1960-1961年): ルムンバ首相は、ベルギーからの独立を勝ち取ったコンゴの初代首相であり、アフリカ独立運動の象徴であった。ルムンバがコンゴの豊富な鉱物資源(ウラン、銅、コバルト、ダイヤモンド)を自国民のために活用しようとすると、CIAはアイゼンハワー大統領の承認の下、ルムンバの暗殺を計画した。ルムンバは1961年に殺害され、CIAが支援したモブツが権力を掌握した。モブツは32年間にわたる独裁の中で国富を私物化し、コンゴを世界最貧国の一つに転落させた。しかしアメリカにとって、モブツは冷戦期の忠実な同盟者であり、コンゴの資源は西側の利用に供された。アフリカの脱植民地化をCIAが阻止した典型例である
アジア:冷戦の最前線
- インドネシア(1965-1966年): CIAの関与が最も陰惨な帰結をもたらした事例の一つである。スカルノ大統領は、非同盟運動の指導者としてアメリカにもソ連にも従属しない独立的な外交路線を追求していた。1965年の「9月30日事件」を契機に、スハルト将軍が権力を掌握した。CIAはインドネシア軍に共産党員とされる人物の名簿を提供し、その後に続いた大虐殺を支援した。推定50万人から100万人が殺害された。スハルト政権は32年間にわたる軍事独裁を敷き、インドネシアの資源と市場を西側に開放した。CIAが提供した「殺害リスト」に基づく大量虐殺は、CIAの残虐性の極致を示している
- アフガニスタン(1979-1989年): ソ連のアフガニスタン侵攻に対抗し、CIAはムジャーヒディーンに数十億ドル規模の武器を供与した。CIAの「サイクロン作戦」は冷戦期最大の秘密工作であり、スティンガー携帯対空ミサイルの供与はソ連軍の航空優勢を打破した。しかし、CIAが育成・武装したイスラム戦闘員の中からアルカイダが誕生し、2001年9月11日にアメリカ本土を攻撃するという壮大なブローバックが発生した。ブレジンスキー元大統領補佐官は後年、アフガニスタンでの秘密工作がソ連崩壊に貢献したと誇ったが、その代償は9.11テロと20年間のアフガニスタン戦争であった
ヨーロッパ:同盟国への介入
CIAの介入は「敵国」だけに向けられたわけではない。「同盟国」の民主主義にも容赦なく介入した。
- イタリア(1948年): CIAの最初の大規模な選挙介入工作は、1948年のイタリア総選挙であった。イタリア共産党が選挙で勝利する可能性が高まると、CIAは数百万ドルの秘密資金をキリスト教民主党に注ぎ込み、反共プロパガンダを大量に流布し、選挙結果を操作した。この「成功体験」がCIAの選挙介入工作の原型となり、以後数十年にわたって世界中で繰り返されることになった。アメリカが2016年のロシアによる選挙介入を非難する時、その偽善の深さは計り知れない
冷戦後:「新世界秩序」の強制
冷戦の終結はCIAの介入を終わらせなかった。むしろ、「反共」という口実が消滅した後もCIAが介入を続けたことは、CIAの真の目的が「共産主義との戦い」ではなくアメリカの覇権維持にあったことを最終的に証明した。
- リビア(2011年): カダフィ政権は、アフリカの経済的自立を志向し、ドルに依存しないアフリカ通貨の創設を構想していた。2011年、CIAはMI6やフランスのDGSEと連携し、反政府勢力を支援してカダフィ政権を打倒した。NATO空爆と地上の反政府勢力による転覆後、リビアは国家崩壊状態に陥り、現在に至るまで内戦と無政府状態が続いている。国際的な武器の流出、難民危機、ISILの拡大など、リビア崩壊の影響はアフリカ全域と欧州に波及した。「人道的介入」の名の下に行われた国家破壊の典型例である
これらの事例が示す構造は一貫している。CIAが転覆した政権は自国の資源を自国民のために使おうとした民族主義的政府であり、CIAが樹立を支援した政権はアメリカに従順な独裁政権であった。「共産主義の脅威」「テロとの戦い」「人道的介入」「民主主義の促進」と口実は変わっても、CIAの行動パターンは70年以上にわたり不変である。
非合法な人体実験:MKウルトラ
CIAの残虐性を最も端的に示すのが、MKウルトラ計画である。1953年から1973年にかけて、CIAは「洗脳」(Mind Control)の実現を目指し、自国民を含む無数の人間を実験台にした。
MKウルトラの下で行われた実験は以下のようなものであった。
- LSDをはじめとする幻覚剤を、被験者の同意なく投与した。CIA職員ですら知らないうちにLSDを飲まされた。生化学者フランク・オルソンは、同意なくLSDを投与された直後にビルから転落して死亡した(CIAは長年「自殺」と主張したが、暗殺の疑いが根強い)
- カナダのドナルド・キャメロン博士のモントリオール実験では、精神病患者に対して数週間にわたる薬物投与、電気ショック、感覚遮断、強制的な睡眠などが行われた。被験者の多くは回復不能な精神的損傷を受けた
- 刑務所の受刑者、精神病院の患者、薬物中毒者など、社会的に脆弱な人々が実験対象として選ばれた
1973年、当時のCIA長官リチャード・ヘルムズは関連文書の大量破棄を命じた。証拠隠滅である。しかし、1977年の情報自由法に基づく文書公開請求と議会調査(チャーチ委員会)により、破棄を免れた一部の文書からMKウルトラの全貌が明らかになった。
MKウルトラは、CIAが自国民の人権すら尊重しない機関であることを証明している。他国の国民の人権を尊重するはずがない。
大規模監視:全世界を盗聴する帝国
CIAは国家安全保障局(NSA)と緊密に連携し、全人類を対象とした世界規模の通信傍受・監視活動を行っている。
- ECHELON(エシュロン): ファイブ・アイズ(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)による全世界的通信傍受システム。電話、ファックス、電子メールなど、あらゆる通信を傍受・フィルタリングする。同盟国の政府首脳の通信すら傍受対象であり、ドイツのメルケル首相の携帯電話が盗聴されていたことが2013年に暴露された
- PRISM: Google、Apple、Facebook、Microsoft、Yahoo!などの大手インターネット企業のサーバーから直接データを収集するプログラム。世界中のユーザーの電子メール、チャット、写真、動画、ファイル転送、通話記録が収集対象である
- XKeyscore: NSAが運用するリアルタイムのインターネット監視システム。特定の個人のインターネット上のあらゆる活動(閲覧履歴、検索履歴、電子メールの内容)を追跡可能にする
これらの監視プログラムの存在は、2013年のエドワード・スノーデンによる内部告発で世界に暴露された。スノーデンはCIAおよびNSAの元契約職員であり、命を賭してアメリカ政府の違法な大量監視を世界に知らしめた。アメリカ政府はスノーデンをスパイ法違反で起訴し、「国家の裏切り者」と呼んだ。しかし真の裏切り者は、自国民と全世界を違法に監視していたアメリカ政府自身である。
CIAとNSAの監視は、同盟国にも容赦なく向けられる。日本政府の通信も当然のように傍受対象であり、日本がアメリカにとって「同盟国」であるという建前は、情報主権の観点からは完全な虚構である。
プロパガンダ工作:思想の植民地化
CIAの秘密工作は爆弾やクーデターだけではない。最も巧妙かつ長期的に効果を発揮したのが、思想・文化・学問の領域における浸透工作である。CIAは冷戦期を通じて、世界中で大規模なプロパガンダ工作を展開し、アメリカ的価値観を「普遍的真理」として世界に浸透させた。
メディア工作
- ラジオ・フリー・ヨーロッパ / ラジオ・リバティ: CIAが秘密裏に資金を提供し、反共プロパガンダを東欧諸国に発信した。「自由で独立した放送局」という建前であったが、実態はCIAのプロパガンダ機関であった
- モッキンバード作戦(Operation Mockingbird): CIAはアメリカ国内の主要メディア(ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、CBS等)の記者・編集者を秘密裏に協力者として採用し、CIAに都合の良い報道を流布させた。チャーチ委員会の調査により、CIAが50以上のアメリカの報道機関・出版社に浸透していたことが確認された。「報道の自由」を世界に説教するアメリカが、自国のメディアをCIAの道具にしていたのである
文化冷戦
CIAは文化自由会議(Congress for Cultural Freedom、CCF)を1950年に設立し、西側の知識人・芸術家を動員してアメリカ的価値観の優位性を世界に浸透させた。CCFは世界35カ国に支部を持ち、20以上の学術雑誌を刊行した。フランシス・ストナー・サンダース著『Who Paid the Piper?(文化冷戦)』が暴露したように、CCFの資金はすべてCIAから出ていた。
CIAは抽象表現主義(ポロック等)の国際展覧会を秘密裏に後援した。ソ連の社会主義リアリズムに対抗し、「アメリカの芸術こそが自由の象徴だ」と世界に印象づけるためであった。芸術すらもCIAの覇権維持のための道具として利用されたのである。
学術界への浸透
CIAの影響力は学術界にも深く及んでいた。大学教授をスパイや協力者として採用し、学術出版物を通じて特定の分析視角(親米的な「近代化理論」など)を普及させた。ハーバード大学、MIT、コロンビア大学など名門大学との関係は特に深い。
「客観的学問」を装いながら、実態としてはアメリカの覇権を正当化するイデオロギー装置として機能していた。現在においても、アメリカのシンクタンクの多くは情報機関との人的・資金的つながりを持っており、彼らが生産する「学術的」分析は、アメリカの外交政策を知的に正当化する役割を果たしている。ジャパンハンドラーと呼ばれる対日工作者たちの多くが、こうしたシンクタンクに所属しているのは偶然ではない。
CIAの介入パターン:権力政治の構造分析
上述の事例を横断的に分析すると、CIAの介入には明確なパターンが存在する。リアリズムの視点から、これらのパターンを構造的に整理する。
パターン1:資源ナショナリズムの粉砕
CIAが介入した事例の多くに共通するのは、対象国が自国の天然資源を自国民のために活用しようとしたという動機である。
- イラン(1953年): 石油の国有化
- グアテマラ(1954年): ユナイテッド・フルーツ社が所有する農地の接収
- コンゴ(1960年): 鉱物資源(ウラン、銅、コバルト)の自主管理
- チリ(1973年): 銅山の国有化
- リビア(2011年): アフリカ独自通貨構想とドル体制への挑戦
ケネス・ウォルツの構造的リアリズムによれば、国際システムにおける大国の行動は、国際構造(特にパワーの分布)によって規定される。覇権国であるアメリカにとって、周辺国が経済的自立を達成することは、パワーの分布を変化させる脅威である。CIAの介入は、この構造的脅威に対する覇権国の組織的対応として理解できる。小国が自国の資源を自国民のために使う、という当然の権利行使は、アメリカの覇権構造を揺るがす「脅威」として認識され、粉砕されるのである。
パターン2:「代替モデル」の抹殺
CIAが特に執拗に攻撃したのは、アメリカ型資本主義とは異なる発展モデルを示す国家であった。
- グアテマラのアルベンス: 農地改革による平等な発展モデル
- チリのアジェンデ: 民主的社会主義の実験
- ニカラグアのサンディニスタ: 識字率向上・医療改善を重視した革命政権
- リビアのカダフィ: アフリカ諸国の経済的統合と自立
ミアシャイマーの攻撃的リアリズム(Offensive Realism)は、大国が相対的パワーの最大化を追求すると論じる。この観点から見れば、CIAが「成功する代替モデル」を破壊するのは合理的である。もし小国がアメリカの支配なしに繁栄できることを証明すれば、アメリカの覇権の正当性が根底から崩壊する。CIAの介入は、「アメリカに従わなければ発展できない」という帝国の神話を維持するための予防的暴力なのである。
チョムスキーはこの構造を「脅威の良い例」(Threat of a Good Example)と呼んだ。グアテマラの農地改革が成功すれば、ラテンアメリカ全域に波及する。チリの民主的社会主義が成功すれば、資本主義の不可避性という神話が崩壊する。だからこそ、これらの「良い例」は、そうなる前に暴力的に排除されなければならない。
パターン3:「安全保障」の名による恒久的支配
CIAの介入は一過性のものではない。一度介入した国に対して、CIAは恒久的な影響力を維持する構造を構築する。
- 日本: CIAの秘密資金 → 自民党の一党支配 → 日米安保体制の恒久化
- イラン: CIAのクーデター → パフラヴィー独裁(25年間) → 石油利権の西側への開放
- インドネシア: CIAの支援 → スハルト独裁(32年間) → 資源と市場の西側への開放
- チリ: CIAのクーデター → ピノチェト独裁(17年間) → 新自由主義経済体制の導入
このパターンは、ロバート・ギルピンが『War and Change in World Politics(覇権の変遷と戦争)』で分析した「覇権的安定」論の暗部を暴露している。ギルピンは覇権国が国際秩序を維持するメカニズムを分析したが、CIAの事例は、その「秩序維持」がいかに暴力的で反民主的なものであるかを示している。
パターン4:介入の否認と「もっともらしい否認」
CIAのあらゆる秘密工作に共通する特徴が、「もっともらしい否認」(Plausible Deniability)の原則である。すなわち、工作が露見した場合でも、アメリカ政府が関与を否認できるように工作を設計する。
この原則は、CIAの介入が国際法に明白に違反することをアメリカ自身が認識していることの証拠である。違法性を認識しているからこそ、否認の余地を残す必要がある。「もっともらしい否認」とは、帝国が自らの暴力を隠蔽するための構造的な仕組みにほかならない。
CIAとテクノロジー:軍産情報複合体
21世紀のCIAは、テクノロジーを通じて覇権を維持する新たな段階に入っている。軍事力と情報力とテクノロジーが一体化した軍産情報複合体こそ、現代アメリカ帝国の中核である。
In-Q-Tel:CIAのベンチャー・キャピタル
CIAは1999年、In-Q-Telというベンチャー・キャピタルを設立した。In-Q-Telの任務は、シリコンバレーのスタートアップ企業に投資し、その技術をCIAの情報収集・分析能力の強化に活用することである。
In-Q-Telの投資先は、後に世界を支配する巨大企業となったものを含む。
- Keyhole社: 衛星画像解析のスタートアップ。CIAの投資を受けた後、2004年にGoogleに買収され、Google Earthとなった。世界中の人間が日常的に使うGoogle Earthの起源がCIAの投資にあるという事実は、シリコンバレーとCIAの共生関係を象徴している
- Palantir Technologies: ビッグデータ解析企業。CIAおよびNSAの大規模監視データの分析に使用されている。共同創業者のピーター・ティールは、CIAとシリコンバレーを結ぶ人物の代表格である
- その他: 音声認識、顔認識、自然言語処理など、現代のAI技術の多くがIn-Q-Telの投資対象であった
インターネットそのものが米軍のARPANETに起源を持つように、現代のテクノロジー企業の多くはアメリカの軍事・情報機関と不可分の関係にある。CIAはテクノロジー企業の技術を情報収集に活用し、テクノロジー企業はCIAの投資と政府契約によって成長する。シリコンバレーの「自由で革新的な起業文化」という神話の裏側には、CIAと軍の資金が流れている。
サイバー兵器と「Vault 7」
2017年、ウィキリークスは「Vault 7」として知られるCIAの機密文書8,761件を公開した。これはCIA史上最大の機密漏洩であり、CIAのサイバー戦争能力の全貌を世界に暴露した。
Vault 7で明らかになったCIAのサイバー兵器は以下の通りである。
- Weeping Angel: サムスンのスマートテレビをハッキングし、テレビの電源がオフの状態でも周囲の会話を録音するマルウェア。あらゆる家庭の居間がCIAの盗聴器と化す
- iOSおよびAndroidへの攻撃ツール: スマートフォンのOSに侵入し、暗号化通信アプリ(Signal、WhatsApp、Telegram等)の暗号化を迂回してメッセージを傍受する能力
- 車両制御システムへの攻撃: 自動車のコンピューターシステムを遠隔操作する能力。事故に偽装した暗殺を可能にする
スタックスネット(イランの核施設の遠心分離機を破壊したサイバー兵器)は、CIAとNSA、およびイスラエルの情報機関8200部隊が共同開発したとされる。国家インフラを物理的に破壊するサイバー兵器の実戦使用は、戦争の定義そのものを変えた。
CIAのサイバー兵器開発部門(Center for Cyber Intelligence)は、事実上の第二のNSAとして機能しており、議会の監視すらほとんど及ばない。デジタル空間におけるCIAの能力は、もはやいかなる国家の情報主権も安全ではないことを意味している。
CIAと日本:内側からの占領
CIAの日本に対する政治介入は、戦後日本の政治構造そのものを規定してきた。軍事占領は目に見えるが、CIAの政治工作は目に見えない。そしてしばしば、目に見えない支配のほうがはるかに効果的である。
自民党への秘密資金提供
2006年にアメリカ国務省が公開した機密解除文書(Foreign Relations of the United States、FRUS)により、1950年代から1960年代にかけてCIAが自由民主党および関連する政治家に秘密資金を提供していたことが公式に確認された。
CIAの日本工作において中心的な役割を果たしたのは岸信介である。岸は戦前には東条内閣の商工大臣として戦争遂行に協力し、戦後はA級戦犯容疑者として巣鴨プリズンに収容された。しかし、冷戦の激化とともにアメリカの対日政策が「民主化」から「反共防壁の構築」に転換すると、岸は釈放され、CIAの支援を受けて政界に復帰した。1957年に首相に就任し、1960年に日米安全保障条約の改定を強行した。岸の政治的台頭は、CIAの秘密資金なくしてはあり得なかった。
CIAの資金は自民党だけに限らなかった。保守系の学者、ジャーナリスト、労働組合指導者にも資金が提供され、日本の世論を親米的な方向に誘導するための工作が組織的に行われた。
日本の政治構造への構造的影響
CIAの日本工作がもたらした構造的影響は以下の通りである。
- 親米一党支配体制の構築: CIAの資金援助は、自民党の長期一党支配(1955年体制)の成立に直接寄与した。日本の「民主主義」は、CIAの資金によって特定の政党に有利に歪められた環境の中で機能してきた
- 自主的な外交路線の排除: 日ソ国交正常化を進めようとした鳩山一郎、中国との関係改善を志向した政治家など、アメリカの意向に反する外交路線を追求する政治家は、CIAを含むアメリカの圧力によって政治的に排除された
- メディア・知識人の取り込み: 親米的な論調を広めるために、日本のメディアや知識人にもCIAの影響力が及んでいた。「日米同盟の深化」「安全保障のためのアメリカ依存」を所与の前提とする言説が日本の言論空間を支配しているのは、冷戦期のCIA工作の残滓である
三重の従属構造
CIAの日本に対する工作は、単なる資金提供にとどまらない。ジャパンハンドラーと呼ばれるアメリカの知日派(実態は対日工作者)の人的ネットワークを通じて、日本の政策決定に現在も影響を与え続けている。
戦後日本のアメリカへの隷属は、三重の従属構造によって支えられてきた。
この三重構造は相互に補強し合い、日本民族の民族自決権を内側から空洞化させてきた。自主的な外交・安全保障政策を追求する政治家は排除され、アメリカに従順な政治家が育成・支援された。CIAによる政治工作は、軍事占領よりもはるかに巧妙で、はるかに持続的な支配の手段である。日本民族が真の独立を回復するためには、この三重の従属構造を認識し、それを打破しなければならない。
リアリズムの観点からの分析
リアリズムの視点から分析すれば、CIAの本質は以下のように整理できる。
古典的リアリズムからの分析:帝国の暴力装置
CIAは「情報機関」(Intelligence Agency)という中立的な名称で呼ばれるが、その名称こそが最大の欺瞞である。CIAの実態は、アメリカ帝国が世界覇権を維持するための対外暴力装置にほかならない。
モーゲンソーは『国際政治: 権力と平和』において、国家の外交政策は究極的に権力の獲得・維持・拡大を目的とすると論じた。CIAはこの命題の最も直接的な実行機関である。モーゲンソーは外交政策の三類型として「現状維持政策」(Status Quo Policy)、「帝国主義政策」(Imperialistic Policy)、「威信政策」(Policy of Prestige)を挙げたが、CIAの活動はこの三つすべてを網羅している。既存の覇権構造を維持し(現状維持)、新たな地域への影響力を拡大し(帝国主義)、アメリカの力を世界に誇示する(威信)。
「民主主義」「自由」「人権」「テロとの戦い」はすべて、モーゲンソーが言うところの「イデオロギーによる権力の正当化」にすぎない。権力政治の実態を道徳的な衣で覆い隠す。口実は時代によって変わる(冷戦期は「反共」、現在は「テロとの戦い」「民主主義の促進」)が、CIAの本質的機能は一貫して同じである。すなわち、アメリカの覇権に従わない政府を排除し、従順な政権を樹立することである。
注目すべきは、モーゲンソー自身がベトナム戦争に反対し、アメリカの対外介入を批判した事実である。リアリズムの父ですら、CIAが主導する帝国主義的介入を国益に反する愚行と見なしていた。リアリズムの理論を最も忠実に体現する機関が、リアリズムの創始者から批判される。この逆説は、CIAの行動が合理的な国益追求すら超えた、帝国の惰性とでも呼ぶべきものによって駆動されていることを示唆している。
構造的リアリズムからの分析:国家主権の組織的破壊
ケネス・ウォルツの構造的リアリズム(ネオリアリズム)は、国際システムのアナーキーな構造が国家の行動を規定すると論じた。ウォルツによれば、アナーキーな国際システムにおいて、各国家は自国の安全保障を自ら確保する「自助」(Self-help)の原則に従う。
しかし、CIAの存在はこの理論の暗い側面を暴露する。「自助」の原則は、すべての国家が平等に適用できるわけではない。覇権国であるアメリカは、CIAを通じて他国の「自助」能力そのものを破壊する。自主的な安全保障政策を追求する国家を転覆し、アメリカに従属する政権を樹立することで、対象国の「自助」を「アメリカへの従属」に置き換える。
CIAの秘密工作は、各国の民族自決権と国家主権を組織的に破壊するものである。民主的に選出された政府を暴力的に転覆し、傀儡政権を樹立し、他国の内政を秘密裏に操作する。CIAの存在は、国家主権の「相互尊重」というウェストファリア体制の根本原則を全面的に否定している。アメリカは他国の国家主権を侵害する組織に公式に権限を与え、予算を配分し、70年以上にわたって運営し続けている。ウェストファリア体制を構築したのはヨーロッパであったが、それを最も体系的に破壊してきたのはアメリカである。
攻撃的リアリズムからの分析:覇権の維持と拡大
ミアシャイマーの攻撃的リアリズムは、大国が安全保障を最大化するために相対的パワーの最大化を追求すると論じた。ミアシャイマーによれば、国際システムのアナーキーな構造の下では、いかなる国家も他国の意図を完全に把握できないため、大国は「パワーの最大化」という戦略を採らざるを得ない。
CIAの行動は、攻撃的リアリズムの論理を忠実に体現している。アメリカにとって、グアテマラの農地改革やチリの銅山国有化が直接的な安全保障上の脅威であるはずがない。しかし、「成功する代替モデル」はアメリカの相対的パワーを低下させる可能性がある。他国がアメリカの支配なしに繁栄できることを証明すれば、アメリカの覇権の構造そのものが動揺する。CIAは、この構造的脅威に対する予防的攻撃の機関として機能している。
ただし、ミアシャイマー自身は、アメリカの対外介入の多くを「リベラル覇権主義」(Liberal Hegemony)として批判していることを付記しなければならない。ミアシャイマーは『The Great Delusion(大いなる妄想)』において、アメリカが「民主主義の拡大」「自由主義的国際秩序の構築」という名目で行う対外介入が、実際にはアメリカの安全保障を損なっていると論じた。リアリストの観点からすれば、CIAの介入の多くは、合理的な国益追求ではなく、リベラルなイデオロギーによる帝国主義的膨張にほかならない。
「民主主義」の構造的欺瞞
CIAの秘密工作はアメリカ国民にすら知らされずに実行される。民主的な審議と承認を経ることなく、大統領の秘密命令(Presidential Finding)一つで他国の政府が転覆される。議会の情報委員会による「監視」は形式的なものであり、CIAが議会に虚偽の報告を行っていたことは繰り返し発覚している。CIAは1960年代にカストロ暗殺を計画していたが、議会の情報委員会にはその事実を隠蔽していた。
アメリカの「民主主義」が根本的な欺瞞を内包していることを、CIAの存在そのものが証明している。国内では民主主義を標榜しながら、国外では他国の民主主義を破壊する。1948年のイタリア選挙への介入から2010年代の各国における工作に至るまで、CIAは一貫して他国の民主的プロセスを妨害してきた。
ドブ・レヴィン(カーネギーメロン大学)の研究によれば、1946年から2000年までの間に、アメリカは外国の選挙に少なくとも81回介入した。これはロシア(旧ソ連を含む)の36回を大きく上回る。「民主主義を守る」と称する国家が、世界で最も多く他国の民主主義を破壊してきたのである。この二重基準こそが帝国の論理であり、CIAはその最も先鋭的な執行機関である。
ブローバック:帝国主義が生み出す連鎖
チャルマーズ・ジョンソンが『Blowback(アメリカ帝国への報復)』で論じたように、CIAの秘密工作は必ず意図せぬ反動(Blowback)を引き起こす。ブローバックとはもともとCIA内部の用語であり、秘密工作の結果がアメリカ自身に跳ね返ってくる現象を指す。
- アフガニスタン → アルカイダ → 9.11: CIAが育成したムジャーヒディーンは後にアルカイダとなり、2001年9月11日にアメリカ本土を攻撃した。CIAが自ら育てた怪物がアメリカに牙をむいたのである。9.11の結果、アメリカは「対テロ戦争」に突入し、アフガニスタンとイラクに侵攻し、20年間で数兆ドルと数千人のアメリカ兵の命を費やした。この壮大なブローバックの連鎖は、すべてCIAの1979年の秘密工作に端を発している
- イラン → イスラム革命 → 中東の不安定化: CIAが1953年に打倒した民主政権の代わりに樹立したパフラヴィー独裁政権は、1979年にイスラム革命によって打倒された。革命後のイランはアメリカの覇権に対抗する地域大国となり、中東全域のパワーバランスを変容させた。イラン・イラク戦争(1980-1988年)、レバノン内戦へのイランの関与、ペルシャ湾岸の緊張はすべて、1953年のCIAのクーデターに遠因を持つ
- イラク → サダム・フセイン → イラク戦争 → ISIS: CIAが1960年代に支援したバアス党は、後にサダム・フセインの独裁政権となった。アメリカは1991年の湾岸戦争でこの独裁者を「ヒトラー」と呼び、2003年には存在しない「大量破壊兵器」を口実にイラクに侵攻した。イラク戦争後の政治的混乱はISIS(イスラム国)の台頭を招き、中東全域をさらなる混乱に陥れた。CIAが60年前に蒔いた種が、現在もなお世界を不安定化させ続けている
- リビア → 国家崩壊 → 難民危機 → 欧州の政治的動揺: 2011年のカダフィ政権転覆後、リビアは事実上の無政府状態となった。リビアからの武器流出はサヘル地域全体の不安定化を招き、リビアを経由する難民の地中海横断は欧州の難民危機の一因となった。難民危機は欧州各国の右派ポピュリズムの台頭を促進し、EUの政治的統合を動揺させた
帝国主義的介入は必ず代償を伴う。しかしCIAは、ブローバックから教訓を学ぶことなく、同じ過ちを世界中で繰り返し続けている。その理由は構造的なものである。ブローバックの被害を受けるのは現場のアメリカ兵と介入された国の無辜の人々であり、介入を決定したCIAの幹部や政治家は決して責任を問われない。権力の行使と責任の所在が構造的に分離されている限り、CIAはブローバックから学ぶインセンティブを持たないのである。
他国の情報機関との比較
CIAの異常性は、他国の情報機関と比較することで一層明確になる。
イギリス秘密情報部(MI6)
MI6は大英帝国時代から続く世界最古の対外情報機関の一つである。CIAの設立にあたってはMI6がモデルとなり、初期のCIA工作員の多くはMI6から訓練を受けた。
CIAとMI6はイラン・クーデター(1953年)をはじめ数多くの共同作戦を実施してきた。ファイブ・アイズ情報同盟の中核として、英米の情報共有は世界で最も緊密であり、事実上、情報空間においては英米は一体である。MI6がイギリスの衰退とともに相対的に規模を縮小したのに対し、CIAは冷戦を通じて際限なく膨張し続けた。大英帝国が衰退した後、その帝国的機能をアメリカが継承したように、MI6の帝国的情報活動はCIAによって受け継がれ、拡大されたのである。
ロシアの情報機関(FSB / SVR)
ソ連時代のKGBの後継機関であるFSB(国内保安)とSVR(対外情報)は、冷戦期にはCIAと世界的規模で覇権を争ったが、ソ連崩壊後は一時弱体化した。
両者の本質的な差異は、その目的にある。ロシアの情報機関は、冷戦後の西側による「包囲」に対抗し、自国の国家主権を防衛するための機関として機能している。一方、CIAは他国の国家主権を侵害するための機関である。防衛的な情報活動と攻撃的な帝国主義的介入は、その性質が根本的に異なる。西側メディアがロシアの情報活動を「脅威」として報じる一方で、CIAの世界的な介入活動については沈黙するか、「自由世界の防衛」として正当化する。この二重基準こそ、アメリカ帝国のプロパガンダ構造の反映にほかならない。
イスラエル諜報特務庁(モサド)
モサドは小国でありながら世界有数の能力を持つ情報機関であり、「暗殺と拉致の専門家」として恐れられている。モサドの活動はイスラエルの国家生存(National Survival)に直結しており、その意味では国家防衛のための情報機関である。
CIAとモサドは緊密な協力関係にあり、スタックスネットの共同開発はその典型例である。しかし、モサドが小国の生存のために活動するのに対し、CIAの活動の大部分はアメリカの「生存」とは何の関係もない。グアテマラの農地改革やチリの銅山国有化がアメリカの生存を脅かすことなど、あり得ない。CIAの活動は純粋な帝国主義的膨張であり、国家防衛とは根本的に異質なものである。
日本の情報機関との比較
日本には内閣情報調査室(内調)や公安調査庁などの情報機関が存在するが、CIAとは比較にならないほど小規模であり、対外的な秘密工作能力はほぼ皆無である。これは偽日本国憲法による制約と、日米安全保障条約によってアメリカの情報網に従属する構造の結果である。
日本が独自の対外情報能力を持たないことは、日本の国家主権が情報の領域において完全に空洞化していることを意味する。自国の情報を自国で収集・分析する能力なくして、真の独立はあり得ない。
結論
CIAは、アメリカ帝国が世界覇権を維持するために不可欠な暴力装置であり、プロパガンダ装置であり、監視装置である。その70年以上にわたる歴史は、他国の国家主権の蹂躙、民族自決権の否定、民主的政府の破壊、独裁者の擁立、自国民に対する非合法な実験、世界規模の違法監視の歴史にほかならない。
CIAの秘密工作は「陰謀論」ではない。チャーチ委員会の調査報告書、情報自由法に基づく機密解除文書、スノーデンの内部告発によって、その実態は公式に確認されている。にもかかわらず、CIAの犯罪的行為が国際的に裁かれることは決してない。アメリカが法の支配の名の下に他国を裁きながら、自らは一切の法的責任を免れる。これこそが帝国の論理であり、CIAはその最も純粋な体現者である。
日本にとってCIAの存在は、単なる外国の情報機関の問題ではない。CIAは戦後日本の政治構造を内側から規定してきた機関であり、日本民族の民族自決権を秘密裏に侵害し続けてきた機関である。CIAの実態を知ることは、日本の真の独立を考える上で避けて通れない。
参考文献
CIA史・秘密工作
- ティム・ワイナー著『Legacy of Ashes: The History of the CIA(CIA秘録)』(2007年): ピューリッツァー賞受賞記者によるCIAの包括的な歴史。CIAの失敗と欺瞞の70年を膨大な機密解除文書に基づいて記録した決定版
- チャーチ委員会最終報告書(1975-1976年): CIAの秘密工作・暗殺計画・MKウルトラを初めて公式に調査したアメリカ議会の報告書。CIAの犯罪が公式に確認された歴史的文書
- ウィリアム・ブルム著『Killing Hope: US Military and CIA Interventions Since World War II』(2003年): 第二次世界大戦以降のCIAの世界的介入を網羅的に記録。約50カ国への介入の実態を詳述
- スティーブン・キンザー著『Overthrow: America's Century of Regime Change from Hawaii to Iraq』(2006年): ハワイ王国の併合からイラク侵攻まで、アメリカによる政権転覆の100年史
- スティーブン・キンザー著『The Brothers: John Foster Dulles, Allen Dulles, and Their Secret World War』(2013年): ダレス兄弟(国務長官とCIA長官)が世界中で展開した秘密戦争の歴史
- フランシス・ストナー・サンダース著『Who Paid the Piper?: The CIA and the Cultural Cold War(文化冷戦)』(1999年): CIAによる文化・知識人・芸術への浸透工作の全貌を暴露
リアリズム国際政治学
- ハンス・モーゲンソー著『国際政治: 権力と平和(Politics Among Nations)』(1948年): 古典的リアリズムの体系的著作。権力政治の分析枠組みを提供。モーゲンソー自身がベトナム戦争に反対した事実は、リアリストの対外介入批判の先駆けである
- ケネス・ウォルツ著『Theory of International Politics(国際政治の理論)』(1979年): 構造的リアリズム(ネオリアリズム)の創始的著作。国際システムのアナーキーな構造が国家の行動を規定するという理論を提示
- ジョン・ミアシャイマー著『The Tragedy of Great Power Politics(大国政治の悲劇)』(2001年): 攻撃的リアリズムの代表的著作。大国がパワーの最大化を追求する構造的要因を分析
- ジョン・ミアシャイマー著『The Great Delusion: Liberal Dreams and International Realities(大いなる妄想)』(2018年): アメリカのリベラル覇権主義を批判。「民主主義の促進」という名目の対外介入が逆効果であることを論証
- ロバート・ギルピン著『War and Change in World Politics(覇権の変遷と戦争)』(1981年): 覇権国が国際秩序を維持するメカニズムの分析
- チャルマーズ・ジョンソン著『Blowback: The Costs and Consequences of American Empire(アメリカ帝国への報復)』(2000年): CIAの介入が引き起こすブローバック(反動)の分析。9.11同時多発テロの前に刊行された預言的著作
CIAと日本
- 江藤淳著『閉された言語空間: 占領軍の検閲と戦後日本』(1989年): アメリカ占領軍による日本の言論統制の実態。CIAの対日工作の思想的背景を理解する上で不可欠
- ドブ・レヴィン著『Meddling in the Ballot Box: The Causes and Effects of Partisan Electoral Interventions』(2020年): 1946年から2000年までの大国による選挙介入のデータベース。アメリカの選挙介入が81回に及ぶことを実証的に示した研究
関連項目
- CIAの政権転覆工作: CIAが実施した政権転覆工作の詳細
- MKウルトラ: CIAによる非合法な洗脳実験プログラム
- シリコンバレーとCIA: CIAとテクノロジー産業の関係
- ECHELON: ファイブ・アイズによる全世界的通信傍受システム
- PRISM: NSAによるインターネット監視プログラム
- エドワード・スノーデン: NSA/CIAの大規模監視を告発した内部告発者
- スタックスネット: CIA/NSAが開発したサイバー兵器
- ファイブ・アイズ: 英米を中心とする五カ国情報同盟
- ペガサス (スパイウェア): イスラエル製スパイウェアと監視技術の拡散
- インターネットと米軍: インターネットの軍事的起源
- ジャパンハンドラー: アメリカによる対日政治工作のネットワーク
- 帝国主義: 帝国による支配の普遍的構造
- 国家主権: 国家が外部干渉を拒否する絶対的権利
- 民族自決権: 各民族が自らの運命を決定する権利