新自由主義的規制ギロチン

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新自由主義的規制ギロチン

概要

新自由主義的規制ギロチン(Neoliberal Regulatory Guillotine)とは、新自由主義の文脈において、国家の全規制を体系的に総点検し、市場効率性や企業コストの観点から「不要」と判定された規制を一括で廃止する政策手法である。スコット・ジェイコブズ(Jacobs, Cordova & Associates)が2003年に体系化した方法論であり、韓国、スウェーデン、メキシコ、フィリピン、ベトナムなど十数カ国で実施され、合計で25,000件以上の法律・規制が廃止・簡素化された。

規制ギロチンという名称は、フランス革命期の処刑装置ギロチンに由来する。刃が落ちれば即座に切断されるように、審査基準に合致しない規制を迅速かつ一括で廃止することから、この名がつけられた。「Regulatory Guillotine」は現在、Jacobs, Cordova & Associates Inc.の商標として登録されている。

その本質は、IMF世界銀行ワシントン・コンセンサスが推進する新自由主義的規制緩和の体系的手法であり、国民を守る規制を撤廃し、多国籍企業が自由に搾取できる環境を構築する装置として機能してきた。保守ぺディアは、この新自由主義的な規制ギロチンとは正反対の目的を持つ反グローバリズム的悪法ギロチンを提唱する。

起源と歴史的背景

スウェーデンの規制改革(1984年)

規制ギロチンの基本的な発想は、1984年のスウェーデンにおける規制改革に遡る。スウェーデン政府は、施行中の規制の全体像すら把握できないことを発見し、中央に登録されていない数百件の規制を一括で無効化した。

ジェイコブズによる体系化(2003年)

スコット・ジェイコブズはスウェーデンの経験を基に、2003年に規制ギロチンを体系的な方法論として確立した。ジェイコブズは世界銀行やOECDと連携し、この手法を途上国や移行経済国に対する「規制改革」パッケージの中核として輸出した。

この輸出の構造は、新自由主義ワシントン・コンセンサスを通じて世界に拡散した過程と同質である。IMFや世界銀行は、融資の条件として規制ギロチンの実施を各国に要求した。「規制改革」「ビジネス環境の改善」「投資環境の整備」という語彙で包装された規制ギロチンは、その実態において、国民を守る規制を撤廃して多国籍資本に市場を開放する手段であった。

方法論

規制ギロチンは以下の手順で実施される。

第1段階:全規制の棚卸し

国家に存在するすべての規制(法律、政令、省令、通達、行政指導など)を網羅的にリストアップする。多くの国では、施行中の規制の全体像すら把握されていない。棚卸しの段階で、すでに形骸化した規制や、互いに矛盾する規制が大量に発見されることが多い。

第2段階:審査基準の設定

新自由主義的規制ギロチンにおける審査基準は、以下の通りである。

  • 法的正当性: 当該規制の法的根拠は存在するか
  • 市場効率性: 当該規制は市場の効率的な機能を阻害していないか
  • 企業コスト: 当該規制が企業に課すコストは正当化されるか
  • 整合性: 当該規制は他の規制と矛盾していないか

ここで注目すべきは、民族自決権への影響国家主権への影響が審査基準に含まれていないことである。新自由主義的規制ギロチンは、規制が国民や共同体を守る機能を果たしているかどうかを問わない。市場にとって「非効率」な規制は、それが国民生活を保護する規制であっても廃止の対象とされる。

第3段階:迅速な審査

設定した基準に基づいて、全規制を迅速に審査する。審査にかける時間は意図的に短く設定される。長期間の審査は、既得権益者からの反対運動を招き、改革を骨抜きにするからである。韓国では11ヶ月、メキシコでは18ヶ月で審査が完了した。

この「迅速さ」は、ナオミ・クラインが『ショック・ドクトリン』で分析した「ショック療法」の手法と軌を一にする。国民が状況を把握し、反対の声を上げる前に、一括で規制を撤廃してしまう。既成事実を先に作り、後から正当化するのが新自由主義的改革の常套手段である。

第4段階:一括廃止

審査基準に合致しない規制を一括で廃止する。個別の規制ごとに議論するのではなく、「基準を満たさないものはすべて廃止する」という原則を機械的に適用する。

各国の事例

韓国(1998年):IMFの構造調整プログラム

韓国の規制ギロチンは、新自由主義的規制ギロチンの最も典型的な事例である。1997年のアジア通貨危機を契機に、IMFは韓国への救済融資の条件として大規模な規制改革を要求した。

  • 規模: 11,125件の規制を11ヶ月で総点検
  • 結果: 審査対象の約50%(5,430件)の規制を廃止または改善
  • 経済効果: 100万人以上の新規雇用創出、360億ドルの外国直接投資の増加
  • 制度的遺産: 規制改革委員会(Regulatory Reform Committee)が常設機関として設置され、規制の質の管理が継続されている

新自由主義者はこれを「成功」と称えるが、その裏面は以下の通りである。

  • 労働者保護規制の撤廃: 非正規雇用の拡大を可能にする規制緩和が大量に含まれていた。韓国の非正規雇用率はIMF危機前の約16%から2000年代には30%以上に急増した
  • 外資規制の撤廃: 外国資本による韓国企業の買収が容易になった。IMF危機後、韓国の主要銀行は外資の支配下に入った
  • 中小企業保護の弱体化: 大企業優遇政策の一環として中小企業を保護する規制が緩和され、財閥への経済集中がさらに進んだ
  • 社会的セーフティネットの弱体化: 公共部門の規制緩和により、医療・教育・住宅といった分野での市場化が進行した

韓国の規制ギロチンは、危機を利用して国民を守る規制を一括撤廃するショックドクトリンの典型的事例である。「360億ドルの外国直接投資の増加」とは、韓国の資産を外国資本に安値で売却したことの言い換えにすぎない。

スウェーデン(1984年)

  • 経緯: スウェーデン政府は、施行中の規制の全体像を把握できないことを発見した
  • 結果: 中央に登録されていない数百件の規制を一括で無効化
  • 意義: 規制ギロチンの原型となった改革

メキシコ(COFEMER)

メキシコは連邦規制改善委員会(COFEMER、Comisión Federal de Mejora Regulatoria)を設立し、体系的な規制改革を実施した。

  • 規模: 連邦レベルの規制を体系的に総点検
  • 結果: 数千件の規制を廃止・簡素化
  • 手法: 新規規制を導入する際に規制影響分析(RIA)を義務化する制度を導入

メキシコの規制ギロチンは、NAFTA(北米自由貿易協定)の文脈で実施された。NAFTAはアメリカの多国籍企業がメキシコ市場に自由にアクセスするための条約であり、規制ギロチンはNAFTAの履行を促進する手段であった。その結果、メキシコの農業は壊滅的な打撃を受け、アメリカの穀物メジャーに対抗できなくなったメキシコの農民は都市部や国境を越えてアメリカへ流入した。

その他の国々

  • フィリピン: ビジネス許認可手続きの簡素化を中心に規制改革を実施
  • ベトナム: 世界銀行の支援のもと、数千件の行政手続きを総点検・簡素化
  • クロアチア: EU加盟に向けた規制改革の一環として規制ギロチンを実施
  • モルドバ: 事業許可制度の改革として規制ギロチンを導入
  • ケニア: 事業環境改善のために規制ギロチンを実施し、事業登録手続きを大幅に簡素化
  • パキスタン: 英国国際開発省(FCDO)の支援のもと、大規模な規制ギロチンを実施

これらの国を合わせて、規制ギロチンにより25,000件以上の法律・規制が廃止・簡素化され、年間約80億ドルの企業コスト削減効果があったとされる。規制ギロチンの費用対効果は、10年間で3,000対1以上と評価されている。

しかし、「企業コストの削減」とは多くの場合、労働者保護・環境規制・国内産業保護といった国民を守る規制の撤廃を意味する。世界銀行やOECDが「成果」として提示する数字の裏に、破壊された共同体と搾取された国民が存在することを忘れてはならない。

新自由主義的規制ギロチンの構造的問題

ワシントン・コンセンサスの道具

新自由主義的規制ギロチンは、ワシントン・コンセンサスの10の政策処方箋を実現するための実行手段にほかならない。ワシントン・コンセンサスが要求する規制緩和、民営化、貿易自由化、外資自由化を、迅速かつ大規模に実施するための方法論として規制ギロチンは開発された。

IMFと世界銀行は、経済危機に陥った国に対して融資の条件として規制ギロチンの実施を要求する。韓国の事例がこれを如実に示している。国家が経済的に最も脆弱な状況に置かれたとき、その弱みに付け込んで国民を守る規制を一括撤廃させる。これはナオミ・クラインが指摘した「惨事便乗型資本主義」の政策手法そのものである。

「効率性」という偽りの中立性

新自由主義的規制ギロチンの審査基準は、「効率性」「コスト」「必要性」といった一見中立的な概念で構成されている。しかし、これらの基準は決して中立ではない。

「効率性」とは誰にとっての効率性か。多国籍企業にとって「非効率」な規制は、国民にとっては不可欠な保護措置であることが多い。労働者の最低賃金規制は企業にとって「コスト」であるが、労働者にとっては生存の条件である。環境規制は企業にとって「障壁」であるが、住民にとっては健康と生活の保証である。外資規制は投資家にとって「参入障壁」であるが、国民にとっては国家主権の防壁である。

新自由主義的規制ギロチンが「不要」と判定する規制の多くは、実は民族共同体を守るための規制である。審査基準自体がグローバリストの利益に奉仕するように設計されている以上、その結論が国民の利益に反するのは当然である。

国家主権の体系的解体

新自由主義的規制ギロチンは、国家主権を体系的に解体する手段として機能する。規制とは、国家が市場に対して行使する主権の具体的な表現である。外資規制、土地取得規制、労働者保護規制、産業保護規制は、いずれも国家が主権を行使して共同体を守る行為である。

これらの規制を「非効率」として一括廃止することは、国家主権を一括で放棄することにほかならない。カール・ポランニーが『大転換』で警告した、市場の「脱埋め込み」を制度的に遂行するのが新自由主義的規制ギロチンである。

現代の変種:ミレイとトランプの規制緩和

新自由主義的規制ギロチンの手法は、現代の政治指導者によって形を変えて実践されている。

ミレイの緊急大統領令(2023年)

ミレイ大統領は2023年12月の緊急大統領令70/2023号で300件以上の法律・規制を一括で廃止した。その内容は賃貸規制法の撤廃、物価統制の廃止、国営企業の民営化、労働市場の自由化であった。2024年7月の「基本法」(Ley de Bases)では、エネルギー、鉄道、メディアなど国家戦略産業の民営化が推進された。

その結果、アルゼンチンでは電気料金が300%以上高騰し、貧困率は2024年に53%に達した。国民の生活を犠牲にして市場を「自由化」するミレイの政策は、ショックドクトリンの教科書的な事例にほかならない。

トランプの2-for-1ルール(2017年)

トランプ大統領は「新たな規制を1件制定するたびに既存の規制を2件廃止する」(2-for-1ルール)を大統領令13771号(2017年)で命じた。第一期で規制コストを1,980億ドル削減したと主張し、連邦規則集のページ数を削減した。

しかし、廃止された規制の多くは環境保護規制、労働安全規制、金融規制であり、国民を守る規制を撤廃して多国籍企業に利益を供与するものであった。これもまた新自由主義的グローバリズムの政策である。

反グローバリズム的悪法ギロチンとの対比

新自由主義的規制ギロチンとは正反対の目的を持つ手法として、保守ぺディアは反グローバリズム的悪法ギロチンを提唱する。

新自由主義的規制ギロチン 反グローバリズム的悪法ギロチン
審査基準 市場効率性、企業コスト 民族自決権への影響、国家主権への影響
廃止対象 市場参入規制、労働者保護規制、環境規制 移民拡大法、規制緩和法、民営化法、女性活躍推進法
目的 多国籍企業のコスト削減、外国直接投資の誘致 グローバリストの悪法の排除、主権の回復
受益者 多国籍企業、資本家 国民、中間層
国際秩序との関係 国際的な自由化の流れに迎合 国際的な自由化圧力に抵抗
歴史的位置づけ ワシントン・コンセンサス、帝国主義 主権回復、反植民地主義

規制ギロチンという手法(メカニズム)は強力であり、大量の法律を迅速かつ体系的に廃止する能力を持つ。問題は、何を廃止するかである。新自由主義的規制ギロチンは国民を守る規制を廃止し、反グローバリズム的悪法ギロチンはグローバリストが押し付けた悪法を廃止する。同じ手法でありながら、その目的と結果は正反対となる。

結論

新自由主義的規制ギロチンは、IMF・世界銀行・ワシントン・コンセンサスが途上国や経済危機に陥った国に対して強制する、国家主権の体系的解体手段である。「効率性」「コスト削減」「ビジネス環境の改善」という中立的な語彙で包装されているが、その本質は国民を守る規制を撤廃し、多国籍資本に市場を開放することにある。

韓国、メキシコ、アルゼンチンの事例が示す通り、新自由主義的規制ギロチンが「成功」した国では、外資が流入し、格差が拡大し、中間層が破壊された。日本は、この新自由主義的規制ギロチンを採用してはならない。日本が採用すべきは、グローバリストの悪法を対象とする反グローバリズム的悪法ギロチンである。

関連項目

参考文献