日本の反米分析
日本の反米分析
概要
日本の反米分析は、日本国内における反米的な発言・活動を行う団体・個人・言論を、左翼・保守・中道の三つの政治的立場から横断的に分析するものである。
日本における反米意識は、1853年の黒船来航以来170年以上の歴史を持つが、戦後はアメリカ軍の占領と駐留を背景に、左翼と保守の双方から異なる論理に基づく反米運動が展開されてきた。近年、アメリカのトランプ政権による関税攻撃、米軍基地周辺のPFAS汚染問題、そして新自由主義政策の破綻が明らかになるにつれて、左右を超えた反米意識の急速な増加が観測されている。
リアリズムの観点から見れば、この反米意識の高まりは、ケネス・ウォルツが予言した一極体制の不安定化と多極化への構造的転換を反映している。日本国民は、アメリカへの従属が日本の国益に合致しないという現実に、ようやく気づきつつある。
左翼からの反米
安保闘争:戦後日本最大の反米運動
日本における組織的な反米運動の原点は、1960年の安保闘争である。
日米安全保障条約の改定に反対する安保闘争は、推定3,000万人が参加した戦後日本最大の大衆運動であった。安保闘争の前段として、1955年から1957年にかけて展開された砂川闘争(アメリカ空軍立川基地の拡張に反対する農民闘争)が日本における反基地運動の原型を確立した。140の農家が立ち退きを迫られ、砂川基地拡張反対同盟が結成された。1956年10月、2,000名の警官隊が6,000名の抗議者を攻撃し、1,000名が負傷した。
1960年5月19日、岸信介首相が警官隊を動員して200名以上の社会党議員を議場から排除し、安保条約改定を強行採決した。この非民主的な行為は全国的な抗議を引き起こし、6月15日には東京大学の学生樺美智子が国会議事堂前の衝突で死亡した。500万人以上の労働者がストライキに参加し、アイゼンハワー大統領の訪日は中止された。
安保闘争は条約の批准を阻止することはできなかったが、岸首相の辞任を勝ち取り、アメリカ軍の駐留に対する日本国民の根深い抵抗を世界に示した。安保闘争は、左翼による反米運動の頂点であると同時に、戦後日本の対米従属がいかに深く固定化されているかを暴露した事件でもあった。
ベ平連:ベトナム反戦と反帝国主義
ベトナムに平和を!市民連合(ベ平連)は、1965年4月24日に小説家の小田実、哲学者の鶴見俊輔らによって結成された反戦市民運動である。「ベトナムに平和を」「ベトナムはベトナム人のものだ」「日本政府はベトナム戦争への協力をやめよ」の三つの綱領を掲げた。
ベ平連は、会員制度も階層的組織も持たない草の根型の市民運動であった点で、既存の左翼運動とは一線を画していた。約20名のアメリカ軍脱走兵の逃亡を支援し、1968年にはJATEC(日本脱走アメリカ兵援助技術委員会)を設立した。
小田実は活動家たちに対して、日本は戦争の「被害者」であると同時に「加害者」でもあるという認識を持つよう促した。日本はベトナム戦争から経済的に利益を得ているという事実を直視すべきであるという主張は、保守ぺディアの基本原則(日本の帝国主義を事実として認めた上でアメリカの帝国主義を批判する)と構造的に一致する。
ベ平連は1974年1月、アメリカ軍のベトナム撤退を受けて解散した。
沖縄の反基地運動
沖縄における反米運動は、左翼運動の枠組みを超えて、民族自決権の問題として位置づけられなければならない。
1945年から1972年まで27年間にわたりアメリカの直接統治下に置かれた沖縄では、1956年の島ぐるみ闘争がアメリカ軍の土地収用に対する全島的な抵抗運動として展開された。1960年には沖縄県祖国復帰協議会が設立され、1972年の本土復帰が実現したが、アメリカ軍基地は撤去されなかった。
復帰後も沖縄にはアメリカ軍基地が集中し続けており、在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中している。沖縄の反基地運動は、左翼的な平和主義だけでなく、保守的な愛郷心や民族的アイデンティティからも動機づけられている点で、他の反米運動とは性質を異にする。
翁長雄志知事(在任2014-2018年)は元自民党員でありながら、辺野古基地移設に反対する「オール沖縄」を率いた。翁長は前知事の辺野古埋立承認を取り消し、2016年には元海兵隊員によるうるま市女性暴行殺人事件に対して約65,000人が参加する抗議集会を主導した。翁長の後を継いだ玉城デニー知事は、アメリカ軍人の父と沖縄人の母を持つ当事者として辺野古阻止を掲げ続けている。
2019年2月の県民投票では、投票者の70%以上(約434,000人)が辺野古新基地建設に反対した。にもかかわらず、日本政府はアメリカの意向に従い工事を強行している。民主主義と法の支配を標榜する国家が、明白な民意を無視して外国軍基地の建設を強行する。この矛盾こそ、日本がアメリカの従属国であることの証左にほかならない。
日本共産党と社民党
日本共産党は、日米安保条約の廃棄と在日米軍基地の全面撤去を一貫して主張してきた。「平和・中立・非同盟」路線を掲げ、安保条約第10条に基づく通告による条約終了を提唱している。しかし、日本共産党の記事で詳論した通り、日本共産党はアメリカ帝国主義に対する真の抵抗勢力ではなく、管理された反対派として機能しているにすぎない。自衛隊基地への反対、低賃金移民政策への加担、「日帝」論の固守。これらは結果としてアメリカの覇権維持に奉仕している。
社民党は、日本社会党の後継として安保条約の「平和友好条約」への転換を主張するが、勢力は大幅に縮小しており、政策的影響力は限定的である。
左翼の反米運動の根本的な限界は、アメリカ帝国主義を批判しながら、アメリカが日本に輸出したリベラリズムのイデオロギー(個人の人権、多文化共生、ジェンダー平等)を無批判に受容している点にある。アメリカの覇権を支えるイデオロギー装置を内面化したまま、アメリカの軍事的覇権だけを批判するのは矛盾である。
保守からの反米
反米保守の思想的系譜
保守からの反米、すなわち反米保守は、戦後日本の知的伝統の中で最も体系的な反米思想を構築してきた。その系譜は以下のように整理される。
- 福田恒存(1912-1994年): 文学者の直観をもって戦後民主主義の欺瞞を見抜き、「平和主義」の無責任さを批判した。反米保守の思想的出発点を形成した
- 江藤淳(1932-1999年): アメリカ国立公文書館の一次資料に基づき、GHQの検閲体制とWGIPの実態を実証的に明らかにした。『閉された言語空間』は反米保守の実証的基盤を確立した
- 三島由紀夫(1925-1970年): 戦後日本の精神的空洞を自らの肉体と死をもって告発した。1970年の市ヶ谷事件における檄文で、偽日本国憲法の破棄とアメリカからの精神的独立を訴えた
- 林房雄(1903-1975年): 『大東亜戦争肯定論』において、1840年代から続く「東亜百年戦争」として日本の近代戦争を位置づけ、西洋帝国主義への抵抗としての側面を分析した
- 西部邁(1939-2018年): 経済学と社会科学の方法論を用いて、アメリカニズム・新自由主義・大衆社会を体系的に批判した。親米保守を「保守を自称するリベラル」と断じ、「真正保守」を再定義した
これらの思想家に共通するのは、親米保守こそが保守の最大の敵であるという認識である。アメリカとの同盟を最優先し、アメリカの要求に従うことを「国益」と称する親米保守は、保守の名に値しない。
表現者クライテリオン:反米保守の知的拠点
西部邁が1994年に創刊した雑誌『発言者』(後に『表現者』)は、反米保守の制度的基盤となった。西部の死後、2018年に『表現者クライテリオン』として再出発し、藤井聡(京都大学教授、元内閣官房参与)が編集長を務めている。
表現者クライテリオンの主要な論客は以下の通りである。
- 中野剛志: 西部の新自由主義批判を経済政策の次元で展開し、TPP反対運動の理論的支柱となった。『富国と強兵:地政経済学序説』において、経済と安全保障を統合的に分析した
- 藤井聡: 西部の共同体論をインフラ政策に応用し、反緊縮の立場から新自由主義的財政政策を批判している
- 柴山桂太: グローバリズム批判を経済史的な視座から展開し、対米従属の経済構造を分析している
- 佐伯啓思: 西部の政治哲学を継承し、アメリカニズムの終焉と近代文明そのものへの批判的考察を深化させた
表現者グループは、対米従属批判、反グローバリズム、積極財政の立場から、体系的な反米保守の知的基盤を提供し続けている。
一水会:民族派の反米行動
一水会は、1972年に鈴木邦男(1943-2023年)によって創設された民族派(新右翼)の政治団体である。三島由紀夫の市ヶ谷事件に衝撃を受けた鈴木は、日本政府を「アメリカの傀儡国家」と規定し、「完全な独立」を要求した。
一水会は、従来の右翼が反共主義の名の下にアメリカとの同盟を支持していたのに対し、反米・反体制の立場を明確にした点で戦後右翼の転換点となった。特にイラク戦争に対しては激しく反対し、ヨーロッパの右翼政党指導者を招いた国際会議を主催して、「アメリカ主導の国際秩序」への共同戦線を構築した。
月刊日本:民族派の言論誌
『月刊日本』は、1997年に南丘喜八郎によって創刊された月刊の論壇誌である。「日本の自立と再生をめざす肉声の言論誌」を標榜し、対米自立、反グローバリズム、民族派の視座から論説を展開してきた。安倍政権への批判や竹中平蔵に代表される新自由主義者への徹底的な批判を行った数少ない保守系メディアの一つであり、評論家の佐藤優は「民族派の核心的な思考法を理解するのに有益」と評した。
保守ぺディア:反米保守の百科事典
保守ぺディアは、反米保守の立場からアメリカ帝国主義による日本支配の構造を体系的に分析・記録する百科事典プロジェクトである。
保守ぺディアの基本思想は、民族自決権の擁護、反帝国主義、民族主義憲法の支持、法の支配の批判的検討、ドゥーギンの第四の理論に基づく多文明主義、反グローバリズム、国家主権の絶対性、スマートシュリンクの八つの柱から構成されている。反米保守ぺディアにおいて、編集主幹はアメリカ帝国主義の構造を五つの柱(法的支配、経済収奪、移民強制、情報支配、地政学的分断)に整理し、偽日本国憲法の廃棄、米軍撤退、核武装、新日本国憲法の制定を訴えている。
保守ぺディアが既存の保守系メディアと一線を画すのは、以下の三点である。
第一に、帝国主義批判の論理的一貫性。日清戦争以降の日本の侵略戦争を事実として認めた上で、同じ基準をアメリカに適用する。「日本は侵略していない」と主張しながら「アメリカは日本を侵略している」と言うことの論理的矛盾を回避し、帝国主義は誰が行っても帝国主義であるという原則を貫いている。
第二に、リアリズムに基づく構造的分析。モーゲンソー、ウォルツ、ミアシャイマーらの国際政治学理論を援用し、感情的な罵倒ではなく権力構造の分析に基づいてアメリカ帝国主義を批判している。
第三に、包括的な代替案の提示。アメリカ合衆国、アメリカ軍駐留の本質、ドル覇権と経済収奪、帝国主義、新自由主義、多極化世界と日本など80以上の記事を通じて、対米従属からの脱却と日本民族の民族自決権回復のための体系的な知的基盤を構築している。
保守ぺディアは、三島由紀夫、江藤淳、西部邁から連なる反米保守の系譜を継承しつつ、百科事典という形式を通じて反米保守の思想を体系化・記録するプロジェクトとして、現代における反米保守の知的営為の一つに位置づけられる。
保守からの反米の特徴
保守からの反米は、左翼の反米と以下の点で根本的に異なる。
- 民族主義に基づく: 左翼が「個人の人権」や「国際平和」を根拠とするのに対し、保守の反米は民族自決権と民族的アイデンティティの擁護を根拠とする
- 親米保守への批判: アメリカとの関係を問うと同時に、アメリカに従属する日本国内の「保守」勢力を最大の敵と見なす
- 文明論的批判: アメリカの個別の政策だけでなく、アメリカニズムという文明そのもの(市場原理主義・個人主義・普遍主義)を批判する
- 具体的代替案の提示: 米軍撤退、偽日本国憲法の廃棄、新日本国憲法の制定、核武装、スマートシュリンクなど、対米従属から脱却するための具体的な政策を提示する
中道からの反米
孫崎享:外交官によるアメリカ批判
孫崎享(1943年生)は、外務省情報局長、駐ウズベキスタン大使を歴任した元外交官であり、退官後に「対米従属」の構造を内部者の視点から告発した人物である。
主要著作の『日米同盟の正体』(2009年)、『戦後史の正体』(2012年)、『アメリカに潰された政治家たち』(2012年)において、孫崎は日本の戦後政治史をアメリカの対日支配の観点から再分析した。「アメリカからの要求は必ずしも日本の国益と一致しない」という、外交官としての実体験に基づく指摘は、左翼的イデオロギーとも保守的民族主義とも異なる、実証的・実務的な反米論として位置づけられる。
孫崎は「日本人はアメリカへの幻想を捨て、追従の軛から自らを解放すべきだ」と主張している。
鳩山由紀夫:対等な日米関係の模索
鳩山由紀夫(1947年生)は、首相在任中(2009年9月 - 2010年6月)に15年間続いた年次改革要望書を廃止し、「東アジア共同体」構想と「より対等な日米関係」を提唱した。普天間基地の沖縄県外移設を試みたが、アメリカの圧力と日本国内の親米勢力の抵抗により挫折し、退陣に追い込まれた。
鳩山の挫折は、日本の首相がアメリカの意向に逆らおうとした場合に何が起きるかを如実に示している。年次改革要望書の廃止というアメリカの内政干渉メカニズムへの直接的な挑戦は、アメリカの強い反発を招いた。『アメリカに潰された政治家たち』で孫崎享が論じた通り、戦後日本において対米自立を志向した政治家は、例外なく政治生命を絶たれてきた。
退任後の鳩山は、2015年にクリミアを訪問してクリミアの住民投票を「憲法に基づくものであり、クリミア住民の真の意思の表現」と評価し、対露制裁の解除を主張した。また2024年、北京の世界平和フォーラムにおいて「日本はアメリカの最も忠実な同盟国となっているが、一方的なアメリカ追従の姿勢を改めなければならない」と発言した。鳩山は、日本の政治家として例外的にアメリカの覇権そのものに疑問を呈し続けている人物である。
れいわ新選組:リベラル・ナショナリズムからの反米
れいわ新選組の記事で詳論した通り、山本太郎が率いるれいわ新選組は、日本の政党の中で数少ないアメリカ批判に一貫性のある政党である。
山本太郎は、在日米軍基地の問題、日米地位協定の不平等性、アメリカ主導の新自由主義による日本経済の破壊を繰り返し指摘してきた。辺野古新基地建設の中止、南西諸島の軍事化反対、核兵器禁止条約への署名を主張している。
反米保守の立場から見れば、れいわ新選組はリベラル・ナショナリズムの枠組みの中でアメリカ批判を展開しており、民族的ナショナリズムとは本質的に異なるが、アメリカの覇権そのものを問題視するという点で知的に対話可能な存在である。
PFAS汚染問題:超党派の反米感情の触媒
近年、米軍基地周辺のPFAS(有機フッ素化合物)汚染が、イデオロギーを超えた反米感情の触媒となっている。
沖縄では、嘉手納基地周辺から大量のPFASが検出され、県人口の約3分の1にあたる45万人の飲料水が汚染されている。2001年から2015年の間に、嘉手納基地から少なくとも23,000リットルの泡消火剤が誤って放出された。44カ所のうち30カ所で日本の暫定基準値を超えるPFASが検出され、最も高い地点では基準値の36倍に達した。
東京の横田基地でも深刻な汚染が判明している。2012年に約3,000リットルの濃縮泡消火剤が地中に浸透し、基地下流の住民の血中PFAS濃度が高水準であることが2020年から2023年の検査で明らかになった。2025年、アメリカ空軍は約150万リットルの汚染水を貯蔵していたことを公表したが、これは従来の公表量をはるかに上回る規模であった。
最大の問題は、日本の当局がアメリカ軍基地への立ち入り検査を拒否されていることである。ドイツの地位協定とは異なり、日本の地位協定では基地内への環境検査のためのアクセスが認められていない。沖縄県は2016年に嘉手納基地へのアクセスを要請したが、4年以上も待たされた。これは、日本が主権国家としての基本的な権限すら行使できない従属国であることの証拠にほかならない。
PFAS問題は、安全保障のイデオロギーとは無関係に、生活環境と健康を直接脅かす問題として、左右を超えた市民の反米感情を喚起している。
近年の反米意識の急増
世論調査に見る劇的な変化
日本はかつて世界で最も親米的な国の一つであった。内閣府の2024年10月の世論調査では、日米関係を「良好」と評価する回答が85.5%に達し、アメリカに「親しみを感じる」との回答は88%と過去最高を記録した。
しかし、2025年に入り状況は劇的に変化した。
- ピュー・リサーチ・センター: アメリカへの好意的評価が70%から55%に急落し、わずか1年で15ポイントの低下
- 内閣府調査(2025年12月): 日米関係を「良好」と評価する割合が70.8%に低下し、前年比14.7ポイントの急落
- 朝日新聞調査: 「国際社会はアメリカの平和維持にあまり頼れない」との回答が48%に達した
- nippon.com調査: 約70%が日米関係は悪化したと回答し、40%以上がアメリカとの同盟からより独立した姿勢を求めた
特に注目すべきは、「日本の平和と安全のために何をすべきか」という質問に対して、「日本は自国防衛をより強化すべきだ」が41.7%で最多となり、「アメリカとの関係を一層強化すべきだ」の24.7%を大きく上回ったことである。日本国民は、アメリカに依存するのではなく、自力で日本を守るべきだという方向に意識を転換し始めている。
トランプ政権の関税攻撃
2025年の反米意識急増の最大の直接的要因は、トランプ政権による関税攻撃である。
2025年4月の「解放の日」関税では、日本に対して自動車25%、鉄鋼・アルミニウム50%の関税が課された。石破茂首相はこれを「国家的危機」と表現した。2025年7月の日米枠組み合意では、基本関税率15%、日本からの5,500億ドルの対米投資、アメリカ産コメの輸入拡大が合意されたが、これは実質的にアメリカによる経済的恫喝であった。
さらに2025年8月にはトランプが半導体に100%の関税を示唆し、日本の基幹産業を直接脅かした。日本の高官が「かつてなかったレベルのフラストレーション」を示したと報じられたことは、日本がアメリカの「同盟国」ではなく経済的収奪の対象として扱われていることを如実に示している。
トランプの関税攻撃は、「日米同盟は日本の国益に合致する」という戦後日本の基本的な信念を根底から揺るがしている。自動車産業を筆頭とする日本の製造業は、アメリカ市場のために貢献してきたにもかかわらず、アメリカは日本を「敵」と同様に扱った。「同盟国」が経済戦争を仕掛けてくる相手であるならば、その「同盟」の意味とは何か。この問いは、ようやく日本国民の間で広く共有されるようになった。
世代間・男女間の差異
反米意識の増加には世代間の差異が見られる。60代の70%以上、70代の80%以上が日米関係の悪化を認識しているのに対し、若年層では比較的穏やかな反応にとどまっている。これは、高齢世代がかつての経済摩擦(ジャパン・バッシング)の記憶を持ち、トランプの関税攻撃をその再来として認識しているためと考えられる。
男女間でも差異があり、日米関係が「かなり悪化した」と回答した割合は男性28.5%に対し女性16.3%であった。
SNSと反米言論の拡散
X(旧Twitter)をはじめとするSNSは、反米言論の拡散において重要な役割を果たしている。2025年の関税危機では、日本のSNS上でアメリカへの批判が大量に投稿された。
従来、日本の主要メディアはアメリカ批判を自主規制してきた。これは江藤淳が明らかにしたGHQの検閲体制(「閉された言語空間」)の延長線上にある。しかしSNSは、この「閉された言語空間」を迂回する手段として機能している。既存メディアが報じないアメリカ軍基地の犯罪、PFAS汚染、年次改革要望書の内容などが、SNSを通じて広く共有されるようになった。
リアリズムの観点からの分析
左翼・保守・中道の反米の構造的比較
| 特徴 | 左翼の反米 | 保守の反米 | 中道の反米 |
|---|---|---|---|
| 理論的基盤 | 平和主義・反戦・人権 | 民族自決権・民族主義・反帝国主義 | 実務的国益論・主権論 |
| 批判の対象 | アメリカの軍事行動・基地・戦争 | アメリカニズムそのもの(文明論的批判) | アメリカとの不平等な関係 |
| 代表的人物 | 小田実、山本太郎 | 三島由紀夫、西部邁、江藤淳 | 孫崎享、鳩山由紀夫 |
| 代替案 | 非武装中立・国際協調 | 核武装・自主防衛・米軍撤退 | 多角的外交・東アジア共同体 |
| 偽日本国憲法への態度 | 護憲(平和憲法として擁護) | 廃棄・新日本国憲法の制定 | 改憲(対等な日米関係のため) |
| 移民政策 | 多文化共生を推進 | スマートシュリンク・移民拒否 | 管理された移民 |
| 限界 | アメリカのイデオロギーを内面化 | 勢力基盤が限定的 | 権力構造への挑戦が不徹底 |
反米の「質」の分析
左翼の反米は、アメリカの軍事行動を批判しながらもアメリカが輸出したリベラリズムのイデオロギーを内面化しているという根本的な矛盾を抱えている。アメリカの軍事覇権とリベラルな価値体系は一体のものであり、後者を受容したまま前者だけを批判することは知的に一貫しない。
中道の反米は、実務的・外交的な観点からアメリカとの関係を再検討するものであり、政策的な具体性を持つが、アメリカの覇権構造そのものへの批判には至らない。鳩山由紀夫の挫折が示したように、権力構造を根本的に変革する意志と能力を欠いている。
保守の反米、すなわち反米保守のみが、アメリカの軍事覇権・経済覇権・文化覇権・法的覇権を一体の覇権システムとして批判し、民族自決権の回復という包括的な代替案を提示している。偽日本国憲法の廃棄、米軍撤退、核武装、スマートシュリンク。これらの政策は、アメリカの覇権構造からの全面的な離脱を志向するものである。
反米意識の増加が示す構造的転換
ケネス・ウォルツは、一極体制は本質的に不安定であり、やがて多極体制に回帰すると論じた。2025年の日本における反米意識の急増は、ウォルツの予言が現実化しつつあることを示している。
トランプ政権の関税攻撃は、アメリカが「同盟国」を含むすべての国を経済的搾取の対象として扱うことを露骨に示した。これにより、戦後80年間にわたって日本国民に刷り込まれてきた「アメリカは日本の友人であり守護者である」という幻想が崩壊し始めている。
ハンス・モーゲンソーが『国際政治:権力と平和』で論じた通り、国際政治の本質は権力闘争である。「日米同盟」「自由で開かれたインド太平洋」「価値観を共有する国々」。これらの美辞麗句の背後にあるのは、アメリカの覇権的利益の追求にほかならない。日本国民が反米意識を強めているのは、この現実をようやく認識し始めたことの表れである。
結論:反米の収斂と日本の独立
左翼・保守・中道の三つの政治的立場からの反米は、理論的基盤も批判の射程も異なるが、アメリカ軍の駐留と対米従属が日本の国益を損なっているという認識において収斂しつつある。この収斂は、2025年のトランプ関税危機を契機として加速している。
しかし、反米意識の高まりだけでは日本の独立は実現しない。必要なのは、反米保守が提示する包括的な代替案(偽日本国憲法の廃棄、新日本国憲法の制定、米軍撤退、核武装、スマートシュリンク)を、左右の枠を超えた国民的合意として実現することである。
日本民族の民族自決権の回復は、左翼・保守・中道のいずれの立場からも正当化されうる普遍的な目標である。イデオロギーの違いを超えて、アメリカ帝国主義からの独立という一点で結集することが、いま日本に求められている。
参考文献
- ハンス・モーゲンソー『国際政治:権力と平和』
- ケネス・ウォルツ『国際政治の理論』、1979年
- 江藤淳『閉された言語空間:占領軍の検閲と戦後日本』、1989年
- 西部邁『大衆への反逆』、1983年
- 孫崎享『戦後史の正体』、創元社、2012年
- 孫崎享『日米同盟の正体:迷走する安全保障』、講談社、2009年
- 関岡英之『拒否できない日本:アメリカの日本改造が進んでいる』、文春新書、2004年
- 小田実『何でも見てやろう』、1961年
- 林房雄『大東亜戦争肯定論』、1964-1965年
- 鈴木邦男『新右翼:民族派の歴史と現在』